パット・キャッシュ_ボレーについて知っておいてほしいすべてのこと vol.03「ネットへのつめ、反応、予測、ポジション」
この記事は、アメリカのジャーナリストであり、コーチの顔も持つポール・ファインが、1987年ウインブルドン王者で、現在は敏腕コーチ、さらにイギリスの『The Times』にコラムを執筆するパット・キャッシュに、彼のテニスにおいてもっともエキサイティングで得意なショットであるボレーの基本とすぐれた点についてインタビュー(vol.01〜04)したものです。あなたがトーナメントを戦う選手であっても、趣味でプレーをしている人であっても、あるいはテニスを観戦するだけの人であっても、キャッシュの言葉でテニスを楽しんでもらいたいと思います。【2017年5月号掲載記事】
講師◎パット・キャッシュ
Pat Cash◎1965年5月27日生まれの51歳。オーストラリア・メルボルン出身。1987年ウインブルドン優勝者。自己最高ランキングはシングルス4位、ダブルス6位
インタビュアー◎ポール・ファイン 写真◎小山真司、Getty Images
ネットへのつめ、予測、反応、ポジション
このボレーレッスンは、アメリカのジャーナリストであり、コーチの顔も持つポール・ファインが、1987年ウインブルドン王者で、現在は敏腕コーチ、さらにイギリスの『The Times』にコラムを執筆するパット・キャッシュに、彼のテニスにおいてもっともエキサイティングで得意なショットであるボレーの基本とすぐれた点についてインタビューしたものです。
あなたがトーナメントを戦う選手であっても、趣味でプレーをしている人であっても、あるいはテニスを観戦するだけの人であっても、キャッシュの言葉でテニスを楽しんでもらいたいと思います。
Q20 プロと平凡なプレーヤーのボレーは何が違いますか?
A プロは予測をし、常に動いておいてボールをとらえます。
ポール かつてプロコーチのビック・ブレーデンは「プロが上手にボレーを打てる理由は、彼らがボールを打つ瞬間、あるいはその前に動き出すからだ。平凡な選手はボールが届くのを待っている」と言っています。これを詳しく説明してもらえますか?
キャッシュ それはあらゆる意味で正しいと思います。なぜならプロは素晴らしい予測能力を持っているからです。世界最高のボレーヤーの足はいつも動いていて、前後左右に動き、パッシングショットやロブに備えています(対応します)。アイザック・ニュートンの慣性の法則にあるように、動いているものは動き続け、止まっているものは止まったままです。
私にとってテニスで一番きつい練習は、膝をしっかり曲げて構え、どこへでも飛び込むことができる体勢をとり、いつでも素早く正しいポジションに入るようにすることです。サービスラインの手前から始めて、前に出る動きを入れないと、ボレー練習で体を追い込むことはできません。
Q21 スプリットステップはどのタイミングでしますか?
A 相手がボールを打つ瞬間です。
相手がボールを打つ瞬間にスプリットステップをしましょう。ネットに近づくスピードを緩め、相手がボールを打つ瞬間に合わせてスプリットステップをし、どちらの足も(斜めに)出せるように準備することです。スピードを落としてスプリットステップをしなければ、私のように強靭な太腿を持っていたとしても、ボールに反応するために鋭く方向転換するなどは不可能です。スピードを落とさない、あるいは落としすぎる、高く飛びすぎるなど、しないようにします。
練習を積めば、90〜100%の力でネットへ走り、その後、減速してバランスを崩すことなくスプリットステップをすることができるようになります。
ただし、飛んでくるボールが短かった場合は、スピードを緩めずに前に出続けます。私の考えでは、現在のトップ選手の多くがネットに出るスピードが遅すぎます。2015年のウインブルドンの前に、マルコス・バグダティスとトレーニングをしましたが、彼のネットに出る動きを修正したところ、ボレーを含めネットプレー全体が大幅に改善されたのを思い出します。
Q22 ネットでのフットワーク、スピードがすぐれている選手は誰ですか?
A フェデラー、最近はナダルも素早くなりました。
ステファン・エドバーグ、ジョン・マッケンローらはネットに出るスピードが速かったです。最近の選手ではロジャー・フェデラーはもちろんのこと、ラファエル・ナダルもうまくなっていて、素早く前に出られます。女子ではマルチナ・ナブラチロワ、シュテフィ・グラフ、ジュスティーヌ・エナンらが浮かびます。彼女たちの前には、ビリー・ジーン・キングやマーガレット・コート、イボンヌ・グーラゴン・コーリーなどもいて、私のジュニア時代には、彼らの素晴らしい動きをコーチに見せられたのをよく憶えています。
ナダルのネットへのつめ
フェデラーのネットへのつめ
Q23 ワイドなボールに対して最適なステップは?
