さよなら「ダンテ・ボッティーニ」~坂本正秀が語る錦織圭の元コーチの素顔
錦織圭がダンテ・ボッティーニとのコーチ契約を解消したのは2019年末のこと。マイケル・チャンとの二人三脚で錦織を指導してきたが、「新しい声を取り入れるべき」という錦織の考えによるものだった。ボッティーニの存在は、いったいどのようなものだったのか。「チーム圭」をよく知る坂本正秀氏に2015年に聞いた記事から。【2015年3月号掲載】
PROFILE|坂本正秀
さかもと・まさひで◎1974年7月2日生まれ。東京都武蔵野市出身。ジュニア時代は桜田倶楽部で飯田藍コーチに師事。中学卒業後に渡米し、ニック・ボロテリー・テニス・アカデミーに入門。92年USオープン・ジュニア出場。ペパーダイン大学では主将を務め、卒業後はプロサーキットを転戦。引退後は不田涼子、クルム伊達公子のツアーコーチ、実業団などのコーチも務め、現在は錦織圭、ノバク・ジョコビッチらトッププレーヤーのサポートに携わる。WOWOW解説者としても活躍中。日本テニス協会公認S級エリートコーチ。ユニクロアドバイザー
マイペースのふたり
ダンテはアルゼンチン人。現在35歳で以前は選手でしたが、世界最高位が827位(97年9月)であることからもわかるように、実績のある選手ではありません。現役を退き、コーチとしてIMGアカデミーで仕事(コーチ)をしていたときに圭と出会いました。
ダンテが圭のコーチに就いたのは2010年の年末。それまで圭にはグレン・ワイナーというコーチがいましたが、3年という期間を経て終了となり、ダンテが新しく圭のコーチになったわけです。これはもちろん圭の希望で、僕も圭から「来年からダンテと組もうと思っています」と聞いた憶えがあります。
ふたりの最初の遠征は2011年の開幕戦、インドのチェンナイでした。私はそこで気になったことがあって、圭が初戦を突破したときにダンテのほうを見なかったんです。負けたらともかく、普通は勝った瞬間か、あるいは相手と握手をしたあとに自分の陣営のほうを見るもの。これまではそうだったのに、そのとき圭はしなかった。
それで私はダンテに思いきって「思うことある?」と聞いたら、「なんだよ、そんなこと気にするな」と。「圭とは始まったばかりじゃないか」とうなずいたんです。そのときに感じたのは心が広いな、こんなタイプなら圭とはうまくいくかなということでした。
正直に言うと、最初は長く続くかどうか疑問でした。僕もダンテのことをあまり知らなかったこともありますが、南米の楽天家のイメージだけで、圭というよりも日本選手と合うのかなと。ただ、付き合っていくうちにわかってきたんですが、意外と日本人っぽい性格で、しっかりしているんです。
勤勉で、責任感もあり、指導も細かい。これは圭と合うなということがわかってきました。ダンテも圭もマイペースでお互いに気を遣わない。圭にすれば自分に気を遣ってほしくないし、過剰な気遣いは疲れるだけですから、いっしょにいて心地がいいのだと思います。
例えば昨年のことですが、食事に行くことになってロビーに集合したのですが、圭が治療などで5~10分ほど遅れることになりました。私やトレーナーは「じゃあ待とうか」となったんですが、ダンテは「行こうよ」と。「圭は子供じゃない。今の圭なら(大会から)車がつくし、ひとりで来られるよ」と。
数日後に今度はダンテが集合に遅れることがありました。圭はもう車に乗っていて、我々が車の前で待っていました。するとダンテがゆっくりと歩いてくるのが見えた。「急いで!」と声をかけると、ダンテは「おいおい、この間はみんなで圭を待ったというのに、今日はどうして急がせるんだ!」と。確かにそうなんですけど……何だか憎めないですよね。
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