グラフ、ソウルでも揺るがず_金メダル獲得で史上初のゴールデンスラム達成
世界中に話題を提供し、そしてまた、それを上回る数の感動を残して幕を閉じた1988年ソウル・オリンピック。64年ぶりに正式種目に復活したテニスも、その例外ではない。今後もテニスとオリンピックは、ともに手を取り合い、新たな歴史を刻んでいくだろう。大会前の全米オープンで年間グランドスラムを達成したシュテフィ・グラフ(ドイツ)が決勝でガブリエラ・サバティーニ(アルゼンチン)を破り、金メダルを獲得して史上初の5冠“ゴールデングランドスラム”を達成した。(※原文ママ)(1988年11月5日号掲載記事)
文◎YASUHIKO SATO
グラフが年間グランドスラムに続き、ソウル・オリンピックでも金メダルを獲得して史上初の5冠達成
記者会見に引き上げてきたグラフの表情には、笑顔はなかった。
「疲れた」という言葉のとおり、少々やつれた感じすらあった。年頭から世界中で言われ続けてきたことをすべて達成し終えて、ホッとしたのだろう。
全豪、全仏、ウインブルドン、全米を制覇した、グランドスラムの偉業。そして64年ぶりに正式種目に復帰した、オリンピックでの金メダル。驚くべき記録である。
世界最強、グラフの優勝とそれを支えた史上最強のフォアハンド。この日もライバル、サバティーニに対して、フォアハンドストロークとリターンで奪ったポイントは28にも達した。
ソウルでも冴に冴えたグラフのフォアハンド。まさに史上最強の“殺人フォア”
さらに、そのファハンドがサバティーニのペースを崩し、絶妙なドロップショットとロブを可能にした。
サバティーニのプレーにもグラフに対する研究と練習の跡がうかがえた。サーブはワイドに散らし、ストロークも深かった。また、グラフ・テニスのベースをつくるバックハンドスライスに対しても、スライスで応じた。
全米オープン決勝のときのように、無理やりひっかけてネットすることは少なかった。
事実、最初に相手のサーブをブレークしたのは、サバティーニだった。グラフのサーブの第1セット第5ゲーム。15-40から、サバティーニは2回のデュースを経てブレークした。そのゲーム中、珍しくグラフがタオルをとり、間をとるほどだった。
しかし、その直後の第6ゲーム。サバティーニは、逆に硬くなってしまう。サバティーニはイージーストロークミスをおかし、あっさりとグラフがブレークバック。これ以降、グラフのエンジンは、あっという間に全開になった。あとは、いつもの無表情で、無敵のグラフである。
全米決勝の雪辱を期して決勝の臨んだサバティーニだが、絶好調グラフの牙城は崩せず
「すべてをやり尽くして、テニスを続ける意欲を失ったのではないかと言う人がいるわ。でも、私はテニスが好きだし、来年は今年とは違うシーズンよ。まだまだ練習したいショットもあるし、バックハンドストローク、そしてサーブからのネットプレー。
将来のグラフの姿? そうねえ、きっとネットプレーが多くなるでしょうね。今でもネットに出るけれど、チャンスになるとやはりストロークに頼ってしまうから」
グラフは、可能な限り完成された良い選手になりたいと言った。その言葉を聞いたとき、ナブラチロワが、究極のテニスを目指したいと、記者に答えてくれたときのことを思い出した。あのときは、確かマルチナ・ナブラチロワもグランドスラム(連続優勝)を達成した頃だった。
64年ぶりのオリンピック・テニスは、すべて終了した。
「オリンピックが最高の競技者を決める場であれば、プロにオープン化するのは当然だわ」
メダルを手にすることなくソウルを去ったクリス・エバートはこう言った。
64年ぶりに、オープン化というお土産を持ってオリンピックに戻ってきたテニス。ナンバーワン、グラフの圧倒的な強さと、史上最強のフォアハンドは、まさにオープンテニスの象徴だった。
そして、それは92年バルセロナ・オリンピックにおける、他種目のオープン化も大きく推し始めるに違いない。
年間グランドスラム達成者(全豪、全仏、ウインブルドン、全米優勝)
男子シングルス
1938年 ドン・バッジ(アメリカ)
1962年 ロッド・レーバー(オーストラリア)
1962年 ロッド・レーバー(オーストラリア)
女子シングルス
1953年 モーリン・コノリー(アメリカ)
1970年 マーガレット・コート(オーストラリア)
1988年 シュテフィ・グラフ(ドイツ)
ゴールデンスラム達成者(全豪、全仏、ウインブルドン、全米、オリンピック優勝)
1988年 シュテフィ・グラフ(ドイツ)
年間グランドスラムまで、あと一勝(2021年9月全米)
ゴールデンスラムまで、あと二勝(2021年8月オリンピック+9月全米)
2021年 ノバク・ジョコビッチ(セルビア)
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