「グランドスラム優勝回数でジョコビッチに抜かれても、僕の幸福度は1%も変わらない」フレンチ・オープン優勝後に語ったナダル

フレンチ・オープン優勝の翌日、トロフィーを持ってフォトセッションを行ったラファエル・ナダル(スペイン)(Getty Images)


 前人未踏のフレンチ・オープン14度目の優勝を果たしたラファエル・ナダル(スペイン)が24時間ニュース専門チャンネル「CNN」のインタビューに答えた。

この2週間を振り返って欲しい。

「面白い2週間だった。感情を揺さぶられる2週間を経験した。最高の終わり方だった。これ以上うれしいことはない。応援してくれた皆に感謝してもしきれない。人々から受けた愛情は忘れられないものだ」

 グランドスラム22度優勝にオリンピックで金メダル2個。前回聞いたときは否定したけど、今一度聞きたい。自分がグレーテスト・オブ・オール・タイム(GOAT)だと言われる準備ができている?

「正直、あまり考えたことがない。心の底から、それほど気にしていないんだ。どうでもいいとさえ思っている。僕らは夢を実現した。僕も夢を叶えた。この質問はよく理解できる。プレスも人々もこの話題が気になっているのもよくわかる。テニスの歴史の重要な部分ではあるし、誇りには思っている。でも、やっぱりあまり気にしていないんだ」

オンコートのスピーチでは、36歳でこれだけ成功して、この舞台に立つとは思っていなかったと言った。モハメド・アリがボクシンググラブを外したときのように、君の指にはたくさんのテーピングが巻かれている。今日は足を引きずっている。ここにいるとは思ってもみなかったと言うが、どうしてここまでのことが達成できたと思う?

「予想できなかったことだ。この数年間は本当に難しかった。パンデミックのあとに、足に何かが起きてしまった。痛みのため頻繁に練習、試合をすることができない。過去にも多くのことがあった。2005年に初めて足を痛め、膝にもかなり長いこと悩まされてきた。手首も何度か負傷した。これらすべてを乗り越えるチャレンジには、前に進むための情熱が必要で、自分にはそれがあった。テニスが大好きでプレーし続けたい。そのおかげで今、自分がいる場所に辿り着けたのだろう」

引退の噂もあったが、今もプレーを続けている。可能ならウインブルドンにも出場する?

「何も変わっていない。勝ったり、負けたりすることで自分の気持ちが変わる訳じゃない。テニスをすることができて、幸せかどうかが重要なんだ。もし痛みが耐えられないものなら、幸せじゃない。満足できる練習ができないようなら、僕にとってプレーする意味がなくなる。今大会のあとに引退することはまったく考えたことがなかった。足が回復しないことに関しては、まだどうするかわからない」

君のケガはマラーワイス症候群? 足に注射を打つのは決勝だけ? それとも大会を通してずっと打っていた?

「毎日打たなければならなかった。3週間前、ローマでの試合での第2セット途中に足が痛くなり、片足だけでプレーするような状態になって走れなくなった。今大会の成果には満足している。だが、この足とうまく付き合っていく方法を見つけないといけない」

コーチのカルロス・モヤ(スペイン)がこの年齢になれば痛みにも対処しないといけないと発言していた。テニスの面では必要な技術はすべて備えており、あとは心の問題だと思っている?

「いつでも上達する余地があると思っている。僕はテニスがそういうものだと理解している。練習するときはいつも目標を立ててやる。それがテニスというものだ。ただ何となく練習するのは意味がない。練習するのはうまくなるためだ。僕はそのアプローチ方法でずっとキャリアを積んできた。もちろん、この年齢になればフィジカル面の問題は重要なことだ。体の状態がよければいい練習ができるし、テニスを楽しむことができる。今年は調子がいい」

オーストラリアン・オープンの決勝で2セットをリードされたとき、ネットの向こう側にいる相手は前年のUSオープンを制したダニール・メドベージェフ(ロシア)だった。どんなことを考えた? フレンチ・オープンでのフェリックス・オジェ アリアシム(カナダ)戦も大変だったと思う。

「僕が負けるのはごく普通のこと。だが、相手に簡単には勝たせない。体に問題はあるが、心は大丈夫だ。解決する方法を見つけるしかない。よりよくプレーするための方法を見つけ、対戦相手が心地よくプレーできないようにする術を探ることだ」

君は素晴らしい人間だと言われ、謙虚で優しい。その人格は若い頃に形勢されたのか、勝ち続けることで身についたの?

「いい価値の中で生まれ育った。家族からテニスをプレーするプレッシャーを感じたことがない。家族の中では、すべてのことに敬意を持つように言われて育った。勝つことは求められていない。いい人たちに囲まれて育った。自分は他の人の話にしっかり耳を傾ける。周りをよく見て、自分がいいと思ったものを取り入れる。テニスをしていなければ経験できない素晴らしいことがたくさんあった。いろんな人と出会い、世界のいろんな場所へ行き、その土地のことを知るようになった。これだけのことを経験できて本当に幸運だと思う」

グランドスラム大会の優勝回数でロジャー・フェデラー(スイス)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)を上回っていることに喜びを感じているはずだ。

「もちろん、グランドスラム優勝回数でナンバーワンに立ちたい。それが競争というものだ。嫌な訳がない。僕の考え方を少し変えた出来事だ」

だからずっと優勝し続けているのでは?

