「体の中」から深部体温を下げて熱中症を防ぐ!【メディカルラボ|第11回】
スポーツ医学の見地から、日本テニス協会医事委員を務める中田研先生が、様々なノウハウをお伝えしていくメディカル連載。今回のテーマは「熱中症対策」。普段の生活を含めた一般的な注意点から、「深部体温」を直接下げる最新の考え方まで、熱中症対策の今をご紹介していきます。
講師◎中田研
なかた・けん◎1961年2月生まれ。大阪府出身。大阪大学大学院医学系研究科スポーツ医学教授。高校・大学時代はテニス部に所属。日本テニス協会医事委員(ナショナル部会長)/強化本部テクニカルサポート委員(メディカルチーフ)、関西テニス協会理事/スポーツ医科学委員会委員長を務める
写真◎Getty Images
1|「体の中」から体を冷やす
いよいよ夏本番を迎え、テニスも夏の大会が真っ盛りとなっていきます。今年の夏は通常の熱中症対策や夏バテ対策に加え、感染症対策も必要になってくるため、より注意が必要になってきます。普段はマスクをすることが社会的ルールになっていますが、プレー直前までマスクをしていると熱い自分の吐く息を吸うことで深部体温が上がり、熱中症のリスクも高まってしまいます。
熱中症は重症化すると命にかかわる恐ろしいものです。深部体温が上がったままだと体内のたんぱく質が変性して元に戻らなくなり、意識障害や呼吸中枢がダメージを受けることで呼吸停止を引き起こしてしまいます。神経や脳が深刻なダメージを受け、後遺症が残ってしまうこともあります。
熱中症を防ぐ、つまり深部体温を下げるために、気化熱で体表温度を下げるために汗をかいたり、汗をかくためにカリウムやナトリウムを含んだ電解質の水分を補給したり、またアイシングで直接体表を冷やすことが必要になりますが、最近は冷たい水分などで直接、深部体温を下げることも有効だということが言われています。
以前は補給する水分の温度は10度くらいが適温とされていましたが、0度の氷水を飲むことは体の中から深部温度を下げるのに効果があります。もちろん人によって体質は違いますし、冷たい飲み物を飲んだらお腹を壊してしまうという人は注意が必要ですが、氷水をたくさん飲むことができれば熱中症対策に有効になるのです。
さらに言えば氷をそのままかじるのもいいでしょう。現在は「アイススラリー」という食物繊維を凍らせてものも市販されています。溶けにくい飲む氷のようなものを体内に入れることで、体の中から長い時間冷やすことができるのです。これも人によって合う合わないはあるのですが、「アイススラリー」のようなものが登場するほど、熱中症対策として「体の中から冷やす」ということが注目されているのです。
「訓練」というと大袈裟ですが、普段から「冷たい飲み物をしっかり飲むことができる」というのも大切になるのです。試合や練習のときには、水分補給と同時に体を中から冷やすために、保温性の高い水筒などに氷水などを用意しておくとよいでしょう。
冷たい飲み物で「体の中」から冷やすことも有効だ
2|しっかり汗をかくために
深部体温を下げるための基本は「汗をかくこと」です。体内の熱は血液循環を介して体表の熱となり、汗をかくことで蒸発するときの気化熱によって体表の温度が下がり、再び血液循環によって深部体温が下がります。
このとき皮膚が汗でびしょびしょに濡れている状態だと、汗が蒸発しにくくなり、いくら汗をかいても体表温度が下がってくれません。こまめに汗をふく、余裕があればこまめにウェアを着替える、と言われるのは汗がしっかり蒸発できるようにするためです。
しっかり汗をかけるように体を慣らしておくことも重要です。「暑熱順化」と言いますが、深部体温が上昇したときにしっかりと体が反応して汗をかきやすい状態にしておくことです。体が慣れていないと深部体温が上昇しても皮膚の血流量が増えず、「汗をかく」という体表温を下げるための反応がうまく起こりません。
体を暑さに慣れさせるには、普段から汗をかいておくことが必要です。しっかり睡眠をとって体調がいいときに、あえて暑い時間帯に20分程度の運動をして汗をかいておきましょう。もちろんその際も、しっかり水分補給をしてください。
こまめにふくことで汗を蒸発しやすくして体表温を下げることができる
3|水分補給では「飲み過ぎて悪い」ことはない
汗をかくためには水分補給が欠かせません。しっかり水分補給をしてすっかり汗をかき、汗がどんどん蒸発して体表の温度を下げ、深部体温を下げるというのが熱中症対策の大前提になるのです。
このとき、「汗をかいてから飲む」のではなく、「汗をかくためにプレー前に飲む」「汗をかくために飲む」ことが必要です。スポーツドリンクなどを活用して、カリウムやナトリウムを含んだ電解質の水分を補給するようにしましょう。
水分補給において「飲み過ぎて悪い」ということはありません。体に水分が足りているときには尿として排出されるだけです。むしろ体に水分が足りていないと腎臓が尿から水分を再吸収するため、腎臓に余計な負担が掛かってしまいます。
テニスの日本代表の選手たちには30分に1リットルの水分補給を推奨しています。2時間の試合なら4リットルということになります。一般のプレーヤーでも1時間に1リットルは目安にしてもらいたいところですが、飲み慣れていないとお腹がタプタプになってしまい、体が水分を必要としているのに飲めない、ということになってしまいます。
つまり「飲む力」も大切になるのです。普段の生活から自分がどれくらい水分を摂取しているかを意識しながら、「飲む力」を養ってください。体調と相談をしながらですが、深部体温を下げるためにもできるだけ冷たい飲み物をたくさん飲むことができるようにしておきましょう。
必要な水分を補給するための「飲む力」も大切だ
4|「プレーする前」「寝る前」の水分補給
なぜプレーする前に水分補給が必要なのかをもう少し解説しましょう。
人間の体は汗をかいていなくても皮膚の表面から水分が蒸発していきます。運動をしていなくても、汗をかいているという自覚がなくても、汗が蒸発しているのです。これを「不感蒸発」と言います。「不感蒸発」では体温や気温が高かったり、湿度が低く乾燥していたりすると体から失われる水分の量は増えます。
夏場にエアコンの効いた室内にいると、「不感蒸発」によって思った以上に体の水分が失われているかもしれません。その状態で体を動かして汗をかいてしまうと、体の水分のバランスはマイナスになってしまい、体温調節ができなくなってしまいます。そうならないように夏場はプレーやウォームアップで汗をかく前に、水分を補給することが大切なのです。
これはいわゆる「クーラー病」の原因でもあります。夏場は暑くて眠れないという状態を避けるために、クーラーで室温を適温にしてしっかり睡眠をとることを優先するべきですが、クーラーをつけると室内が乾燥しやすくなります。寝ている間に「不感蒸発」で失われる水分も多くなります。日焼けで皮膚が炎症を起こしているときなどは、さらに「不感蒸発」は多くなります。
「寝る前にコップ一杯の水を飲みましょう」と言われるのはこのためです。クーラーで室内が乾燥していると、知らぬ間に体は脱水状態になりやすくなるのです。寝ている間に限らず、脱水状態で体がだるく感じるのが「クーラー病」の正体のひとつです。
「プレーする前」「寝る前」の水分補給は大切です。さらに言えば夏場は普段からこまめに水分補給をすることが大切です。繰り返しますが、水分補給においては「飲み過ぎて悪い」ことはないのです。
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