パット・キャッシュ_ボレーについて知っておいてほしいすべてのこと vol.04「ボレーの将来予想」
このボレーレッスンは、アメリカのジャーナリストであり、コーチの顔も持つポール・ファインが、1987年ウインブルドン王者で、現在は敏腕コーチ、さらにイギリスのThe Timesにコラムを執筆するパット・キャッシュに、彼のテニスにおいてもっともエキサイティングで得意なショットであるボレーの基本とすぐれた点についてインタビューしたものです。あなたがトーナメントを戦う選手であっても、趣味でプレーをしている人であっても、あるいはテニスを観戦するだけの人であっても、キャッシュの言葉でテニスを楽しんでもらいたいと思います。【2017年6月号掲載記事】
講師◎パット・キャッシュ
Pat Cash◎1965年5月27日生まれの51歳。オーストラリア・メルボルン出身。1987年ウインブルドン優勝者。自己最高ランキングはシングルス4位、ダブルス6位
インタビュアー◎ポール・ファイン 写真◎小山真司、Getty Images
データに見るネットポイント
Q33 ネットプレーがどれくらい得意かを判断するためにデータを参考にしますか?
データにあるネットポイントは、必ずしもボレーで獲得したポイントとは限りません。
グランドスラムをはじめ採用されているデータに「ネットポイント(獲得率)」というものがあります。これを紹介するテレビなどは、少し間違った紹介の仕方をしているように思います。
「ネットで獲得したポイント」は、ボレーやスマッシュで獲得したポイントという意味ではありません。サービスラインの内側に入ってストロークでウィナーを決めることは結構あります。20ポイントをネットで獲得したという選手のデータは、実はボレーの前のストロークをネット近くで決めているものも含まれ、ボレーで決めたものはそのうち5、6本だったということはよくあることです。
ですから、そうしたストロークとボレーの関係性をよく理解して、相手のネットプレー力を見極めることが重要です。
強打できる構えからドロップショットを打つ錦織圭
Q34 すぐれたコーチは試合のどのデータを重要視しますか?
データは真実の半分を示すものと考えて、実際に起きたことをデータで確認します。
私はデータをそれほど重要視していません。なぜならデータ(ここではネットプレー)は真実を半分程度示すものと考えるからです。残りの半分は、サービス、アプローチショット、相手のリターンやパッシングショットの質に関わるものと考えています。
また、それはプレッシャーのかかった場面なのか、そうではないのかも、実際に起きたことを考慮しなければなりません。ブレークポイントのときにパッシングショットや難しいボレーを決めるほうが、ゲームの行方がかかっていないときよりもはるかに難しいものですよね?
サーフェスの違いも大きな要素となります。クレーコートでパッシングショットを打つほうが簡単です。なぜならパスを打つ側は(ボールが高くバウンドするので)追いつくことができ、また、ネットプレーヤーは足元が安定していないため対応が遅れがちです。
有能なコーチはまず試合をチェックし、それから自分の考えが正しいかどうかをデータを見ることで確認します。
私は特にプレッシャーの有無に重点を置いてデータを見ます。ブレークポイントはもちろん、30-30やデュースなど、プレッシャーのかかった状況でポイントを落とせば、技術にも大きな影響が出て、本来できることができなくなってしまいます。自信のレベルが落ちているときにミスは起こりやすくなります。
そうすると意識過剰となり、プレッシャー下ほど必要以上のことをやったり、あるいはその逆に超安全なプレーを選択しがちです。ボレーのときにあまりに警戒しすぎると、相手のパッシングショットは決まりやすいというデータもあります。データは賢く使うことです。
ダブルスのネットプレーをシングルスに役立てる
Q35 シングルスとダブルスのボレーの違いは何ですか?
ダブルスのほうがボレーの種類が多く難しいです。だからその分、シングルスのときはボレーが簡単になります。
ダブルスをプレーすることは、シングルスでボレーを打つときに役立ちます。
ダブルスでボレーを打つのは、シングルスより難しい状況がほとんどです。狙うスペースは限られ、相手は自分の目の前にいるわけですから。
ダブルスでは短い、アングルボレーをうまく使う必要があります。ポイントを終わらせる非常に有効な手段です。
ダブルスのほうがボレーのコース、種類を多く打つ必要がありますから、その分、シングルスをプレーするときはボレーが簡単になります。
私が好きなダブルスの練習は、コートの半面を使って(クロスでもストレートでも)ベースラインの内側から、ネットの向こうのベースライン付近にいる相手に対してボールを打って、ネットに出るのです。
その後、相手とポイントを奪い合いますが、これはファーストボレーの練習にもなりますし、相手のパッシングショットに対応する練習にもなります。ダブルスの試合で頻繁に起こる場面です。このドリルに入る前には、中間スピードでラリーを5本ほど打ってから始めるとリズムがつかめるでしょう。相手とポイントを争って、どちらかが21ポイントを取るまで続けます。
ダブルスは相手が目の前にいて、打てるコースも限られている。アングルボレーをうまく使う必要がある
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