さよなら「ダンテ・ボッティーニ」~坂本正秀が語る錦織圭の元コーチの素顔

「今の圭があるのはダンテのおかげだ」

 皆さんもご存知のように、圭は昨年からコーチにマイケル・チャンを迎えました。このとき、なぜダンテを切らなかったのかと言えば、答えは簡単で、ダンテも必要だったからです。

圭とダンテの関係はうまくいっている。不満は何ひとつない。しかし、トップ10に上がるためには何かが足りない。パズルで言えばピースがひとつ足りなかった。そこにチャンというピースを加えただけであって、ダンテというピースを外す必要も意味もなかったのです。

 ただ、チャンがコーチになると聞いたとき、私には数年前のブラット・ギルバートのことが思い浮かびました。ギルバートは世界ランク4位まで上がった選手でしたし、コーチとしての実績も十分でしたが、圭とは合わなかったと思いますし、ダンテとも合わないように感じました。「俺がブラット・ギルバートだ」という感じで威圧感があり、結局、ギルバートとの関係は長くは続かなかったのです。

 しかし、チャンとギルバートは大きく違いました。チャンは最初に圭に「コーチはダンテだ。僕はその足りない部分を助けるよ」とチームに言ったそうです。チャンがダンテを認めてくれていることがわかり、圭もダンテもうれしかったと思います。圭がダンテを必要としていることを、チャンはよくわかっているのです。それはダンテにとってもうれしいこと。あのチャンが自分をコーチとしてリスペクトしてくれている。「今の圭があるのはダンテのおかげだ」とまでチャンに言われたら、それはもう必死にやるしかないでしょう。

 ギルバートとの関係が終わったとき、ダンテはすごく必死に圭をサポートしていました。これからは自分が何とかしないといけないと思ったのでしょう。少し変わりました。今回もチャンがチームに加わったことで圭だけでなく、ダンテにも変化があったように思います。ダンテにすればチャンに負けていられないと思いますし、いないときでも、いやいないときこそ好成績を残したいと思っているでしょう。

 圭にとってはチャンが厳格な父親で、ダンテが優しい母親と言えばわかりやすいでしょうか。トップ10に入るためには、厳しい父親の存在が必要でした。しかし、いつもいっしょにいては息がつまる。気持ちが休まらない。父親は大事なときに来てくれてアドバイスをして鍛えてくれればいい。あとは母親の仕事――チャンがスポット参戦でダンテがフルコーチというのは、圭にとってベストな環境だと思います。チャンがいないときはあっても、ダンテがいないときはありませんから。

 誤解しないでもらいたいのは、チャンが厳しく、ダンテが優しいというわけではありません。チャンにも優しさがあり、ダンテにも厳しさはあります。例えば、圭が少し痛みがあると洩らせば、我々は「どこ?」「大丈夫?」「できる?」と心配になりますが、ダンテは「誰でも痛みはある」「ノープロブレムだ」と突き放す。「お前たちは少し甘やかしすぎだよ」と言われたこともありました。

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