USオープン優勝者ラドゥカヌが18歳にして見せた落着き「過去5週間に学んだすべての蓄積のおかげ」
今年最後のグランドスラム大会「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月30日~9月13日/ハードコート)の女子シングルス決勝で、エマ・ラドゥカヌ(イギリス)がレイラ・フェルナンデス(カナダ)との10代対決を6-4 6-3で制して栄冠に輝いた。
自身で「血がどくどく流れていた」と表現した左膝を治療するため、ラドゥカヌはアーサー・アッシュ・スタジアムでコートサイドのベンチに座っていた。
OK、多分それは少し過剰な表現かもしれない。それでもイギリスからやって来た18歳のラドゥカヌは、もっとも不適切な瞬間にベースラインの後方で転んだのだ。それは始まったばかりのキャリアで2度目となるグランドスラム本戦の舞台で、キープすれば優勝というサービスゲームを迎えていたときだった。
トレーナーが患部をきれいにしてラドゥカヌの傷に絆創膏を貼ったあとにプレーが再開されたとき、彼女は19歳のフェルナンデスに対する土曜日の決勝でブレークポイントに直面していた。これはラドゥカヌが前のゲームでふたつのチャンピオンシップポイントを決めきれなかったあとのことだった。集中力をなくして道を見失っていても、すべてに圧倒されていてもおかしくなかったはずだ。
反対にその中断中にラドゥカヌが考えていた思考プロセスは、次のようなものだったのだ。それはどこからともなく現れてフラッシングメドウでタイトルを獲ったこの選手にとって、いい前兆を示す精神姿勢だった。
「自分のプレーパターンをどんなふうにするか、何をしようとするかを考えようとしていたの。中断のあとにから再開するのは簡単なことじゃないわ。でも私は間違いなく、必要なときにしっかりと切り抜けられるプレーができたと思う」
彼女がニューヨークでの印象的な旅を通してやってのけたように、フェルナンデス――彼女もまたタイトル防衛を目指していた大坂なおみ(日清食品)を含む4人の実績あるシード選手を倒すなど目覚ましい活躍を見せた――に対する勝利はラドゥカヌを一躍スターに押し上げた。
さらにラドゥカヌはグランドスラム大会で予選から勝ち上がってチャンピオンとなった史上初のプレーヤーとなり、17歳のときに2004年ウインブルドンで優勝したマリア・シャラポワ(ロシア)以降でもっとも若い女子グランドスラム大会優勝者にもなった。
もちろんそれは、必ずしもラドゥカヌがシャラポワと同じようにグランドスラム大会で多くのタイトルを積み上げて世界ランク1位になる運命だということを意味している訳ではない。今シーズンを345位で始めてUSオープン開始時に150位だったラドゥカヌが月曜日に23位となったとはいえ、これらふたつの成果に至るためにはまだまだ長い道程が待っている。
それでも、ラドゥカヌがニューヨークでの10試合(予選3試合+本戦7試合)でストレート勝ちすることを可能にしたショットメイキング能力と落ち着きを否定することはできない。彼女はベースラインから見事なバックハンドと重いトップスピンのかかったフォアハンドを駆使し、スピードと予測力に基づいて構築された攻撃的なスタイルでプレーする。そのフォアハンドは、フェルナンデスに対する決勝で第1セットを締めくくるダウン・ザ・ラインへのウィナーと第2セットで4-2とリードするブレークを生み出した。
またラドゥカヌにとって幸先がいい兆候は、彼女が数ヵ月前に経験した初のグランドスラム本戦だったウインブルドンで起きたことにどう対処したかだった。当時プロツアーでほとんどプレーしていなかったにも関わらず、彼女はオールイングランド・クラブからのワイルドカード(主催者推薦枠)を受け取って本戦入りすると直ぐに強い印象を与えた。彼女は試合中に眩暈と呼吸困難に襲われ途中棄権を余儀なくされたものの、4回戦まで進出したのだ。
その翌日にラドゥカヌは「この経験が心身に堪えていたかもしれない」と説明したが、「昨夜の経験はトップでプレーするためには何が必要かを学ぶために大いに役立つことでしょう」とコメントしていた。
学習能力の速さについて語ろうではないか。
ごく最近に高校の卒業試験を終えたばかりの彼女は、ウインブルドン後にすべて――高まる注目、アップダウン、母国の観客の前での受け入れ難い途中棄権――を差し置いて真っ直ぐ仕事に戻った。
「ウインブルドンは本当に信じられないような経験だったの。4回戦、大会2週目、信じられなかった。私は『何て素晴らしい成果なんだろう』と思っていたのよ」とラドゥカヌは振り返った。
「でも私は、変わらずハングリーだったわ」
USオープンに繋がる一連のハードコート大会に参戦するためアメリカに渡ったラドゥカヌは、ペンシルバニア州ランディズビルでのITF10万ドル大会などWTAツアーより低いカテゴリーで数試合をプレーした。それは彼女の言葉を借りれば、技術を構築することに集中するためだった。
「毎試合、毎大会、毎週をプレーするうちに、私は本当に自分のテニスやボールを打つ能力という点で自信を築き上げていったと思うの。今日はすべてがぴったりと嵌った感じね」とラドゥカヌは決勝を終えたあとにトロフィーが載ったテーブルを前に語った。
「ええ、自分が本当に必要としているときや重要な瞬間に私が打ったいくつかのショットをうまく引き出すことができたのは、過去5週間に学んだすべての蓄積のおかげだったと思うわ」(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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