キリオスがティームに逆転負けも、観客たちはロックダウン前最後の夜にスペクタクルを堪能 [オーストラリアン・オープン]
首尾よく第2セットを締めくくったアンダーサーブから股抜きショットをミスして第3セットを失ったときまで、『ザ・ニック・キリオス・エクスペリエンス』はドミニク・ティーム(オーストリア)に対してその効果を最大限に発揮し、無観客になる前夜のオーストラリアン・オープンで観客たちを大いに喜ばせた。
ショーマンでありエンターテイナーのニック・キリオス(オーストラリア)は金曜日の3回戦で、第3シードでUSオープン優勝者のティームに対して騒々しく自分贔屓の熱い観客たちを煽り立てながら最初の2セットを先取して完璧なスタートを切った。
当然のことながら才能に恵まれ気性の激しいキリオスは、自分のプレーレベルが落ちてからは最初の2セットほどは楽しめなかった。彼はラケットを放り投げたり主審と盛んにやり合ってポイントペナルティに繋がった幾つかの警告を受けたあと、最終的に6-4 6-4 3-6 4-6 4-6でティームに敗れた。
チェンジコートでキリオスがソーダ缶をすすっている間、観客たちは大きな声で歌った。彼らはキリオスがウィナーを決めるたび、飛び上がったり叫んだりした。彼らは座席の後ろを叩き、ティームのミスにまで声援を送った。今大会では線審がおらずカメラによる自動判定システムが採用されているのだが、彼らはキリオスに不利な際どいラインコールにブーイングした。
「ティームは実際、自分に敵対する応援をしていた皆からいくらかのエネルギーを引き出していたのだと思う」とキリオスは分析した。
この日のエンターテインメントが始まったのは、左膝にベージュのサポーターを巻いたキリオスがサービス練習の合間に一旦動きを止めて観客に向かってラケットを振り、仲間であるオーストラリア人たちにもっと大きな声援を求めたウォームアップのときからだった。彼らはその通りにし、キリオスは大きな笑顔でそれに応えた。
試合の最初のゲームでブレークしたときにキリオスは喜んでスキップし、大きな歓声を楽しんだ。彼は耳に右手を当ててもっと大きな声援を要求し、観客たちはふたたびそれに応じた。
最初のゲームで彼はアンダーサーブと股下からハーフボレーを見せたが、どちらも上手く機能しなかった。しかし彼がそのようなショットを試したのは、それが最後ではなかった。
第2セットでティームがフォアハンドをアウトして4-5とされたとき、キリオスはコートチェンジのため誇らしげに歩きながら、「レッツゴー、ベイビー!」と叫んだ。そしてアンダーサーブでそのセットを終わらせたとき、キリオスは「楽しんでいないのかい?」と言うかのように両腕を大きく広げたのだった。
常に活発なキリオスとは対照的に、ティームは終始控えめな感情表現しかしなかった。彼は第5セットでブレークを果たして4-3とリードしたときも、最後のポイントを取ったあとにも右拳を小さく振る程度のシンプルな仕草に抑えた。
これはキリオスにとって、1万500人収容のジョン・ケイン・アリーナにおける2試合連続の5セットマッチだった。キリオスは前のラウンドで、2本のマッチポイントをセーブした末に第29シードのユーゴ・アンベール(フランス)を倒していたのだ。
しかし今回の彼は、リードを無駄にした側となってしまった。もし彼が第3セットの出だしにあったブレークポイントをものにしていたら、更に大きな勝利を手にしていたかもしれない。
そのときのティームの精神姿勢は、どのようなものだったのだろうか?
「僕はすでに、敗北に対処し始めていたよ」と彼は明かした。
地元の人気者が登場するこの試合では、スタジアムの4分の3ほどが埋まっていた。観戦者の多くはソーシャルディスタンスを心掛けている様子もなく、その日の深夜0時からビクトリア州政府によって義務とされることになるマスクも着用していなかった。州政府は感染者数に増加が見られたため、土曜日から5日間のロックダウンを課すことを決めていた。大会はそのまま進められるが、観客は土曜日からしばらくは入場することができなくなる。
「今夜は壮大なスケールだった。そしてロックダウン前の最後を締めくくるいいい試合だった」とティームはコメントした。
これは今のところオージーたちにとって外出できる最後の夜だった訳で、人々は最高の時間を過ごした。
「スタジアムのエネルギーは特別だったね。このレベルのパフォーマンスを生み出し、世界最高峰の選手のひとりと競り合えたことを僕はかなり誇りに思うよ。僕はコートですべてを出し尽くした…。彼は本当に鍛え抜かれており、とても冷静だったよ。彼のレベルは落ちなかった」とキリオスは振り返った。彼は新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックのために2020年シーズンの大半で大会に出場しておらず、現在の世界ランクは47位となっている。
昨年9月のフラッシングメドウでティームは2セットダウンから挽回して優勝を遂げた71年ぶりの選手となっており、これは彼にとって目新しいことではなかった。
「あの試合は僕に、諦めることは決して選択肢ではないということを教えてくれた。常にチャンスはあるものだ。今日は本当にもう少しで負けるところだったけどね」とティームは語った。
ティームは次のラウンドで、第15シードのパブロ・カレーニョ ブスタ(スペイン)が第2セット途中で棄権したため勝ち上がった第18シードのグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)と対戦する。(C)AP(テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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