小浦武志_試合でキレてしまうあなたへ〜メンタル・タフネスの一例

POINT03

ハンドルの遊びがほしいから
最初は一所懸命にやってみる

イラスト◎もりおゆう

 適度集中の状態は、自分の目、体、心をコントロールできる状態にあります。状況分析ができる状態です。言い換えれば車で言う「ハンドルの遊び」です。ハンドルに遊びがあるからまっすぐに走れるし、コントロールが利きます。しかしハンドルに遊びがなければまっすぐ走れませんし、それこそ電柱にドカンッ!です。

 日本選手は、このハンドルの遊びがあっていいことをあまり知りません。フェデラーにはそれがあって、彼の試合はとてもわかりやすいと感じます。私は彼が「遊んでいるな」と感じることがあります。例えば、突然ボールをふかしたり、スピンを強くかけようとしてフレームショットしたり、そうかと思えば急に強く打ち込んだり、「え?」というようなことをやるのを皆さんも見たことがあると思います。あれは彼の中のハンドルの遊びでしょう。適度集中の中にいるから、それでOKなのです。

 もしフェデラーが遊んだと思われるときに、「何をやっているんだ! 余計なことをするな! 集中しろ!」と言う必要がありますか? フェデラーはそれをやったからといって集中を切らすわけではなく、彼はやろうとしている戦略・戦術の中でひとつトライしたにすぎません。その失敗はたいした問題ではなく、むしろ彼にとってそれはゴミを捨てたと同じことで、次のプレーに集中できる遊びの部分なのです。

 メンタル・タフネスとは、ゴミ処理能力を鍛えることにあるといったらわかりやすいでしょうか。ただこう言ってしまうと、フェデラーのように試合中に急に強打してみたり、無意味に真似る選手が出てくることも想像がつきます。そうではなくて、メンタル・タフネスとは日頃から自分を磨くこと(テニスももちろん、自分自身も。教養を身につけることもそのひとつ)にあります。ただし、ここが肝心です。無駄な努力はやめましょう。人の倍、努力しようとしなくていいです。

 なぜこんなことを言うかというと、人の倍努力しようとすると3日坊主になるに決まっているからです。ずっとやり続けられますか? 無理でしょう。「勝負は今だ!」「ここしかない!」と思ったときに一所懸命やることから始めてください。一所懸命ならできると思います。続けられると思います。集中し続けようとするからややこしくなるのであって、一生懸命にではなく、一所懸命にならできると思います。

 テニスは1ポイントの積み重ねでゲームが取れ、ゲームの積み重ねでセットが取れ、セットの積み重ねで勝利が導かれます。それをどういうふうに行い、どういうやりとりを相手とするかを、ボールとラケットを使って考えて実行するゲームです。ポイント間には20秒の時間があり、ポイントの中でも1球打ったあと次の球を打つまでに4、5秒の時間があります。それらがすべてエマージェンシーでつながっているとすれば、すべての時間において一生懸命でい続けることがむずかしく、一所懸命にならできそう、そう感じるのではありませんか。やってみてください。

小浦武志|プロフィール

こうら・たけし◎1942年11月13日、兵庫県出身。日本テニス協会ナショナルチーム・ゼネラルマネージャー。元デ杯代表選手、元フェド杯代表監督でもある。主な指導選手は、沢松和子、順子姉妹から、伊達公子、細木祐子(現ユニバーシアード女子代表監督)、浅越しのぶまで多数(※掲載当時のプロフィール)

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