「俺は誰も恐れていない!」1回戦突破のキリオス [ウインブルドン]

写真はニック・キリオス(オーストラリア)(Getty Images)


 2年ぶりの開催となる今年3つ目のグランドスラム大会「ウインブルドン」(イギリス・ロンドン/本戦6月28日~7月11日/グラスコート)の男子シングルス1回戦で、ニック・キリオス(オーストラリア)が第21シードのユーゴ・アンベール(フランス)を6-4 4-6 3-6 6-1 9-7で下した。

 今大会転倒する選手が多い中、自身の転倒シーンを振り返った。

「芝で起こることをすべて予想することはできない。躓くことはある。でも俺はいつだってふたたび立ち上がってプレーをする。どんな酷いケガをしても足一本でもプレーを最後まで続けるさ」

 フルセットの死闘を乗り越えた。

「コートに立てて本当に楽しんでいる。でも彼は本当に強かった。数ポイントの差で彼が勝ってもおかしくなかった。でも楽しい試合だった」

 転倒から棄権に追い込まれたセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)について語った。

「ビッグネームが芝で滑ってケガをして棄権をするのは残念だ。ロジャー・フェデラー(スイス)を相手に素晴らしい試合をしていたアドリアン・マナリノ(フランス)もそう。レジェンドのセレナも大会を去った。残念だ。ただ、自分が転倒したとき何もケガがなくてラッキーだった」

  転倒による負傷には常に起こりえるものと認識している。

「雨でコートがさらにスリッピーになっているとは思わない。外のコートは滑りやすく、予測できない。グラスコートではよく起こることだ。ラリーが長くなり、昔に比べて選手の動きもよくなり、無理が効く。そこでケガは起こり得る」

  今大会に限らず、グラスコートでの試合にはリスクはつきものだ。

「それにテニスのスケジュールも厳しい。選手は多くの試合をプレーしている。フレンチ・オープンが終わってすぐにグラスコートシーズンが始まり、そこで毎週のように最高のパフォーマンスを求められている。解決法は分からないが、グラスコートでケガは起こり得るもの。クレーコートやハードコートでのスライディングはもう少し安全だ。でも、グラスコートではいつでもケガのリスクがある。セレナはレジェンドだけど、それでも起きたことは仕方ない。厳しいものなんだ。自分は柔軟性があるほうじゃないから、足を広げるときはいつも“いてっ!”となる。実際、転倒したときは尻に痛みがあった。でも立ち上がれた」

 大会への準備期間が短いが、問題ないという。

「開幕4日前のここに来た。多くの人に、“そんな短い準備期間では勝つチャンスはない”と言われた。このレベルで勝つのは不可能という意見も聞いた。でも俺は自分のプレーを知っているし、グラスコートでの戦い方もよく分かっているし、ここで好成績(2014年にベスト8)を残したこともある。出場選手で恐れている選手は誰もいない。自分を信じることができ、メンタルの状態がよければ、自分がどれだけのことを成し遂げられるかも分かっている」

  2日間あればグラスコートへの準備が十分だという。

「3、4日の準備期間の違いは自分にとっては何でもない。1週間準備したからと言って、何も変わることはない。俺は7歳のときからテニスをしているんだ。2日あれば十分だ。ビッグサーブを打ち込んで思い切ってプレーするだけさ。“お前の準備は十分じゃない”と言われる筋合いはない。周囲の声は気にせず、俺は自分のやりたいように準備するだけだ」

 2月のオーストラリアン・オープン以来となる実戦には、不安よりも喜びが大きい。

「俺は毎日真剣勝負を戦っている。バスケットボール、チェッカーするときも戦っている。何をするときも真剣だ。ウインブルドンの1番コートに立って、世界でも有数の選手と観客の前でプレーするのは最高に楽しい。昨日も観客は自分を盛り立ててくれた」

 観客の期待に応えるためにプレーしている。

「“ニック、最高のエンターテインメントをありがとう!”という声が聞こえて、俺もベストを尽くそうとする。コートに立ち続けてみんなに“ショー”を見せたいんだ。テニスに違った側面をもたらそうとしているんだ。多くの人が俺にそれを期待してくれている。俺はそのためにプレーしている」

 オーストラリア勢の活躍を喜んでいる。

「アシュリー・バーティを筆頭にオーストラリアのテニスは今、盛り上がっている。質の高い選手が増えてきた。アレックス・デミノーがイーストボーンで優勝した。マーク・ポールマンス、ジェームス・ダックワースも初戦を突破した」

