小浦武志_試合でキレてしまうあなたへ〜メンタル・タフネスの一例

POINT02

集中するとき+フッと抜くとき
=適度集中が理想的

イラスト◎もりおゆう

 私が考えるテニスの集中には3つあります。分散集中、過多集中、適度集中です。それぞれどんなタイプかというとまさに言葉通りで、集中が分散するから「分散集中型」、集中が過ぎるから「過多集中型」、適度に集中できるから「適度集中型」です。

 すぐれた選手は適度集中です。私が指導していたある選手のエピソードをご紹介します。その試合は私がベンチに入ることができたので、こんなアドバイスをしました。

「そんなだったら負けちまえ!」。するとその選手はそれまで相手に感じていたストレスを一気に私にぶつけてきました。恐ろしい形相で私をにらめつけ、「負け(てな)るか」と言い、以降、ものすごい集中力で試合にのめり込んでいったのです。私の存在が“ゴミ箱”であり、その選手にとってストレス発散になり、ふたたび集中するきっかけになったのだと思います。

 この試合は私がベンチに入っての試合でしたが、その選手は、集中すべきときと、フッと一瞬抜いていいときとを使い分けることができる選手でした。やはりテニス選手が理想とするのは、集中するときと抜いていいときとを混ぜられる「適度集中」です。

 過多集中の選手に「集中しろ!」と言うのは、まさにエマージェンシーで、おそらく集中を切らすか、あるいは逆にパニックを起こすでしょう(過多集中の先に分散集中となるケース)。集中することは大切なことですが、集中しすぎることがよいかというと決してそうではないことも知っておいてください。なぜなら、集中が高くて勝てるときもありますが、集中が過ぎて負けるということもあるからです。思い込みが過ぎて間違った方向に行くとき、状況判断が正しくできず融通の利かないときなどがそれです。それは正しい集中ではありません。

 森の中に一匹のウサギを見つけた虎の心理こそ、まさに適度集中です。雑然とした森の中にほしい獲物を見つけ、周辺の様子を観察しながらじわじわと獲物に近づいていく。事態の変化にも対応できるように視野は広く、しかし肝心の獲物にはしっかりとフォーカスしていて、そして追い詰めていき…ここぞというときに一気にしとめます。この状態が理想です。

 適度集中だからこそ周辺の変化も察知できますが、過多集中だとこれが最初からウサギにしかフォーカスできず、周りが見えていない状態になったり、またそれが過ぎると、ふとした状況の変化に対応できません。例えば急に荒天になると慌ててしまい、ウサギを見失ったり、また一気に分散集中の状態に陥ったりします。分散集中の人は、ウサギにフォーカスし続けるのがむずかしいでしょう。ちなみにトップ選手は皆、虎視眈々と獲物を狙っています。

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