ウインブルドンは開催されず、混乱の2020年シーズンと「ビッグ4」の遺産
それは完全な推測ゲームだが、それでも議論するのは楽しいものだ。今のテニス界で――そして恐らくテニス史上でも――もっとも卓越し、もっとも成功をおさめた4人の選手たちのレガシーは、新型コロナウイルス(COVID-19)に中断させられた2020年シーズンによって影響を受けるだろうか?
男子テニス界の「ビッグ3」として知られるロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、そして女子テニス界の偉人であるセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)は、それがいつであれ大会に戻ったときにどのような姿を見せてくれるだろうか?(フェデラーは膝に関節鏡による手術を受けたため、2021年までプレーできない)
ここでは彼らを「ビッグ4」と呼ぶことにしよう。彼らはこのスポーツをコート内外で支配し、あまりに長く君臨しているため今後どれほど多くの勝利と敗戦があろうと歴史の中での彼らの場所は確保されている。
セレナはグランドスラムのシングルスで、プロ化以降の時代では最多である「23」のタイトルを保持している。フェデラーは男子の最多記録となる20勝、ナダルがそれに続く19勝、ジョコビッチは17勝で、他に14タイトルを超えている男子選手はいない。彼らはテニスファンたち、そして熱心なテニス愛好家でない人々の間でも興味を掻き立てている。
正直に言おう。特にセレナがマーガレット・コート(オーストラリア)が持つ全時代を通しての最多記録であるグランドスラム24度制覇の偉業に追いつこうとしているとき、そしてナダルとジョコビッチがフェデラーに迫りつつあるとき、彼らに何が起こるかは他の選手以上に重要だ。
彼らの年齢もまた、興味をそそる要素のひとつだ。フェデラーとセレナはもうすぐ39歳になろうとしており、ナダルが34歳でジョコビッチは33歳だ。
「それは、『ふう、家で過ごすのは本当に楽しいいわね』というような感じの歳よ。彼らはがむしゃらな出世争いをしている訳じゃない。だから感情的にも精神的にも、彼らが『私は本当にもう一度やりたいの? 本当にトレーニングをイチから始めたいの? 本当に100%集中できるの?』と考えても不思議じゃない」とグランドスラム大会を18度制したレジェンドのクリス・エバート(アメリカ)は語った。
「或いは表裏一体で、彼らは切迫感を抱いて、『OK、また1年ほど自分のテニスを本当に楽しもう。自分が若くなることはもうないのだから、今はゴールを達成しなければならない』と考えているのかもしれない」
今はウインブルドンが行われているはずの時期だが、パンデミックのため4月1日に開催中止(戦争以外では史上初)が決まっていた。テニスでもっとも古い歴史を持つ同大会のキャンセルは、第二次世界対戦中だった1945年以来のこととなる。
テニスの公式大会は3月途中から休止されており、今のところ再開は8月の予定となっている。USオープンは8月末に開幕することになっており、本来の5月から延期されたフレンチ・オープンはUSオープン終了の2週間後に当たる9月27日から始まることになった。
「21歳の選手が身体の準備を整えるほうが、34歳の選手よりもずっと簡単だろう。それは100%間違いない。しかし同時に、34歳の身体と心は21歳の心身よりもずっと経験豊富だ。だから、何が起こるか僕にはわからないよ」とナダルはコメントした。
「一般的に言って、若い選手にとって有利だ。我々が失った期間のすべてを取り戻すための時間が、若い選手にはたっぷりある訳だからね。確かに時間という意味で、僕たちは同じ量を失いはした。だけど総体的な見方をすれば、より年齢の高い選手にとってそれは同じことではないんだ。33歳とか34歳で1年を失うというのは、全キャリアが目の前に待ち受けている20歳のときに1年を失うのとは訳が違うんだ」
恐らくナダルは、タイトル防衛のかかるUSオープンも含めてニューヨークのハードコート大会をスキップし、よりいい状態でレッドクレーのフレンチ・オープンに向けて準備するだろう。彼にとって13回目のフレンチ・オープン優勝杯を勝ち獲れば、グランドスラムでのタイトル総数でフェデラーの「20」に追いつくことができるのだ。
もしかしたらジョコビッチは気が進まないようなことを言いはしたものの、ナダルの不在を自分のチャンスと考えてUSオープンに行くことを選ぶかもしれない。彼がグランドスラムのタイトル数について、先を行くふたりに追いつくことを非常に重視していることは周知の事実だ。
フェデラーが自分のタイトル獲得数をもうひとつ増やす可能性がもっとも高いのは、過去8度優勝しているウインブルドンにおいてだろう。彼があと何回それに挑戦する機会を得られるか、言い当てるのは非常に困難だ。
一方のセレナはここ7つのグランドスラム大会で4度決勝に進出しながら、そのすべてで敗れた。そして彼女が1月のオーストラリアン・オープンで3回戦負けを喫したのは驚きだったとしても、地元のUSオープンでまた勝てないと考える理由はどこにもない。彼女はそこで6度栄冠に輝き、直近の2018年と19年には準優勝していた。
長い休止期間についてセレナは、「気持ち的には望んでいなかったけど、私の身体はそれ(休み)を必要としていた。そして今、私はこれまで以上にフィーリングがよくなっているわ。今の私はただ飛び出していって、本当のテニスをプレーできるという気分なの」と説明した。(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)
※写真は左からロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)(Getty Images)
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