「終わりが近い」と感じているフェデラーが考える自分らしい“引き際”とは?
今年6月のウインブルドン開幕の少し前、ロジャー・フェデラー(スイス)は10年前にピート・サンプラス(アメリカ)と交わした引退についての会話を思い返した。
「彼は僕のタンクにエネルギーがあとどのくらい残っているかに疑問を持っていた。あのときは僕がちょうど30歳になろうという時期だったよ」とフェデラーは振り返った。
「彼は僕のキャリアが終りに近づきつつあると考えていた。それは単に、彼の考えでは31歳とか33歳にもなるとツアーであと何年も自分を駆り立て続けるのが難しくなるというのが普通だったからなんだ。僕たちが送ってきたキャリアでは、ある意味で多くの犠牲を伴う経験をしなければならないからね」
8月に40歳になったフェデラーは特に一連の右膝手術後、自分がこの年齢でまだ続けているとは思ってもみなかったと打ち明けた。彼が来年1月のオーストラリアン・オープンだけでなく6月27日に開幕する予定のウインブルドン出場も難しいと予想しているという水曜日のニュースにより、フェデラーがハイレベルの大会でプレーする機会はもうそれほど多くはない――或いはまったくなくなる可能性もある――という見解がいっそう現実味を帯びてきた。
テニス界にとっても彼のファンにとっても、そしてもっとも重要なことに彼自身にとっても“そのとき”は迫っている。
「例え終りが近いことがわかっていても、僕はさらにいくつかのビッグマッチをプレーしたい。簡単なことではないだろうけど、僕はトライしたいんだ」とフェデラーはスイスの日刊紙『トリビューン・ド・ジュネーブ』に掲載されたインタビューの中で語った。
「はっきりさせておこう。もしもう一度グランドスラム大会決勝でプレーできなかったとしても、僕の人生が崩壊してしまう訳ではない。でも、そこに戻っていくことは僕の究極の目標なんだ。僕はプロのテニスプレーヤーとして、自分に何ができるのか最後にもう一度見てみたい」
それは間違いなく多くの人々が共有している感情で、世界ナンバーワンのノバク・ジョコビッチ(セルビア)も同じことを感じていた。
イタリア・トリノで開催中のATPファイナルズに出場しているジョコビッチは水曜日、「言うまでもなく、ロジャーは我々のスポーツのアイコンだ。世界中の人々が彼を愛している。人々は彼がプレーするところを観るのが大好きだ。皆が彼の姿を目にしたがっている。彼はコート内外を問わず、テニス界にとって非常に重要な存在なんだ」とコメントした。
「だからテニス界のためにも、少なくともあと一度は彼がプレーする姿を観ることができるよう心から願っているよ」
グランドスラム大会シングルスの獲得タイトル数「20」でジョコビッチとラファエル・ナダル(スペイン)の3人で男子の最多記録を分け合っているフェデラーは、ここ1年半で3度目となる手術を受けてから大会に出場していない。
7月7日のウインブルドン準々決勝でホベルト・フルカチュ(ポーランド)に3-6 6-7(4) 0-6で敗れたすぐあと、フェデラーは半月板と軟骨を修復する手術を受けた。それまでグランドスラム大会で3回戦を超えたことがなかった相手と対戦したその日、彼は肉体的に万全な状態ではなかった。フェデラーは四大大会で429試合をプレーしたが、0-6でセットを落としたのはそれが3度目だった。
だからこそフェデラーは水曜日に掲載されたそのインタビューの中で、自分のファンは「今年のグラスコートシーズンの間に残されたイメージよりいいものを受けるにふさわしい」と言ったのだ。彼は自分が見せてきたプレーの消えない記憶が自分の勝利なのだと考えてもいたが、それでもはやりふたたびグランドスラム大会でプレーしたいという思いは強かった。
左膝の手術でシーズン後半を棒に振った2016年とは違い、回復とリハビリには辛抱強く取り組む必要があることをフェデラーは理解していた。彼は2017年に復帰したあと、出場したグランドスラム4大会で3つのタイトルを獲得した。
現時点でのフェデラーは1月にジョギングができるようにし、その2~3ヵ月後にテニスの練習を再開することを目指している。
「彼はこのような形でキャリアを終えたいとは思っていないはずだ。彼は間違いなく、最後の挑戦に臨もうとしているのだと僕は思うよ」とジョコビッチは話した。彼は3月8日にフェデラーの持つ310週の世界1位在位期間の最長記録を破り、サンプラスを上回る7度目の年末世界ナンバーワンを決めている。
「彼が達成したことやテニスのために生み出したすべてのことを考えると、彼はプレーして適切な形で別れを告げる機会を持つことがふさわしい」
かなり前にサンプラスと交わした会話が示しているように、人々はフェデラーにあとどのくらい長くプレーする予定かについて尋ね続けてきた。
それに対してフェデラーは「僕たちは僕が自分らしい方法でテニスコートの上で別れを告げることができたらと願っている」と答え、「絶対的な意味で“ふさわしい引き際”というものはない。ただそれぞれの選手に適した瞬間というものがあるのだと僕は思っている」と言い添えた。(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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