ピート・サンプラス「史上最強のオールラウンドプレーヤー」
サンプラスの強さを支えたのは、正確無比なサービス力。通算で8858本のサービスエース数は歴代5位。1試合あたりで9.2本のサービスエースを奪っている。計測方法が今と異なっている可能性も高いが、最速でも時速210~220㎞弱。速いことは速いが特別速いわけではなく、当時も彼よりスピードのある選手たちは少なくなかった。
サンプラスのサービスエースは、スピードや威力で量産されていたわけではない。彼のファーストサービスにはナチュラルなスピンがかかっていて、ラインを巻くような軌道で飛び、バウンド後は相手のバックサイドにキックする特徴があって、それがリターンを困難にし、同時に高い確率を確保していた。
そして、非常に大きな肩の可動域によるタメの大きさを生かし、同じトスですべての球種、コースを操った。さらに、スイングを開始した後でもヒジから先の操作で様々なサービスを打ち分けられるという技術が彼のサービスを特別なものにしていた。
トスを上げたあとに、コーチの指示で球種を変えるという彼の練習を見たことがあるという福井烈さんは、同じことをやろうとしたが無理だったと話していたことがある。
相手からすれば、トスの位置からではコースも球種もまったく読めない時速200㎞前後のサービスが、正確無比に飛んでくることになる。サンプラスの試合では、0-40からでも平然とサービスをキープする姿を何度も見せられたもので、「退屈」と呼ばれたのもそれが大きな理由のひとつだったが、そのサービスは最後まで最大の武器であり、今日でも彼以上のサービス力を持つ選手はまだいないと言ってもいい。
サンプラスのサービスはいまなお「史上最強」との呼び声が高い
また、彼の強さはサービスだけではなかった。もちろん、強力なサービス力をベースにしたサーブ&ボレーのポイント力は高く、ウインブルドンで7度優勝できたのもそのカによるところが大きかったが、ベースラインでもアンドレ・アガシと互角に打ち合う能力があり、特にフォアハンドのランニングショットはイワン・レンドルゆずりの強さを持っていた。
地中海性貧血の持病があり、長いラリーを選択しにくいという条件さえなければ、ベースライナーとしても戦えるだけの力を持っていたのがサンプラスのテニスでもある。
小さな頃にはロッド・レーバーのビデオを繰り返し見て、バックハンドを片手打ちに変え、本人はサーブ&ボレーへのこだわりも強かったようだが、プレースタイルは単なるサーブ&ボレーヤーとしてのそれではなく、コートのどこにいてもポイントが狙える、あくまでもオールラウンダーとしての強さだった。
さらに言えば「マイケル・チャンのように走り、マイケル・ジョーダンのように跳ぶ」と言われた身体能力の高さも、サンプラスの大きな武器だった。彼以前のトップ選手たちの多くは、テニス選手としては優秀でもアスリートとしては今ひとつというケースも多かったが、他競技でも一流になれたと言われる身体能力を持った存在は、サンプラスがその先駆けのひとりだろう。
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