忘れがたきタイブレーク(2) 18-16の壮絶バトル「ボルグ対マッケンロー」|1980年ウンブルドン決勝
マッチポイント、セットポイントが交互に続き、ポイントが重ねられた。どちらも一歩も譲らない。センターコートに集まった1万5000人の観衆は、ふたりの猛烈な一進一退の攻防に魂を奪われた。マリアナはあまりに緊張してしまい、タバコとガムを同時に口の中に入れてしまったという。
「このとき私は爪を噛み、血が出ているのを見て少し安心した」と、異常な気持ちになっていたと振り返る。
ボルグは10-9として5つ目のマッチポイントを迎えた。だが、マッケンローはアドコートでボルグのバックハンドがわずかに届かない位置へのサービスエースを決めた。
10-10。フォアハンドのパッシングショットでボルグが11-10とし、6つ目のマッチポイント。このとき幸運の女神が介入した。マッケンローのバックハンドのアプローチショットがネットをかすめて相手コートに落ちる、コードボールがウィナーとなった。冷静なスウェーデン人は、一度も瞬きをしなかった。しかし、ウインブルドンを観に来た人々は、応援する選手に対して大声援を送った。
「観衆は、どんな優れたディレクターでもこれほどすごいドラマを見せることなどできないんだとわかったんだと思う」とマリアナは書いている。
しかし、これ以上マッケンローはどうやってピンチをしのぎ続けられるのだろうか? 11-12でマッケンローは7つ目のマッチポイントに直面した。ボルグはマッケンローのセカンドサービスを回り込んでフォアハンドのトップスピンで叩いた。マッケンローはバックのクロスボレーをオープンコートに決めて、応戦した。
残りのポイントはボルグがピンチをしのぐことを強いられた。30程度と言われるボルグの恐ろしく低い心拍数でさえも、ここではロケットビートのように速く激しく打ったに違いない。
14-13のセットポイントでマッケンローはフォアボレーをミス。15-14のセットポイントでは、ボルグがサービスエースを決めた。16-15のセットポイントでは、マッケンローが攻めに出たが、バックのハイボレーをミスした。
“スウェーデンの氷山”と呼ばれ、ナーバスになることなどなかったボルグの緊張がついに“溶けて”しまった。ほとんどリターンでフォアをミスすることはなかったのだが。16-17のとんでもないプレッシャーの中、ボルグはボレーをネットにかけてしまった。それは彼が長く抱えてきた弱点でもあった。
18-16で、このセットはマッケンローが勝利。34ポイントにおよんだタイブレークは22分間もかかった。早ければ1セットを終えてしまうほどの時間。チャンピオン・ボルグには7度マッチポイントがあり、チャレンジャー・マッケンローには5度セットポイントがあった。
動きの多い、衝撃的な、かつ、張り詰めたこのドラマは、すでにほとんどのファンを疲れ果てさせていた。多くの人はボルグが最終第5セットで最初の2ポイントを落としたときに、そこから立て直せるのかと疑問に思っただろう。
そのときをボルグは、「“今は硬くなるな、絶対にあきらめるな”と自分に言い聞かせた」と振り返る。
パワフルかつ正確にサービスを打つ、しなやかで肩幅の広い身長180㎝のスウェーデン人は、自身のサービスで19連続ポイントを記録し、直近29ポイントのうち28ポイントをものにした。
一方マッケンローは、スピードを維持したが、第2、第8ゲームでは0-40からキープと、より苦しんでいた。6-7、15-40からは、マッケンローは我慢の限界だった。8度目のマッチポイントで、マッケンローはセカンドサービスから攻めて、コーナーにボレーを放つが、ボルグのクロスコートへのバックハンドのパッシングショットにやられた。
そして──ボルグは芝の上に膝をついて天を指差した。あの有名な勝利のポーズだ。
ボルグはタイブレーク“18-16”バトルで最終的には敗れたが、この凄まじい5セットの戦いには勝利した。当初ブーイングを浴びながらセンターコートに登場したマッケンローだったが、そこで見せた成熟した態度や素晴らしいプレーが認められて、最後は大きな喝采を浴びながらコートを去っていった。
ビヨン・ボルグ(スウェーデン/写真)がバックハンドクロスのパッシングショットを決めて、3時間50分の壮絶バトルに幕を下ろした。ウインブルドン5連覇の大記録達成。チャンピオンとして追われる者のプレッシャーなど微塵も感じさせない5セットのプレーだった
ジミー・コナーズ(アメリカ)を抜いて世界2位となったジョン・マッケンロー(アメリカ/写真)が、1位ボルグに挑んだ決勝だった。マッケンローの時代がすぐそこに来ていることを知らしめる情熱的なプレーに、観客は最後に惜しみない拍手を送った
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