世界一を育てたコーチに学ぶ「トニー・ナダル」(1)ラファを指導した経験談とそこで学んだこと

コーチが選手とともに抱く夢と野望が選手の未来なのだ

 GPTCAについて話したい。私たちの主なコンセプト、使命のひとつは、みなに「コーチの役割とは何か」を理解させることだ。私は小さな子供を教えるごく普通のコーチだった。みなさんのようなコーチだったから、みなさんの状況は私にはよくわかる。当時から、今ここでやっているように、彼ら(メンタル分野の専門家であるカステラーニ氏やツアーコーチ経験者のピストレージ氏)のようなオープンなコーチの話を聞くことができたらどんなによかったかと思う。

 私はマヨルカの田舎で、偉大な選手を育てたいと願ってはいたが、当時は情報が不足していた。幸運にも私はプロコーチになることができ――私は決して偉大なコーチではないが――もしこの私がプロコーチになれたというなら、他の多くの人々にも間違いなくそれができるはずだ。今、より多くの質の高い情報を得ることのできるあなた方にならきっとできる。

 他の人の話に耳を傾ける、ということは重要だ。何でもかんでも鵜呑みにするということではないが、私は誰かがよいことを言ったら、いつも耳を傾けてきた。単にコーチとして経験を積んだ人だけでなく、あらゆる人々のよい言葉に耳を傾ける。もちろん、ツアーを回って経験を積んできた者から話を聞けるにことに越したことはないけれど、みなから、常に何かを吸収できるものなのだ。

 私はラファが伸びていく際に、フェデラー、ジョコビッチ、マレーなど、彼らが育つのも目にし、その過程から学び、いわばこれらのみんなと一緒に育ってきたのだ。

 私は常にラファはよい選手になれると信じていたが、もう何年も前にカルロス・モヤが、「ラファがアルベルト・コスタと同等の成績(ロラン・ギャロス優勝)を挙げられる選手になることに賭けるか」と聞いてきたことがある。ラファは「ノー」と言ったよ、賭けないとね。そのあとモヤが、ラファが次代のカルロス・モヤになるという賭けにサインするか、と私に聞いてきたから、私は「する」と答えた。ラファ本人が目の前にいたからね(笑)。

 とにかく私は常に、ラファがよい選手になれると信じてきたが、それは「トップ選手になりたい」というのがラファ自身の野望だったからでもある。私はどんな可能性も否定したくない。全力を尽くした上でできなかったら、それはそれでいい。結果がなんであれ、「夢のために戦う」ということが大切なのだ。

 我々が抱いてきた夢、みなさんが選手とともに抱く夢と野望が、選手の未来なのだ。これらの野心を通してこそ、よい選手になることができる。そして、それは難しいことではない。私がマヨルカという田舎の、才能はあるがごく普通の子供と一緒にそれをやってのけたのだから、あなた方の多く、あなた方の選手の多くも、きっとやってのけることができるはずだ。

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