ピート・サンプラス「史上最強のオールラウンドプレーヤー」
その強さはウインブルドンで際立っていた。7度の優勝はロジャー・フェデラーと並ぶ最多記録。サービスは力強く、ストロークにも威力があり、ネットブレーも見事で、まさに何でもこなせる完璧なオールラウンドプレーヤーだった。30年代の男子テニス界はサンプラスの時代だった。(原文まま、以下同)【2015年11月号掲載】
レジェンドストーリー〜伝説の瞬間〜
Pete Sampras|PROFILE
ピート・サンプラス(アメリカ)◎1971年8月12日生まれ。アメリカ・ワシントンD.C.出身。自己最高ランキング1位(1993年4月12日)、ツアー通算単64勝、準優勝24回。2003年引退。
写真◎Getty Images
すべてのショットでポイントを奪えるのが強みだった。調子のよいときは誰も手がつけられないほど無敵の強さを誇った
02年USオープンで優勝し、当時史上最多となる14度目のグランドスラム優勝を果たしたのがピート・サンプラスだった。その後、一年のブランクを経て、03年USオープンで引退を発表したのだが、当時は彼ほどの存在感を持つ、最強の名にふさわしい選手はしばらく出てこないのではないかと、誰もが思っていたはずだ。
だが、その全盛期にジョン・マッケンローから「退屈な王者」というレッテルを貼られ、一時は90年代の男子テニス人気の低迷の主犯格とさえ言われたことがある。90年USオープンで19歳の若さで初優勝した後、しばらく勝てなくなり、92年USオープン決勝でステファン・エドバーグに敗れたときには、ジミー・コナーズに「あいつの気の弱さではどうにもならない」と批判されたこともあった。
また、控えめな態度がメディアには受けず、「つまらない」という評価に拍車をかけてしまった面もある。サンプラスは全盛期を過ぎて「僕が負け始めたらファンが増えた」と自嘲していたことがあったが、万事この調子で、先輩のマッケンローやコナーズのように、ライバルを強烈に痛罵するような派手な言動は絶対にしなかった。
勝っても自らを誇るようなことは決して言わず、負ければ実に素直にそれを認めて相手を称え、あくまでも淡々と、ときには謙虚を通り越し、自虐的なコメントで記者会見場の笑いを誘うような性格の選手だった。
ギリシャ系移民のごく普通の家庭に生まれた彼のテニスの原点は、自宅近くのスーパーマーケットの駐車場での壁打ち。彼の家にはテニスに夢中になっていく息子をテニスクラブに入れる経済的な余裕はなく、父親はひとかご分のボールだけを買い与えて、そのボールがダメになる頃にはテニスをあきらめてくれるのではないかと思っていたという話もある。
父親は息子の試合には滅多に顔を出さなかった。「ドキドキしてしまうから」という理由だったというが、そういう家庭で育ったことも後の彼の人格形成に影響を与えているのかもしれない。サンプラスを思い出すとき、そこに浮かぶのは「理想的なテニス選手」として求められる振る舞いのすべてを体現した人物というイメージだ。そして、彼にとってはそれが自然体で、良くも悪くもごくごく普通のアメリカの好青年というのが、20世紀最強の選手の素顔だった。
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