A 大事なことはボールを打ちやすいポジションをとるということです。
ボレーの指導の大きな間違いのひとつは、すべてのボレーにおいてクロスステップを使わなければならないというものです。ベースラインストロークに似て、ボレーはプレーヤーが反応するための時間と体勢によって、足の動きは決まります。特に腕を伸ばせば届く範囲にボールがあるときは、あまり動く必要がありません。もし、相手が打ったボールが腕を伸ばせば届く範囲、あるいはダブルスでレシーバーが自分の正面に打ってきたときには、クロスステップを使う必要などまったくないのです。
ここで大事なことは、もっともボレーを打ちやすいポジションをとるということです。ボールにコンタクトするだけであれば、足をクロスさせる必要などなく、少しステップを踏む、あるいは半歩横に動く程度で十分です。ボレーの60%はオープンかセミオープンスタンスで打つことができると私は思います。
Q24 クロスステップを使う局面は?
A 体から遠いボールのときです。
ボールがかなりワイドにきたとき、あるいは自分から遠く、ボールがネットに近いときや手前に落ちたときにクロスステップを使います。いずれの状況でも体を目いっぱい伸ばして、もっとも遠くのボールに食らいつくには、(ボールから遠い足)逆足を出して伸びきることです。この動きで時間を短縮することができます。
ボールに追いついたあと、ふたたび元のポジションに戻って次のボールに備えるときに時間のロスは少なくしたいものです。そうすると基本的にはオープンスタンスを推奨します。ダブルスで、ものすごいスピードでボールが行き交う、そのときこそオープンスタンスがいいでしょう。
Q25 シングルスでネットに出るとき、ネットからの距離はどの程度が理想ですか?
A 必要に応じて変えます。
ボレーのポジションは必要に応じて変えなければなりません。球足の速いコートで、かつ、いいボレーを打ったあとのポジションになれば、ネットから1〜1.5mが最適です。また、ダブルスで自分のパートナーがいいサーバーで、相手がロブを上げるのが難しいなら、同じくこのポジションまでつめてOKでしょう。
しかし球足の遅いクレーコートで、深く高く弾むボレーを打った場合は、相手がロブを打つチャンスがあるため、サービスコートの中央が最適です。自分の直前のショットの質にもよりますが、そこからなら前に出てボレーを決めることも、後ろに下がってロブに追いつくこともできます。
Q26 もし相手がほとんどロブを上げないなら、ネットの手前までつめてもいいですか?
A 速いサーフェスで強いボレーを打ったらネット際までつめます。
1987年のオーストラリアン・オープン決勝で私はエドバーグと対戦しました。その頃、クーヨンのセンターコートは世界でもっとも速いサーフェスと言われていて、強いファーストボレーを打つと、ほとんど決まりました。私も彼もファーストボレーを打ったあとは、かなりネットの近くにポジションをとっていました。なぜなら速いサーフェスでロブを上げることはかなり難しいからです。もちろん、ファーストボレーの質があまりよくなかったときは前につめず、リスクをおかしません。
ただし、エドバーグには素晴らしいバックハンドのパッシングショットと、読みにくいロブもあったので、彼のバックへボールを打ったあとは警戒する必要がありました。大きなテークバックをしたら、パッシングショット狙いだと確信できます。そのときはネット近くまでつめます。相手があまりロブが得意ではないときも、同じようにネットにできるだけつめました。
ネットに出るときは相手を騙したり、相手の次のショットを予測することが次々必要になります。私はその騙し合いをいつも楽しんでいました。ネットに積極的に出る選手は同じように楽しんでいるものと思います。
Q27 21世紀の3人のスーパースターのうち、ジョコビッチのネットプレーを評価してください。
A ポジションがネットから遠すぎる傾向があります。
ジョコビッチはとてつもないスピードがあるのに、ネットからの距離が遠すぎることが多く、アグレッシブさが足りません。ネットにもう一歩近づけないのは、彼のすべてのショットの中で、スマッシュのレベルがかなり低いからでしょう。かなり改善されてはきましたが、あまりスマッシュを打ちたくないと思ってポジションをとっているのだと予想されます。
逆のことがフェデラーやナダル、引退していますがロディックに言えます。ナダルやロディックは、ボレーそのものは精度が高いわけではないのですが、スマッシュは素晴らしいものを持っているので打ちたいと思っています。
Q28 ダブルスでネットに出るときの理想的なポジションはありますか?
