ペン・シューアイのビデオがネットに投稿されるも疑念は拭えず
中国・北京で開催されたあるユース大会の関係者がリリースした写真によれば、中国の元政府高官に性的暴行を受けたと告白したあと行方不明になっていた女子テニス選手のペン・シューアイ(中国)が日曜日に姿を現した。
世界の他国がペンの安全について心配して騒ぎが広がる中、中国共産党は中国国内でペンに関する情報を抑圧しながら海外で増幅している懸念と恐怖を鎮めようと奔走している。
チャイナ・オープンによって同国の主要ソーシャルメディアであるウェイボー(中国版ツイッター)に投稿された写真のコメントには、ペンの失踪や性的暴行の告発については何も触れられていなかった。写真の中でペンはコートサイドに立って手を振り、子供たちのために大きな記念テニスボールにサインをしていた。
この写真は政党新聞の編集者が行ったツイッター上での発表に続いて投稿されたもので、中国国内のインターネットユーザーの大半が見ることができないその投稿ではオリンピックに3度出場したダブルスの元トップ選手であるペンは間もなく『公の場所に姿を現すだろう』と書かれていた。
ウインブルドンとフレンチ・オープンの元女子ダブルス優勝者であるペンが2018年まで中国共産党の政治局常任委員会のメンバーだったジャン・ガオリー(張高麗)氏が自分に性的関係を強いたと発表したあと、中国与党は彼女が行方不明となっている事実を認めないまま世界中で起こっているペンについての警戒を和らげようと躍起になっているように見える。
ペンが行方不明であることや情報を求める声に対して政府が沈黙を保っていることから、2月に北京で開催予定の冬季オリンピックをボイコットしろという声が上がっている。女子のプロテニスツアーは元ダブルス世界ランク1位のペンの安全が確認されない限り、中国から大会を撤退させると圧力をかけている。
大きな騒動となっているペンの告発に関する論議は、中国国内のあらゆるウェブサイトから削除された。政府報道官は金曜日、この告発については知らないと言い切った。中国政府のインターネットフィルターはまた、中国のほとんどの人々が海外の他のソーシャルメディアや世界的な報道機関のニュースを見ることができないよう操作して情報をブロックした。
中国のソーシャルメディア上のコメントはWTA(女子テニス協会)やペンについて声を大にしている人々を批判しており、その一方でツイッター上の中国語でのコメントは写真やビデオのリリースという下手な隠蔽工作をからかってもいる。ソーシャルメディアのシンラン ウェイボー(Sina Weibo)では、「WTAはいつ中国から出ていくんだ?」とコメントがついていた。
近年は与党の人物を批判したあとまたは汚職や民主主義と労働の権利キャンペーン取り締まりの一環で消息を絶つ中国人(ビジネスマン、活動家、一般人たち)が増えており、ペンもその中に加わった。数週間または数ヵ月後に説明なく再出現する人もおり、そのことが拘留された事実や理由を開示しないよう警告されていることを示唆している。
中国共産党の新聞『グローバル・タイムス』の編集者であるフー・シージン氏は土曜日、ツイッター上に「ペンは自分の家で自由に暮らしており、間もなく公の場に姿を現していくつかの活動に参加するだろう」と書いた。
外国の読者を対象に英語で書かれたグローバル・タイムズは、その愛国主義的な傾向で知られている。フー氏はツイッターのアカウントを使って外国政府を批判したり、海外の社会的および経済的な問題を指摘したりしている。
bobzhang999と署名されたツイッター上のあるコメントは、「フー・ドッグ。そんなに多くの写真を使うより、何故ペン・シューアイ自身に話させないんだ?」と書き込んた。Cool Witchと署名された他のコメントは、「ペン・シューアイの家族に記者会見を開かせろ」と述べていた。
テニスのトップ選手たちとWTAは、ペンの情報を求めて通常以上に声を大にしている。他の企業やスポーツ団体は中国市場へのアクセスや他の報復を恐れ、北京と対立することに気が進まない様子を見せている。
2018年に現職から退いたあと公の場に姿を現していないジャン氏に対するペンの告発の調査をしているか否かについて、中国共産党は明らかにしていない。
例えペンの告発が正当だと見なされたとしても中国の人々は頻繁に虐待について苦情を公表したことで政府を辱めた旨を咎められ、秘密主義で反応が鈍い公式な法律制度を通ることなく罰を課されたり投獄されたりしている。
国営メディアは自国のアスリートの成功を自分たちの政党が中国を強くしている証拠として祝うため、ペンのようなスターアスリートのステイタスは特に微妙な位置にある。しかし彼らは同時に、アスリートたちがその地位と公衆へのアピールを自分たちのイメージを腐食させるために使うことがないか目を光らせている。
土曜日にフー氏がレストランにいるペンの様子を映した2つのビデオを投稿したあと、WTAの会長兼CEO(最高責任者)であるスティーブ・サイモン氏はペンの安全について懸念を表明した。
「彼女の姿を見るのはポジティブなことだとはいえ、彼女が威圧されたり他者から干渉されたりすることなく自由に自分で決断を下したり行動を起こしたりできているのかは依然としてはっきりしていません。このビデオだけでは不十分です」とサイモン氏は語った。
「我々の中国との関係は今、重大な岐路に立っています」
3つの五輪に参加してテレビ放映やスポンサー契約で何百万ドルという収益に貢献したペンの立場について、国際オリンピック委員会(IOC)はほぼ沈黙を保っている。
オリンピック選手の利益を代表する任務についているIOCアスリート委員会の責任者に選ばれたばかりのエンマ・テルホ氏は土曜日に声明文を通し、「IOCが採用している“静かな外交”を支持する」と述べた。
国営テレビの海外部門は先週にペンからのものだと主張して英語の声明文を発し、その中ではジャン氏への告発を撤回すると述べられていた。サイモン氏はこの声明の信憑性に疑問を呈し、外部からもそれは彼女の安全に関する懸念を増幅させるだけだという声が上がっていた。(APライター◎ジョー・マクドナルド/構成◎テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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