【APコラム】“勝者なき結末”大坂が戻ったとき、より多くの質問を受けることは不可避の現実
テニス界のメディアは会見の大部分でトッププレーヤーを優しく扱う傾向があるが、ある質問は繰り返しなされているかもしれないし少しネガティブなものもあるかもしれない。
いずれにしても、それらの質問に答えることは彼女の仕事の一部なのだ。それは他のすべてのトッププレーヤーが仕事の一環と受け入れている記者会見にやってくることを大坂が拒否し、そのあとフレンチ・オープンを棄権したとしても変わることはない。
今まさに、彼女はより多くの質問を受けることになるだろう。
メディアに対するパリでの小さな反逆を不器用な方法で行うことで状況を悪化させてしまったとはいえ、それはすべて大坂の落ち度という訳ではない。彼女はSNSを通して「同じ質問を何度も聞きたくはなく、記者たちは落ち込んでいる選手を叩こうとする傾向がある」とコメントしたあと、最初の試合後の会見をスキップした。
言い換えれば、彼女はどうしてクレーコートでもっといいプレーができないのかについての質問に答えたくなかったのだろう。彼女は棄権を発表する2つ目の声明の中で少し反発し、そこで事態は厄介になった。彼女は2018年USオープンで優勝したあと長い間うつ病に苦しめられ、記者会見でジャーナリストたちと話すときに大きな不安感の波に襲われるのだと明かしたのだ。
我々は皆、そのことについて同情できるしそうあるべきだろう。鬱や不安神経症は壊滅的であり、人を憔悴させるものだ。それらの病状に苦しんでいる人や苦しんでいる家族を持つ人は、そのことを痛いほど知っている。
それらの問題に対処することに苦労している大坂がグランドスラム大会からの撤退を決断したことについて、誰も悪く言うべきではない。間違いなく我々は皆、23歳で世界的スターになることに付きまとう他のすべての困難にも対処しながらメンタルヘルスを改善しようとしている彼女の努力をサポートすべきだろう。
しかしながら、あることをはっきりさせておこう。これはメディアの問題ではないし、記者会見の問題でもないのだ。率直に言って、大坂が記者会見に出席しないと言い、それが何故かと訝った大会開催者を棄権で仰天させるまで誰も問題があることを知らなかったのだ。
プレーすることで数百万ドルを稼ぎ出すアスリートたちに、試合後に彼らのプレーについての質問に答えるよう要求するシステムに本質的な問題は何もない。また記者たちがテニス界の新しいスターについて書く際に大坂が望むポジティブな物語にそぐわないかもしれない質問を時折したとしても、それは悪いこととも言いきれない。
これはフレンチ・オープンのような大会が、毎年値段の高い席を売り切れる理由のひとつでもあるのだ。アメリカの経済誌『フォーブス』は2019年に大阪が3700万ドルを稼いだと伝えたが、その大部分は大坂が彼らの製品のために多くの報道を生み出すことを期待する企業によるスポンサー契約によるものだ。
20歳の頃からグランドスラム大会に連続で勝つという魅力的なストーリーは、日本とハイチに源を持つそのバックグラウンドと相まって彼女をスターにした。しかし彼女の前にスターとなった者たちの皆が知るように、すべてのプレーヤーが受け入れている契約の一環に「勝敗に関係なく大会では試合後の記者会見に応じなければいけない」というものがあるのだ。
「彼女の気持ちは分かる。でもプレスなしには…僕らが世界中で経験している出来事や成果を書きながら旅をしている記者たちがいなかったなら、恐らく我々は現在の自分たちのようなアスリートにはならないだろう。僕らは自分たちが今のように世界中で得ているような認識を手にすることがないだろうし、それほど人気も得られないはずだ」とラファエル・ナダル(スペイン)は私見を述べた。
このあまり賢明ではない立場を取るのに、大坂が何故フレンチ・オープン開始時を選んだのかははっきり分からない。彼女はクレーコートで苦労していることについて尋ねられたくなかったのかもしれないが、質問は正当なものであり彼女にはそれに対して特徴のない答えを返してさっさと次に移ることが容易にできたはずだ。
反対に彼女はメディアボイコットを選び、それから大会役員と他のプレーヤーの間で彼女の立場が支持されないことが明らかになったときに今度は棄権した。率直に言うと、ここまでの事態になるよりずっと前に大坂の周辺の人々が介入すべきだった。もし大坂が新しいナイキのアパレルラインについての質問に喜んで答えるのであれば、テニスについての質問に答える方法を見つけ出すこともできたはずだと彼女に言って聞かせるべきだった。
ところが反対に彼女は自分にとって不愉快な状況を生み出してしまい、棄権することを余儀なくされた。女子テニス界に彼女のスターパワーを大いに必要としているグランドスラム大会も含め、勝者はひとりもいなかった。
少し休息を取ることが、大坂の回復に役立つよう願いたい。彼女の問題が本人の言う通り深刻なものだと仮定すると――そうでないと憶測する理由はどこにもない――、長い休息こそが彼女の必要としているものなのかもしれない。
ただ彼女が戻ったとき、以前以上の質問が投げられるだろうということを理解して欲しい。(APコラムニスト◎ティム・ダールバーグ/構成◎テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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