A パートナーのサービスが強ければ、ネットにつめて構えます。
ダブルスでは、パートナーがサービスを打つとき、もう一方の選手はかなりネットに近づいています。2016年のダブルス世界ナンバーワンであるジェイミー・マレーは、とてつもなくネットに近いポジションをとり、ロブにも敏感です。パートナーを組むブルーノ・ソアレスはいつも強烈なファーストサービスと、セカンドサービスで鋭いキックサービスを打つため、相手はリターンでロブを打つのが非常に難しいのです。だからマレーはネットにつめます。
かつての世界ナンバーワンペア、ウッディーズ(トッド・ウッドブリッジとマーク・ウッドフォード)は、ネットでどのように動くか相手に読まれないようにし、しばしば相手を混乱させました。彼らはよくポーチをしたり、ポーチのふりをしたり、相手を惑わせました。
Q29 ネットプレーでの長身選手の利点、欠点を教えてください。
A サービス、リターン、ネットでのリーチで有利です。不利は見当たりません。
ポール あなたが活躍した80年代の男子ツアープロの平均身長は183㎝程度でした。現在は、190㎝を越えています。ネットプレーでの長身選手の利点、欠点を教えてください
キャッシュ どんなネットスポーツでも長身選手が有利になります。テニスはネットの位置が低いので、バレーボールほど高さが有利になりませんが、サービス、リターン、ネットでのリーチの長さなどでは背が高いほうが有利になります。
私の現役時代は、長身選手は動きが鈍い選手が多かったです。当時は短い距離のスプリントや敏捷性がネットプレーでは重要だったため、高さよりもスピードがより大事だと思われていました。90年代に入ると、長身ながら速い選手がネットを支配し始めました。イバニセビッチ、クライチェク、ルゼドスキー、フィリポーシス、シュティッヒはみんな2m近い長身です。リーチが非常に長く、高い打点からの強烈なサービスを武器に、完璧なサーブ&ボレーヤーでした。彼らがキャリアの終盤に苦しんだのは、より遅いコートやボールが開発されたからでしょう。
Q30 アジリティーの高さがボレーには求められます。テニスに必要なアジリティーとは?
A 素早く方向転換して、素早く戻ります。
私は現役時代、オンコート、オフコートですさまじいトレーニングを積みました。オーストラリアでスピードとアジリティーのスペシャリストであるドクター、アン・クインの指導を受けられたのが幸運でした。彼女は現在も、ツアーを回るプロ選手やアカデミーでトレーニングする若い選手たちがコートサイドで行うトレーニングのほとんどを発案している人物です。
私はほかの選手に比べてトレーニングの内容が進んでいたのとともに、強い脚力とスピードがあり、体の重心を低く保てたため、それが素早く方向転換することの大きな助けになりました。
テニスで必要なアジリティーはほかのほとんどのスポーツとは異なるものです。なぜならテニスに必要なスピードは、ある場所から決まった場所に打たれるボールを追いかけるだけではないからです。元のポジションに素早く戻るスピードも求められます。フェデラー、マレー、ジョコビッチやセレナ、ハレプらは非常にすぐれたスピードを持った選手です。
Q31 ボレーヤーの反応は、どのようにすればよくすることができますか?
A 壁打ちがおすすめです。
伝説の指導者、ハリー・ホップマンが考えたトレーニングは世界に広まりました。それは4人の選手がネットでボレーを打ち合うものです。また、オーストラリア人は2対1の練習が大好きで、1人がネットで、2人がベースラインという練習を頻繁に行います。これをするとボレーヤーには時間がないので、必然的に反応が鍛えられます。
初心者には、壁打ちをすることが技術の向上に大きく役立ちます。壁から素早くボールがはね返ってくるため、大きなテークバックをする時間がありません。また、壁を相手にボレーすることで、脚力とバランスを向上させられます。手と目のコーディネーション(ハンド・アイ・コーディネーション)を鍛えるには、レンガの壁に向かってボレーするのがおすすめです。イレギュラーバウンドがあるので、ボールへの反応がとてもよくなります。
Q32 パッシングショットやロブを予測する上で重要なことは?
A 正しいポジショニングが重要です。
予測能力を磨くのにもっとも大事なことは経験から学ぶことです。私が現役の頃は、パッシングショットを打つもっとも簡単な方法は、ダウン・ザ・ラインへ打つことでした。そのため、ボレーヤーは自然とそのポジションをカバーしました。
しかし今は、ナダルのようなヘビートップスピンを打つ選手がいて、しかも彼はクロスコートに95%くらい打ちます。マレーのフォアハンドも同じようにクロスへのパッシングショットが多いです。ですから、ネットプレーヤーはダウン・ザ・ラインだけを守るわけにはいきません。
それに対してネットプレーヤーはベタ足で、クロスコートへのパッシングショットに対する最適なポジションがとれていませんから、これは基礎を学ぶ必要があります。テレビ解説者として、現在の選手たちがそのような過ちを何度もおかすのを見てあきれています。現在のツアー選手はネットに出る回数が激減しているため、彼らはネットに出る経験と自信が足りないのです。
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