ナショナルチームの証言〜なおみの「夜明け前」と「強さの秘密」
日本という選択
大坂と土橋監督(2017年2月、カザフスタン)
吉田からフェド杯監督の座を譲り受けたのが、現在の土橋登志久監督である。土橋が大坂のプレーを初めて見たのは、監督に就任する前の2015年だった。大坂が初めてグランドスラムに挑戦した2015年ウインブルドン予選1回戦だ。
「すごい選手だなと感じましたけど、まだ粗削りで、勝てる感じはしなかったですね。ただ、サービスは速いし、面白い選手だなと」
土橋の予想通り、この試合はフルセットで敗れている。土橋の感想は、当時の吉川の悩みと一致していた。
「あの粗削りな部分を、どのように磨いていくのが一番いいだろうかと考える日々でした。かつてあれほどのパワーを持った日本選手はいない。そこが難しかったですね」
この頃になると、大坂の才能は誰の眼にも明らかだった。日米争奪戦とも騒がれ、実際にアメリカも大坂獲得に動いたようだが、出遅れた感は否めない。何よりも大坂が日本を望み、日本選手として生きていく決意を固めていた。土橋が言う。
「日本という選択にブレはなかったと思います。お母さんの影響力が大きいのかなと。最初から日本人として戦いたいという気持ちは伝わっていました。日本のほうがアメリカよりもチャンスがあるとか、そういう話ではなかった」
吉川も断言する。
「僕も初めて会ったときから、日本人として生きていきたいという強い意志を、お父さんと本人から聞いていましたから(二重国籍について)深く考えなかったですね。そうなるだろうとしか思っていなかった」土橋と吉川、ナショナルチームの問題は二重国籍よりも、グランドスラムも狙えるこの素晴らしい素材、原石をどう磨き上げていくかだった。
監督就任1年目の途中、土橋はオーストラリアの名コーチ、デビッド・テーラーをチームに招聘し、大坂のコーチに充てる。サブは吉川。それがナショナルチームとしてのサポートだった。
デビッドもまた大坂の才能に惚れ込んだ。グランドスラムを獲れる素材だと感じた。デビッドは基礎を徹底し、戦術や戦略、世界のトップに必要な技術の要素などを、着々と大坂に植え付けていった。プロフェッショナルとしての心構え、練習に取り組む姿勢も大事にした。
デビッドは一年ほどでチームから去ることになったが、大坂がそこで学んだことは少なくない。そしてチーム大坂が替わりにメインコーチに指名したのが、サーシャ・バインだった。
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