福井烈の本音でトーク_第16回ゲストは平尾誠二さん(ラグビー日本代表監督)
(※原文まま、以下同)昨年、秋に行われたワールドカップ・アジア予選。ラグビー日本代表は予選グループを1位で通過し、ウェールズへの出場権を手にした。今回のゲストは、その日本代表の指揮官である平尾誠二さん。神戸製鋼7連覇の黄金時代を支えたゲームリーダーが、今度はチームを率いて、新しいゲームに挑む。本大会まであと6ヵ月。勝利への法則をほんの少し分けていただいた。【1999年5月号掲載|連載第16回】
平尾誠二さん(ラグビー日本代表監督)
ひらお・せいじ◎1963年1月2日、京都府生まれ。81年、伏見工業高校3年生のとき、主将として全国高等学校ラグビーフットボール大会で優勝。その後、同志社大学へ進学。82年、19歳4ヵ月の史上最年少で日本代表に選ばれる。85年、同志社大学4年生で初の全国大学選手権大会3連覇を達成。8年、㈱神戸製鋼所へ入社。89年以降、日本選手権大会で7連覇を達成。自身もプレーしながら、神戸製鋼のチームの礎を築いた。日本代表ではSO、CTBとして活躍。代表キャップは35。97年2月、34歳で日本代表監督に就任。昨秋、行われたワールドカップアジア予選を勝ち抜き、今年10月、ウェールズで行われる本大会出場を決めた。
福井烈プロ
ふくい・つよし◎1957年福岡県生まれ。柳川高校、中央大学を経て、1979年にプロ転向。過去、史上最多の全日本選手権優勝7回を数える。10年連続デ杯代表、9年(1979〜1987年)連続JOPランキング1位の記録を持つ。1992〜1996年デ杯日本代表チーム監督。現在は、ナショナルテニスセンターの運営委員長を務める。ブリヂストンスポーツ所属。本誌顧問。
新しい世代の指導者たちと、これからスポーツ界でブレークスルーしたい(平尾)
福井 いよいよ10月からウェールズでワールドカップが開催されますね。今のお気持ち、あるいは今、日本ラグビーが置かれている立場などをお聞かせ願えませんか?
平尾 はい。ではワールドカップの話からしましょう。10月から第4回ワールドカップが開催されます。日本の競技的な地位について言えば結構、低いんです。これは仕方のないところでもあるんですが、それを我々はこの何ヵ月間かで、少しでも競技力を向上させて、向こうではひと暴れしたいなという希望を持っているんです。
福井 そうですか。
平尾 ラグビーという競技はテニスとはだいぶ違っていて、体が接触する場面があったり、集団で行うところがあるので質がだいぶ違うんです。で、僕らはまず競技として何が一番重要なのか、またどういう要素が我々に足りないのか、というところを具体的に理解する必要があると思いました。特にラグビーは比較的サッカーに近いところもあって、ゴール型の競技です。両方にゴールがあって、同じ人数で、同じルールで攻め合うという、こういう競技は、意外にどの競技も似ています。まあラグビーだけコンタクトっていう部分が非常に強く入ってきて、体格が結構ゲームを左右するところも持っているんですけど。でも実は、それに目をとらわれすぎていた感があるんですよ。
福井 というのは、体の大きさだけでは計れないと?
