シュテフィ・グラフ「孤高の女王」
破壊力抜群のフォアハンドストロークに、キレ味鋭いバックのスライスで相手をねじ伏せた。ナブラチロワ&エバートの2強時代に終止符を打ち、80年代後半から女子テニス界の一時代を築いた。強さも美しさも兼ね備えたスーパーヒロインは、世界中のテニスファンから愛された。(※原文まま、以下同)【2015年12月号掲載】
レジェンドストーリー〜伝説の瞬間〜
Steffi Graf|PROFILE
シュテフィ・グラフ(ドイツ)◎1969年6月14日生まれ。旧西ドイツ・ブリュール出身。自己最高ランキング1位(1987年8月17日)、ツアー通算単107勝(グランドスラム22勝)。1999年引退
写真◎Getty Images
80年代中盤から、ボリス・ベッカーとともにドイツテニス界の黄金時代を築いた。テニスに対するストイックな姿勢もファンを魅了した
シュテフィ・グラフと同時代に現役生活を送った選手たちの多くが口にした。
「ロッカールームにいる彼女の姿を見たことがなかった」
大会の会場には練習と試合をするためだけに来て、試合が終わればすぐに去る。大会は戦いの場。選手同士で友人関係をつくるようなことはせず、常に孤高を貫いた。
だが、そうした逸話がある一方、東レPPOの大会運営に携わっていた関係者にグラフの印象について聞くと、まるで別の人物像が描き出される。
「非常にストイックな方でした」という予想通りの話の他に、等身大の女性としての姿も浮かび上がる。オフィシャルホテルで待ち受けていたファンの中に、車いすに乗っていたファンの姿を見つけたグラフが、自分から近づいて「応援してくれてありがとう」と声をかけたという話や、日本のファッション誌の撮影でポーズをとってほしいとリクエストされて照れまくっていたという話。
押しも押されぬスーパースターになったあとでも、自分の都合で朝の練習コートの開場時間を早めさせたりするようなことはせず、おとなしくコートが開く時間を待っていたという話……。
「基本的にはシャイでかわいい方でした」とも表現したのだが、後に夫になるアンドレ・アガシがグラフとの新婚当時、「どうしてもっと早い段階で口説かなかったのかと後悔した」と話していたのが思い出される。グラフは控えめで、飾らない女性としての魅力にもあふれた人物だった。
セレナ・ウイリアムズの活躍で、今季は何度もグラフの名前が各種の報道に登場した。オープン化以降の記録としては最多のグランドスラム通算22勝。88年の年間グランドスラム達成がその最たるものだが、この年のソウル五輪でも金メダルを獲得していたため、彼女のために「ゴールデンスラム」という言葉が生まれた。
ほかにも世界ランク1位の通算在位377週間は歴代最長、連続1位でも186週間と、こちらも歴代最長。年末最終ランク1位も通算で8度あり、これも歴代最多とグラフの記録の多くは、彼女が当時いかにツアーに「君臨」する存在だったかを物語る。
実際、80年代後半から90年代前半にかけては、ドロー番号の1はグラフの定位置であり、当然優勝候補もグラフだった。「私が試合中に足でも折らない限り優勝するなんて、ひどいことも言われた」と後にグラフ自身が話していたこともあるのだが、当時の彼女の「絶対強者」としての存在感の強さは、今年のセレナに匹敵するか、それ以上だったかもしれない。
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