ナショナルチームの証言〜なおみの「夜明け前」と「強さの秘密」

本当の自分を知った一年

 今シーズンのインディアンウェルズからUSオープン前までの結果は、その実力を考えれば物足りない。サーフェスにアジャストする能力、経験値がまだ足りない上、追う立場から追われる立場になって研究されるようにもなった。

「我々の間では、グランドスラムはいつか必ず獲るだろうと考えていました。ただ、そのためにはまだいろいろな準備が必要かなと」

 土橋が言う準備のひとつは、気持ちのコントロールだ。納得がいかないときに、それを必要以上にネガティブに表現してしまう。試合中に涙を見せてしまうのも、ラケットをコートに叩きつけてしまうのも、改めなければならない。それはサーシャも吉川も感じていることだった。

 USオープンは序盤戦で、なかなか思うようなプレーができなかったが、徐々にエンジンがかかっていった。吉川は早い段階で優勝できるかもしれないと感じていた。

「USオープンはインディアンウェルズのプレーに身体の強さが加わった感じでした。なおみのすごさのひとつは、その大会で何かをつかんだら大会中には絶対に手放さないこと。USオープンではラウンドが進むごとに調子が、集中力が上がっていった。セレナにも勝てると思っていましたが、グランドスラムの決勝という舞台は未知の世界で、そこがわかりませんでした」

 セレナと戦った決勝の大坂の落ち着きぶりは、今さら説明するまでもないだろう。主審とセレナが口論となり、荒れた決勝となったが、大坂のプレーは完璧に近かった。グランドスラム優勝。日本テニスの夢がついに叶った瞬間だった。土橋は喜びと同時に末恐ろしい選手だと感じた。

「自分の弱点、課題など、普通ならグランドスラムのベスト8、ベスト4あたりで(負けて)体験していくものだと思いますが、そこを一気に飛び越えてしまった…ものすごい力を持った選手だと思います」

 チーム大坂の、そしてナショナルチームの大坂に対する今後の目標は、世界1位であり、グランドスラムで優勝を重ねていくことだ。

 大坂にとって2018年は、どんなシーズンだったのだろう。吉川は「彼女自身が本当の自分というものを知ったシーズンだったと思います」と言った。その吉川に最後、大坂はなぜ試合中に泣くのかを聞いた。

「それだけゲームに入り込んでいるからだと思います。勝つためにやっているから、そういうプレーができないときは悔しいというか、悲しくなる。できる限りとか、チャレンジとか、負けてもいいからではなく、試合は勝つためにやっている。15歳のときから、その気持ちはまったく変わっていないと感じています」

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