知ればリスク回避! 40代で増えるケガと治療&予防法
40代は受傷リスクが高まり、身体に多くのトラブルを抱える時期。症例や発症の原因を知っておけば、大ケガも回避できるはずです。山下且義トレーナーに、この年代に多いケガを挙げてもらい、症例とその治療、予防法を教わりました。【2017年11月号掲載記事】
指導◎山下且義 写真◎Getty Images、BBM
やました・かつよし◎1961年5月29日生まれ。全日本選手権、ジャパンオープンのオフィシャルトレーナー、デ杯・フェド杯チームのトレーナーも務め、松岡修造、クルム伊達公子、浅越しのぶなどのパーソナルトレーナーとしてツアーに同行。また、治療院「コンディショニング・ヤマシタ」の院長でもある。日本体育協会公認スポーツ指導者アスレティックトレーナー。修造チャレンジ・ケアトレーナー
40代で起こりやすい症例
●テニスエルボー ●テニスショルダー ●肉離れ(テニスレッグ、大腿内転筋)
●腰痛 ●鵞足炎(膝) ●手関節腱鞘炎 ●足関節の捻挫 ●足底筋膜炎 ●鼠径部痛(股関節)etc…
身体的な衰えと運動不足…40代はケガのリスクが急上昇
年齢を重ねると、人の身体は筋肉や関節部分が硬直して、動作に“癖”がつきやすくなります。そして体内に疲労物質が溜まりやすくなり、炎症が起こるとされています。
身体が硬くなってしまう分岐点、それが“40代”です。業務などで椅子に座り続け、日常的に運動を行う機会も減ります。それなのに休日に一気に運動してしまい、身体のあちこちが痛くなる――これが40代の大きな悩みです。
今回は、そういった40代の方が受傷しやすいケガを紹介していきます。
テニスエルボー
ふくらはぎ&内転筋の肉離れ
テニスショルダー
筋肉に疲労物質が溜まり、それが痛みとなって表れる炎症もあれば、突如発症してしまうケガもあります。この3つの発症原因、治療法、予防方法を同時に学び、40代も楽しくテニスを続けていきましょう。
ケガをしてしまったときの“応急処置”が大切
3つのケガを説明する前に、先に説明したいことがあります。それは受傷直後に施す“応急処置”です。覚えることは3つ。
①アイシング
②ストレッチ
③リコンディショニングトレーニング
ストレッチはケガの内容によって省くこともありますが、受傷した際は、これらを行うことで早期回復、コート復帰を目指してください。気をつける点は右の説明で確認してください。
では、3つのケガの発症原因や治療法、予防法について説明していきましょう。
応急処置の3つの手順
①アイシング
受傷後、真っ先に行うのがアイシングです。「患部は15~20分冷やす」と言われますが、これはあくまでも“目安”。季節(暑いor寒い)や負傷したときの運動時間(体温が高いor低い)によって、時間の長さも変わります。
患部を冷やす時間は「足りなくてもダメ、やりすぎもダメ」がキーワードです。前述の状況を判断しながら、アイシングの時間を決めます。新たな目安として覚えてもらいたいのが「受傷箇所の感覚がなくなったとき」。15~20分をベースにしつつ、感覚がなくなったところを探りながらアイシングをしてください。
②ストレッチ
ケガの直後も患部周辺の筋肉をほぐすストレッチを行います。痛みが出ない程度に伸ばし、血の巡りをよくしてケガの治りを早めるようにします。
ただ、肉離れの場合は受傷して3日間は患部の筋肉を伸ばさないようにし、4日目以降から少しずつストレッチを行うようにしてください。
③リコンディショニングトレーニング
受傷直後であっても患部付近の筋肉は鍛えておく必要があります。ストレッチと同じように痛みが出ない範囲で施すことが前提ですが、筋量が多いほどケガの治りも早くなります。
安静の状態を続けてしまうと筋肉も細くなり、復帰に時間がかかるので注意してください。
CASE①テニスエルボー(テニス肘)
【発症箇所】
●上腕骨外側上顆 ●上腕骨内側上顆 ●肘骨頭(尺骨)
【発症例】
●サービス時にボールのとらえ方が悪く、今までにない衝撃が肘に加わったとき
●雨で湿ったボール、または女性が男性といっしょに練習した際、重いボールを打ち返し続けたことで肘に大きな負担がかかったとき
●当たり損ねで突発的に起こったとき
CHECK!痛みが出た瞬間にプレーを中断する
テニスは、練習相手が必要なスポーツなので、痛みに耐えなければいけない状況も多く、「少しの痛みだけなら我慢できるだろう」と、無理をしてしまいがちな競技でもあります。