「わからない。もし、ノバクが23回に届いて僕が22回のままで抜かれても、僕の幸福度は何も変わらない。1%も変わらないさ」

ジョン・マッケンロー(アメリカ)やマッツ・ビランデル(スウェーデン)はグランドスラム22回優勝、その中でも特にフレンチ・オープン優勝14回は、もう二度と起きないと言っている。

「自分のことについて話すのは難しいな。いつも自分のことは、ごく普通の男だと思っている。もし僕にできたのなら、他の人にもできるかもしれない。グランドスラム22回優勝のほうが実現する可能性は高いだろう。いつかは誰かが確実にその記録を抜くだろう。でも、ロラン・ギャロスで14回優勝するのは、とても、とても難しいことだ」

そして君はロラン・ギャロスを愛している。クレーコートは一番タフなサーフェスだが、そこで優勝するには何が必要?

「クレーはフィジカル面、戦術面で一番難しいサーフェスだ。時間もあり、しっかりポイントを組み立てないといけない。でも、攻撃的にも守備的にもプレーできるサーフェスでもある。僕はどのサーフェスでプレーするのも好きだ。グラスコートもハードコートも好きだ。ただ、ハードコートでは足への負担が大きくなる。いろんなサーフェスがあることがテニスの魅力でもある。偉大な選手になるために、いろんな状況にも対応していいプレーをする必要がある」

キャスパー・ルード(ノルウェー)は君のアカデミーで育ち、君に憧れていた。そういう選手と対戦するのはどんな気持ち? 若い選手がどんどん出てくるけど、みんな君に倒されてしまう。今後自分の後継者になるのは誰だと思う?

「僕は歳を取っている。それでも、まだ若い選手と対等に戦えることは本当に素晴らしいと思う。彼らは僕らのプレーをテレビで観て育った。彼らと対戦できることは、若い世代にとっても、僕にとっても素晴らしい。いろんな世代がぶつかり合っているのもいいことだ。そこから何か特別なものが生まれる」


フレンチ・オープン優勝の翌日、エッフェル塔をバックにセーヌ川に架かるアレクサンダー3世橋で撮影をするラファエル・ナダル(スペイン)(Getty Images)

ウクライナでの戦争により、ウインブルドンはロシア人選手、ベラルーシ人選手の出場を禁止した。それについて意見はある?

「まず何よりも、テニス界はゼロだ。無力だ。多くの家族が亡くなり、子供たちが犠牲になっている。そんなとき、他のことはどうでもよくなる。ウインブルドンが何をしようと、ATP(男子プロテニス協会)が何をしようと関係ない。関係あるのは人が死んでいるという事実だ。多くの家族が犠牲になっている。それが一番大きなこと。僕はウインブルドンの決定を受け入れる。政府からのプレッシャーもあり、自分たちの考えもあるので、十分フェアな決定だと思う。ATPの立場としたら、自分たちの選手を守る義務がある。ウインブルドンの決定が悪い、ATPの決定はいいということではない。どちらの決定もいい。皆が自分たちの大事にしたいものを守り、僕はどちらも受け入れる。僕のツアーの仲間たちはこれらの決定についてそれほど強く意見を言えない」

メドベージェフや他の選手のこと?

「ああ、そうだ。彼らには戦争の責任はない。彼らにはどうすることもできない。戦争に賛成もしていない」

多くの視聴者を引き付けるためにフレンチ・オープンのナイトセッションが導入され、女子は1試合だけだったが、それについてはどう思う?

「問題はそこじゃない。男女の平等については多くの議論がなされた。賞金も同じ、センターコートでの試合数も同じだ。昼間の試合は誰もが見られる公共チャンネルで放送されている。しかし、ナイトマッチは有料放送で誰もが観られる訳じゃない」

それは解決できる問題?

「この状況は男子のほうが不利だと感じる。例えば女子は昼間に2試合、男子は昼間に1試合、夜に1試合だとする。女子の試合は誰でも観られるが、男子の試合は観られる人が限られるからだ」

ジョコビッチとのナイトセッションが大きな議論になったが、君自身はデーマッチ、ナイトマッチのどちらがいい?

「場所によるね。例えばUSオープンのナイトセッションは最高だ。僕もプレーするのが大好きだ。僕はロラン・ギャロスで17年間プレーしてきたが、僕が知っているロラン・ギャロスは昼間の大会だ。選手は誰でも慣れ親しんだコンディションでプレーしたいものだ。USオープンのナイトセッションは以前からよく知っている。でも、ここロラン・ギャロスでは、まだよくわかっていない」

USオープンはハードコートだが、プレーするつもり? 足への負担もあるが。

「もちろん、出られるなら出る」

最後に、ラファを満足させるものは何? ラファがテニスを越える存在なのはなぜ?

「まず何より大事なのは、自分と愛する人たちの健康だ。それがないと、何もできない。ケガのことではなく、一般的な健康のことね。子供の頃から仲のいい幼馴染のグループがいて、その家族も含め、親しい人たちの存在だ。自分が好きな人たちと素晴らしいことを一緒に分かち合えることだ」

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写真◎Getty Images

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