 チャレンジャーの頃から一緒に戦ってきたアレックス・ボルト(オーストラリア)の初戦突破も喜んでいる。

「ボルティはとても危険な選手だ。彼と練習をしてきたけど、今は自分の強みが分かり、ポイントを取れるパターンを掴み、自信を深めている。才能はあったし、努力もしてきた。昔、中国のチャレンジャーに一緒に出ていたときに地震が起きて、熟睡していたところを起こしてくれたんだ。いろいろな思い出もある」
 
 若手の台頭に歳をとったと感じている。

「自分が引退する頃には、オーストラリアからたくさんの選手がトップで活躍しているんじゃないかと思う。歳をとったと感じるよ。彼らはみんな恐れを知らない。オーストラリアのテニス界は今、素晴らしい時期を迎えている」

 毎週隔離のバブルの中でプレーすることはしない。

「隔離があるから、今年はここまでほとんどプレーしなかった。自分に問いかけたんだ。“毎週、毎週バブルの隔離生活を送りながら、お前はいいプレーができるのか?”とね。答えは“ノー”だ。コロナ禍でプレーを続けるのは自分にはよくないと思った。今大会にはガールフレンドと親友を連れてきている。もっとも信頼でき、一緒にいて心地よい2人を連れてきたかった。1週ごとに戦っていく。大会が終わったらまた休みになる。それから次はUSオープンだ」

 バブルの中で活躍するにはより一層のタフさが求められる。

「バブルの生活は大変だ。テニスで周囲と切り離されるのは耐えられない。試合を終えてウインブルドンビレッジの家に戻って散歩に行ったりするけど、周囲と切り離された生活になる。バブルの中でよい結果を残せるのは、本当にタフな選手だけだ」

 この2日間のスケジュールも大変だった。

「選手はみんなテニスが大好きだが簡単じゃない。例えば、昨日は昼の12時に試合会場に来て、ウォーミングアップをして1日中ここで過ごして、試合が終わってホテルの部屋に戻ったのは夜中の1時だ。今朝起きてバブルの中で、またここに戻ってきて試合の続きをしてから記者会見をしている。大変さ」

 ジュニア時代にオーストラリアでグラスコートの経験をたくさん積んできた。

「俺の場合は、オーストラリアに育ち、ジュニア時代にグラスコートでプレーする機会があったのは大きな助けになっている。結構、グラスコートでの大会もあるんだ。そこでグラスコートでの戦い方を確立できたと思う。結構荒れたコートもあるよ。だからフットワークがよくなる。どうやって前に出るのか、チップリターンの仕方など、グラスコートでの経験から学んできた。ジョーダン・トンプソンも同じだと思う。俺たちはたくさんのグラスコートの大会に出て、育ってきた」

 だが、自分のフットワークは大したことないと謙遜する。

「ヨーロッパの選手はたぶん、グラスコートでの経験がないから難しいんだろうと思う。グラスコートでのフットワークのトレーニングが必要だと思う。でも俺は簡単にできる。しかし、フットワークについて俺に聞くのは今回が最後だぞ。俺のフットワークは大したことない。ディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)辺りに聞いたほうがいい。自分は自然にできるようになった」

 中断して翌日に持ち越しになったことは気にならなかった。

「試合が始まる前から11時になれば、翌日に持ち越しになると言われていたよ。それを頭の中に入れてプレーした」

  ビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)とのペアは、相手の希望がきっかけだった。

「話をこじらせないようにしよう。ビーナスがあるインタビューで誰とダブルスを組んでみたいかと聞かれ、彼女はニック・キリオスと答えたんだ。プレーについて、いくらでも彼女にアドバイスするよ! ノー、ノー、ノー、それは冗談だ! 彼女はレジェンドの一人。41歳でウインブルドンのコートで勝つのは凄いことだ。俺は41歳になったらもうボールを打ち続けられないだろう」

  ビーナスの落ち着きを参考にしたいという。

「彼女とはずっとグランドスラムで一緒にプレーする計画はあったんだ。なかなか実現しなかったけどね。彼女があと何年プレーを続けるか分からないから、引退する前には、ウイリアムズ姉妹のどちらかとミックスダブルスに出たいと思っていた。俺にとっても夢のようだ。ずっと長いことトップレベルでプレーしてきたレジェンドだ。楽しいと思うし、ファンも応援してくれるだろうから、結構勝ち進めるんじゃないかな。彼女から落ち着き、冷静なエネルギーを学ぶことができるかもしれない。とても楽しみにしているよ」

 キリオスは2回戦でジャンルカ・マーゲル(イタリア)と、ビーナスと組むミックスダブルスは7月2日(金)に行われる予定だ。(テニスマガジン)

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写真◎Getty Images

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