平尾 ええ。例えばね、サッカーとかバスケット、ハンドボール、こういったものもゴール型の球技なんですけど、日本はこれ、国際的に見て全部強くないでしょ。
福井 そう…かもしれないですね。
平尾 それで、なんでそうなのかな、ということを考えたら、これは意外と同じところに共通点があるんじゃないかと。そういうことを最近、僕ら指摘しているんです。これはサッカーの岡田(武史前日本代表監督)さんなんかも同じで、スポーツはその社会を反映しているんだっていうことをよく言われます。僕もその通りだと思うんです。そうすると我々に欠如しているのは、実は体格じゃなく、本当は違うところにあるように思えてきましてね。それは何かっていうと、個人のね、判断力だと思ったんです。
福井 なるほど。
平尾 これが身につかない限り、世界との差は縮まらないと思いますね。これは岡田さんも指摘しています。ただね、これを社会がそうだからっていうことで諦めてしまえば、社会が変わるまで我々は強くなるのを待たなきゃいけないってことになるんですよ。ところが、それをする時間がない。したがって新しいやり方を試みる中で、その判断力をつくっていかないといかんのです。ところが、その判断力が、身につくのに一番時間がかかるんです。
福井 今、そういう機会を大人が子どもに与えてないという状況はあるでしょうね。
平尾 はい。社会もそうですし、教育の中でも、自分で判断して、自分で責任をとってということはほとんどないです。その中で育ってきた連中に、いざラグビーを始めてから判断力を持てと言っても、それは不可能というか、非常に時間がかかる話になりますよね。
福井 テニスも思い当たる節がありますよ。
平尾 そうでしょう。それは、教育の現場が変わっていけば、そういう習慣も身につくんでしょうけど、そこまで僕らは待てないんです。そこで僕は個人の裁量といったものをどんどん拡大させる中で、自分たちで実行し、それに対し責任をとり、それによって出てきた必要なものを再構築させて、新しいやり方をつくっていく。そういう自己責任や判断力を了承させることが、僕の当面の課題じゃないかと考えているんです。
福井 僕も岡田さんとは20年来の付き合いになるんですが、岡田さんも平尾さんも、ゲームを展開するためのスペースをチームでつくらなきゃいけないけれども、それがなかなかできないと。ところが外国の強いチームは、個人でもスペースを作ることができるといったことを、ふたりともお話しになってますね。その辺に差があるんじゃないかと岡田さんは常に言われてます。それを、平尾さんは判断力の違いによるとおっしゃっているんですよね。
平尾 テニスも例えば右へ打った、右へ打つことによって、左にスペースを作る、今度はまたそこを…、というように、それが2次、3次、4次的にイメージできるかどうかっていう、先が読めるってことが影響しますよね。これね、将棋だったら、スペースをつくる力っていうのは先手を打つ力でいいんです。けど、テニスとかラグビーっていうのは、そこに的確に、速い、強いボールを運ぶスキルがあって、それでその思考がないとダメでしょ。
福井 そうなんですよ。
平尾 将棋は指すだけで、そこに打つ“手の力”は関係ないですよね。結局、いくら2次、3次、4次的なものが、イメージできても、本当はそこに的確に強い球が運べる力が備わってないと、強くならないんですよ。この両面が必要です。これがスポーツのむずかしいところです。
福井 僕がすごいなと思うのは、テニスは相手を見ていればいいわけです。でもラグビーとかサッカーって後ろから誰か出てくるわけですから、もっと視界を広げないといけない。その中でパスを蹴る人や出す人は考えてなきゃいけないじゃないですか。その判断力とか、決断力がすごいなと思って見ているんです。
平尾 ラグビーは後ろへしかパスできないですからね。それを後ろのプレーヤーが肌感覚でわかっているかどうかなんです。そうすると、視界から外れたときの選手の動きがイメージできるかどうかということなんです。
福井 それはみんな持っているものじゃないですよね。
平尾 ない。これを持っているヤツこそ一流だっていうことが言われたりもするんですね。
福井 そういうのは、例えば平尾さんが見ていて、コイツは持ってる、いや持ってない、というのがわかるものですか?
平尾 わかります、だいたい。ただ、素地はあったとしてもそれが本当に開花するかどうかっていうのは別問題ですよね。素地はあるんだけれども、日本の教え方なんかは…、僕、思うんですけど、判断力を身につけたり、創造的なプレーを引き出すためには、「怒ったらいかん」いうことですわ。
福井 ほぉ~。
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