予選勝者からグランドスラム大会チャンピオンへ、イギリスの18歳ラドゥカヌが史上初の快挙 [USオープン]

写真は予選から1セットも落とさずグランドスラム大会チャンピオンとなった18歳のエマ・ラドゥカヌ(イギリス)(Getty Images)


 今年最後のグランドスラム大会「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月30日~9月13日/ハードコート)の大会13日目は、女子シングルス決勝などが行われた。

 ティーンエイジャーのエマ・ラドゥカヌ(イギリス)は先月、世界ランク150位の選手としてニューヨークにやって来た。それ以前に出場したグランドスラム大会はひとつだけで、帰りのフライトは本戦入りを逃した場合のためUSオープン予選のすぐあとに予約してあった。

 ところが彼女は土曜日に本戦の決勝で同じ10代のレイラ・フェルナンデス(カナダ)を6-4 6-3で下し、前例のない予選からグランドスラム大会チャンピオンへの驚くほど圧倒的な旅を完了させてアーサー・アッシュ・スタジアムで優勝杯を抱いていたのである。

「人は『グランドスラム大会で優勝したい』などと言ったりする。でも実際に自分がそれをやってのけてグランドスラム大会で優勝したなんて信じられないわ」とラドゥカヌはコメントした。

 誰が信じられただろうか。すべては、あまりにありそうもないことだった。

 3ヵ月前まで、彼女は一度もツアーレベルのプロ大会でプレーしたことがなかった。それは新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックや両親が高校を卒業することを望んだことなどさまざまな理由から、彼女が1年半以上大会に出ていなかったからでもある。

「私の父は、間違いなく喜ばせるのが凄く難しい人なの。でも今日は何とかそれができたわ」と18歳のラドゥカヌは微笑みを浮かべながら言った。

 グランドスラム大会の女子シングルスで、ラドゥカヌは優勝どころか決勝に進出した史上初の予選勝者だった。彼女はフラッシングメドウで10試合(予選3試合+本戦7試合)をプレーし、2014年のセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)以降で初めて一度もセットを落とさずUSオープンでタイトルを獲得した女子選手となった。

 カナダのトロントで生まれて2歳のときに家族と一緒にイギリスに移住したラドゥカヌはまた、グランドスラム大会シングルスで優勝した1977年のバージニア・ウェード(イギリス)以来となるイギリス人女性となった。エリザベス女王は彼女に祝辞を送り、その勝利を「これほどの若さで目覚ましい成果」と称えた。

 それがいかに急な台頭だったかを示す『初の』『~以来の』はまだまだある。例えばラドゥカヌは、17歳のときに2004年ウインブルドンで優勝したマリア・シャラポワ(ロシア)以降でもっとも若い女子グランドスラム大会優勝者だ。これは17歳のセレナが18歳のマルチナ・ヒンギス(スイス)に勝った1999年USオープン以来となる10代同士のグランドスラム大会決勝であり、1968年のプロ化以降の時代で初のノーシード同士によるグランドスラム大会女子シングルス決勝でもあった。

 今週の月曜日に19歳の誕生日を迎えた世界73位のフェルナンデスはロッカールームからコートの入り口に続く廊下で受けた試合前のインタビューで土曜日の最大のチャレンジは何だと思うかと尋ねられ、「正直なところ、わからないわ」と答えた。

 フェアなことだ。彼女もラドゥカヌもわからなかっただろう。これはフェルナンデスにとって7度目のグランドスラム大会であり、彼女はこれまで3回戦を超えたことはなかったのだ。

 決勝を終えたフェルナンデスの眼からは涙が溢れ、彼女はスタジアムの観客たちに向かって「またここで決勝に戻ってきて、今度はトロフィーを手にしたいと思います。正しいほうのトロフィーを」と語った。

 その少しあとに彼女はマイクを要求すると、9・11同時多発テロから20周年の日に訪れた2万3703人の観客たちに言葉を送った。

「この日がニューヨークとアメリカ全土にとって特別に辛いものだったことは知っています。私はただニューヨークがここ20年間そうだったように、強く立ち直って奮起する力を持てるようでありたいと願っています」と同時多発テロの1年後に生まれたフェルナンデスは話した。

「ずっと私を後押ししてくれてありがとう。応援してくれてありがとう」

 今大会での彼女とラドゥカヌはともに、ベテランのような落ち着きとショットメイキング能力を見せた。3年前にウインブルドンのジュニアの部2回戦で対戦していた彼女たちは、単なる新参者という様子ではなかった。お互いが持つ大舞台との相性とそこで輝く才能は、紛れもないものだった。

 3度目のチャンピオンシップポイントで時速約173kmのサービスエースを決めて勝利が確定した瞬間、ラドゥカヌはラケットを落として仰向けに倒れて両手で顔を覆った。そのあと彼女はスタンドに登り、コーチやチームのスタッフたちと勝利を祝い合った。

「それは誰もがいつも考えているんじゃないかしら。そのために頑張っているようなものよ」

 ワイルドカード(主催者推薦枠)を得てグランドスラム本戦デビューを飾った今年のウインブルドンで4回戦に進出したラドゥカヌは、そこで呼吸困難に陥って試合途中で棄権を余儀なくされていた。それはまだラドゥカヌがトップ300圏外で、ほぼ無名だった7月のことだった。

 そして今? ラドゥカヌは大会後に更新されるWTAランキングで、世界25位に浮上することが確実となった。彼女を取り巻く状況がどれほどあっという間に変わったのかは、実に驚くべきである。彼女は250万ドルの賞金を受け取り、イギリスでも全世界でも有名になった。何より彼女は今、そして永遠にグランドスラム大会のチャンピオンなのだ。(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)

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写真◎Getty Images

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