しかし、40代を迎えるとケガの回復が遅くなり、痛みや腫れが簡単に引きません。この痛み始めに練習を中断できるかがポイントで、ケガの回復スピードにも影響してきます。「少し痛むな」と感じたらプレーをやめ、アイシング→ストレッチ→リコンディショニングトレーニングの順に治療するようにしてください。
【予防】
●アイシング ●ストレッチ ●手首のトレーニング ●適性ラケットかどうかをチェック ●パソコン ●携帯電話の使用制限
Training|重さ、負荷を調整できるものでトレーニング
リコンディショニング同様、ペットボトルやチューブを使って鍛えますが、予防の場合はより負荷をかけて行います。フレンチプレスや前腕の内・外旋はどこでもでき、肘周り、手首の筋肉を鍛えられます。
腕をリラックスした状態のまま前に突き出し、左右に回転させる。肘全体の血流をよくし、ストレッチ効果もある
チューブを足で踏み、肘を曲げた状態で頭の後ろで構える。片方の手で肘を固定し、背筋を伸ばしたままチューブを真上へ伸ばす
POINT①適したグリップのサイズを選ぶ
ラケットを持ったときに親指と残り4本の指の間に人差し指一本がちょうど入ると適正なサイズ。一本以上、または狭い場合は力が入りづらく、ラケットが不安定になりやすい。大きい衝撃が肘に蓄積しやすくなるので注意
POINT②パソコンやスマホの使い過ぎは避ける
パソコンのキーボードを打つ動作や、スマートフォンを使う手の動作は、腕全体に疲労がたまりやすい。最近はスマートフォンのゲームも普及したが、なるべく1時間に一度は休憩などを挟み、腕の筋肉をストレッチしよう
【治療法】
①アイシング ②ストレッチ ③リコンディショニングトレーニング
肘は手首のケア、強化が大事
肘を鍛えるのは難しいので、腱でつながっている手首のケアや強化によって、ストレッチ、リコンディショニング、予防トレーニングを行いましょう。受傷直後のリコンディショニングトレーニングは負荷をかけず、ペットボトルやチューブを使って痛みが出ない範囲で行ってください。
リストカールは、手のひらが上になるようにし、ゆっくりと負荷をかけながら上方向に曲げる(写真)。カールリバースは手の甲を上にし、上方向に曲げる
受傷直後、予防のストレッチはどちらも痛みが出ない範囲で行う。前後左右に行うこと
CASE②ふくらはぎ&内転筋の肉離れ(テニスレッグ)
【発症箇所】
●下腿三頭筋(テニスレッグ)●大腿内転筋
【発症例】
●テニスレッグの場合…ストップ&ダッシュ、ジャンプを繰り返し行い、ふくらはぎに疲労が溜まったとき。発症するケースとして、前日の睡眠不足も影響を及ぼすことがある
●大腿内転筋の場合…主に筋肉の疲労が原因。ただ、場合によってストレッチで、その箇所を伸ばし過ぎて起こることもある
CHECK!リコンディショニングトレーニングと予防トレーニングの違い
すべてのケガにおいて「リコンディショニングトレーニング」と「予防トレーニング」を行います。リコンディショニングトレーニングとは、受傷後にケガの再発を防ぐ目的として行われるもので、あまり負荷はかけず、慎重に行ってください。
一方の予防トレーニングは、ケガをしないために筋力増強を目的としたもの。リコンディショニングトレーニングよりも大きな負荷をかけることを心掛けましょう。
【予防】
●アイシング ●ストレッチ ●下腿三頭筋のトレーニング ●大腿内転筋のトレーニング ●シューズのチェック
テニスに不可欠な“下半身の力”を強化
テニスは下半身を使い続ける競技なので、普段からふくらはぎ、下腿三頭筋のトレーニングは欠かせません。ふくらはぎの場合はカーフレーズやランジ系、ジャンプ系のトレーニング、大腿内転筋の場合はチューブを使って太ももの内側に刺激を与えるようにしましょう。
▲壁に手を置き、つま先立ちの状態で上下運動をゆっくりと行う。かかとは地面につけないこと
▲片足にチューブを付けて、地面から足を浮かせた状態から逆方向に足を動かす
▲立った状態から前に踏み込み、元の状態に戻る。膝に不安を抱える人は写真のように浅めの踏み込みから始める
POINT①靴底の減りを注意深くチェックしよう
フットワーク時に地面をスライドして踏ん張る動作が多く、靴底もすり減りやすいが、この傾きが足元を不安定にする。足がぐらつくことで疲労も溜まりやすくなるので、使い込んだシューズはなるべく買い替えるようにしよう。それができない場合は、インソールだけでも新しいものに変えることで、足への負担が軽減できる
