ナショナルチームの証言〜なおみの「夜明け前」と「強さの秘密」

一気にブレークし、突然飛び出した印象を受けるが、そのポテンシャルの高さは関係者の間では以前から評判だった。土橋登志久監督と吉川真司コーチの2人もその才能を信じ、ナショナルチームとして全面的にサポートしてきた。【2019年1月号掲載記事】

文◎牧野 正 写真◎BBM、Getty Images

ナショナルチーム

土橋登志久◎つちはし・としひさ/1966年10月18日生まれ。鹿児島県鹿児島市出身。柳川高から早稲田大へ進学。大学時代はデ杯選手に選出され、ソウル五輪にも出場。卒業後にプロ転向。引退後は早大監督を務め、現在は日本テニス協会常務理事、強化本部長、フェド杯監督などを務める

吉川真司◎よしかわ・まさし/1978年1月31日生まれ。京都府京都市出身。札幌藻岩高から亜細亜大へ進学。卒業後はワールドに所属し、30歳まで選手活動を続ける。テニスラボからナショナルコーチへ。現在は日本テニス協会強化本部ナショナルチーム女子コーチを務める

(文中敬称略)

勝つために戦う

大坂と吉川コーチ(2018年4月、兵庫)

 ナショナル女子コーチの吉川真司が大坂なおみを初めて見たのは、2013年の東レPPOテニスの予選だった。大坂の存在は知っていたが情報は何もなく、どんな選手なのだろうと思っていた。

「あ、ハーフなんだと。本当に初めてでしたから。名前だけで勝手にイメージしてましたから、まずはそこに驚きました」

 だが、試合を見て、吉川はさらに驚くことになる。対戦相手は世界ランク93位のスペイン選手だった。当時479位だった大坂にとっては厳しい相手。まだ15歳、予選とはいえツアー初挑戦。しかし、その格上に対し、大坂は怯むことなく真っ向勝負を挑んでいた。

「経験を積もうとか、プロに挑戦しようとか、そういう感じじゃないんです。相手を倒すために試合をしているんです。15歳の選手が戦っている姿には、どうにも見えなかった」

 3-6 4-6のストレート負けに終わったが、大坂のプレーは吉川にとって衝撃だった。吉川は「ものすごい選手がいます」と、すぐに当時フェド杯監督を務めていた吉田友佳に報告を入れた。

 同時に吉川は、大坂ファミリーにもナショナルチームとして接触している。できる限りのサポートを約束し、また日本に来るときはぜひ教えてほしいと伝えた。大坂にとっても吉川の申し出はありがたかっただろう。日本との接点はなく、これがファーストコンタクト。大坂がナショナルトレーニングセンターを訪れたのは、翌年春のことだった。

 その数ヵ月後、大坂はアメリカで大金星をあげる。予選を突破してつかんだスタンフォードのWTAツアーデビュー戦で当時世界19位のサマンサ・ストーサー(オーストラリア)を相手に4-6 7-6 7-5。まだ世界を知らない16歳のジュニアが世界トップレベルのプレーヤーを倒したのだ。驚きの結果だったが、吉川は感心しても、それほど驚かなかった。

「なおみはジュニアの試合に出たことがない。だからジュニアという観点がないし、プロ転向という観点もないんです。試合というのは最初から大人とやるもので、試合に勝つことだけを考えて戦っている。それは昔も今もまったく変わっていません」

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