福井烈の本音でトーク_第16回ゲストは平尾誠二さん(ラグビー日本代表監督)
判断力や想像力を引き出すためには、指導者は「怒ったらいかん」(平尾)
指導者の声が、選手の感じ方、考え方を大きく変えてしまうことがある(福井)
平尾 怒りすぎるとね、自分たちの中でそのプレーを抑制しちゃう。例えばある選手にすごい感覚があって、また僕にその感覚があったら、その選手がすごい感覚を持っているのって見えるんですよ。ところが、それがない指導者がほとんどで、感覚がない。そうすると選手が味方へのパスに失敗すると、ノールックパス…バスケットでも使っている用語だと思うんですけど、それは日本ではよくないことになって、「味方の動きを見てないじゃないか!」っていうことになるんです。
福井 うーん。
平尾 ところがね、「いちいち味方を見てたら、相手が見られないじゃないか!」っていうのが、現場サイドの論法なんです。相手を見て俺はパスをするという、俺は感覚的にわかっているんだってヤツ、おるんですよ。それをね、若いときに「見てないじゃないかっ!」と指導される。もちろんそれは10本やって10本うまくいくパスとは限らないんだけど、本当はその選手の感覚がすごく鋭いんだから、その感覚でゲームをしてかなきゃいけないのに、他がついていけない。他がついていけないのに、お前が見ていないからだと指導者が言う。これおかしいでしょ。
福井 これってすごく大切な会話ですよね。
平尾 また、そう言われると選手はびびりますしね。その瞬間、そいつの才能を吸い込んでしまうんです。見ないでパスできる能力を、さらにどう育てるかってことを言っていくと、そんなことで怒ってたらダメなんですよ。もちろんミスはミス。でも、ミスは個人がそれぞれ受け止めなきゃいけないことですから。
福井 そのときの声の掛け方ひとつで、選手の感じ方や考え方を大きく変えてしまうということありますよね。
平尾 惜しかったな、とか、あそこはこうじゃないか?とかね。そう言うとね、自分の問題よりも他のヤツの方に問題があるってことがわかってくるんですよ。もっと全体的な問題だとわかってくるんです。そうすると、「お前、あんなパスして…」となったとき、「いや、周りがいなかったからです」って、平気で言うヤツもおるわけです。ただしね、それをひとつのプレーとして完結させるには、今度は周りがそこにいられるような指導も含めて、その選手がプレーするようにしないといけません。自分でそこまで受け入れないといかんのですよ。そうでなかったら、ただの自己完結型のプレーにすぎないですからね。
福井 そうですね。主張する一方では、何の解決にもなりませんからね。
平尾 「何でお前そこに投げた?」と仲間割れをしたら、こっちもやる気なくなるしね。そうじゃなくて、そこまでちゃんとセットアップして、そこへ来させて、ああそうか、ここへ来なきゃいけないんだ、と思わせて、それができるようになるところまでやって、ようやくプレーが成立する。そこまでお前が責任持たないかん、という言葉で、僕は言うんです。だから指導者は、頭ごなしに怒ることはいかんと。すばらしい才能を摘むことになるんで、注意深く指導しなきゃいけないところだと思いますね。
福井 なるほどねえ。
平尾 またね、それを一方的に容認しすぎると、今度はそんな才能がないヤツまで、そんなことし始めるんですよ(笑)。
福井 それは確かにある(笑)。
平尾 あるでしょ。それはそれで見極めないといけない。だからね、同じプレーでも、質が違うっていうことを指導者側がわからんといかんのです。
福井 テニスでもまったく同じですね。
平尾 僕はね、経験で物事を言いきるというのはあんまりよくないと思うしね。逆に経験がないとものは言えないし。その辺が、コーチの中でむずかしいと思うことではあるんです。ただ、僕はやはりより高い経験を積んでる人の方が、素地があると思うんです。よく名選手は名コーチではあり得ないみたいなことを言うじゃないですか。それも僕はあると思うのが、そこで止まってしまっている人はそうやと思うんです。
福井 自分の経験がすべてだと思ったり。
平尾 自分の経験でしかものを言えないんですよね。そうじゃなく、常に現状っていうものを理解して、それと比較できて、今、教えようとしている選手の気質だとか、体格だとか、経験も含めて、自分の経験と合わせて出し入れできる人は、絶対いいコーチやと僕は思うんだけど。それができなくて、自分の経験だけで俺の時代はな…って言う人がまあ、ある競技は多いらしい(笑)。それは絶対よくない。マイナス要素だと思うんです。
Pick up
-
PR | 2024-10-20
『ノアから世界へ』——ノア・テニスアカデミー所属、駒田唯衣選手&富田悠太選手インタビュー
全国に35校のテニススクールを展開する業界大手の『ノアイ
-
2024-10-27
第63回テニマガ・テニス部「テニス丸ごと一冊サービス[増補版] 解説編』キャンセル待ち受付中
キャンセル待ち受付中=====テニマガ・テニス部 部活プ
-
2024-10-08
テニス丸ごと一冊サービス[増補版] QRコード(動画)付(堀内昌一 著)書籍&電子書籍
「テニスマガジン」のサービス特集をきっかけに、MOOK「テニ
-
2024-05-03
『テニスフィジバト道場』(横山正吾 著)テニスプレーヤーのための最新フィジカルトレーニング
Tennis Magazine extraシリーズテニスプレ
-
2024-02-05
子どもが主体的に動き出すために大人はどうかかわればよいのか(荒木尚子/著)
子どもが主体的に動き出すために大人はどうかかわればよいのか(
-
2022-12-05
勝つための“食”戦略 『最新テニスの栄養学』(高橋文子著)
Tennis Magazine extra シリーズ最新テニ