【治療法】
①アイシング ②リコンディショニングトレーニング
ふくらはぎや大腿内転筋の肉離れは、ケガの度合いによっては歩くことさえできません。重度の場合はアイシングをしてただちに病院へいきましょう。患部を冷やす際は広範囲に施行し、受傷した箇所の周辺の筋肉も冷やすとよいでしょう。
トレーニングできる範囲でタオルギャザー、タオルピックアップなども行い、大丈夫そうなら痛みが出ない範囲でスクワットも行ってください。
肉離れの治療でストレッチは×
筋断裂によって起こる肉離れでは、負傷直後のストレッチは禁物です。さらに状態を悪化させるため、アイシングをしながら様子を見るようにしてください。
ひとつ目の上写真(タオルギャザー)は、地面に敷いたタオルを両足の指を使って手元に引き寄せる動作。タオルピックアップは、足の指を使ってタオルを持ち上げるもの。どちらもふくらはぎ、足指の筋力が鍛えられる
テニスの膝の使い方は、スクワットの4分の1程度(クォーター)の沈み方がほとんど。ただ、最近はハーフ(膝が90度)、トッププロならばフル(下までしゃがみこむ)と同じくらいの膝への負荷が、試合中に何度もかかっている。膝を痛めやすい年齢ではあるが、ハーフのスクワットは普段からしておいてもよいだろう
CASE③テニスショルダー(インピンジメント症候群)
【発症箇所】
●ローテータカフ(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)
●三角筋
●上腕二頭筋腱
【発症例】
●テニスは、頭の上でボールを打つ(サービスやスマッシュ)ため、肩が前に入ってしまい、肩関節や肩甲骨付近の筋肉が炎症を起こすことが多い
【予防】
●アイシング ●ストレッチ ●ラケットのチェック ●肩周囲のトレーニング●サービス、スマッシュのフォームチェック ●姿勢のチェック
予防トレーニングはリコンディショニングトレーニングと同じで、肩周囲の筋肉にかける負荷を増やします。特に40代になると、頭よりも上で動作を行うサービスのように、普段使わない筋肉が弱く、炎症が起きやすい部位に挙げられます。予防で鍛える際は、日頃身近にあるタオルなどを使って肩周りを鍛えるのもいいでしょう。
タオルを使って四十肩、五十肩も予防
両手でタオルをひっぱるようにもつ。肩周囲、腕全体の筋肉に意識を置き、これを前後左右で行う。特に上で引っ張る際は力が入りづらいはず。筋力が衰えやすい箇所に刺激を与えられるため、四十肩にもいい
POINT①サービスのテークバックはラケットを引きすぎない
サービスのテークバック時にラケットを身体の後ろに担ぐ人は肩を痛める可能性が高いので注意。構えた時点で身体にとって不自然な方向に肩が向くため、振り始めに肩関節が開き、大きな負担がかかってしまう。サービスやスマッシュのフォームをチェックして未然に修正しよう
POINT②猫背は肩こり、肩のケガのもと
普段から猫背の人は徐々に肩周辺の筋肉が硬くなり、サービスを打ったときの衝撃で痛めるケースが増える。これを防ぐには普段から正しい姿勢を意識する。座りながら天井から糸で吊らされているイメージで背筋を伸ばし、パソコン作業などは前かがみになって覗きこまないようにしよう
【治療法】
①アイシング ②ストレッチ ③リコンディショニングトレーニング ④肩周囲筋の筋力強化
肩は首や背中の筋肉とつながっており、肩関節の筋肉は薄く、痛めやすい箇所です。関節周りの筋肉は伸びにくく、炎症が起きやすいと言われ、治療法にも④肩周囲筋を伸ばす運動も入れます。
痛みがない範囲でトレーニングする際は、やわらかめのチューブを使って負荷を調整します。
▲肩から腕を水平にし、後方へ引っ張るストレッチが有効
▲サイドレイズは、肩の三角筋を鍛えるトレーニング。チューブの真ん中を両足で踏み、左右の手で両端を持つ。水平になる程度まで両腕を横に上げ、ゆっくり元に戻す
▲ラットプルダウンは、高いところにチューブを取り付け、手を伸ばした状態から背中の方向に引き寄せる。これにより肩と広背筋(背中の筋肉)を鍛える。写真のように前かがみでOK
▲肩から腕のインナーマッスルに刺激を与える。チューブを肩より少し低いところにくくりつけ、プロネーション(内旋、または回内)とスピネーション(外旋、または回外)を行う
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