セレナやナダルが大記録に挑む中、拭いきれない新型コロナの懸念 [オーストラリアン・オープン]
オーストラリアン・オープンの重要なストーリーラインを作るのは簡単だ。ラファエル・ナダル(スペイン)のグランドスラム大会21勝目、セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)が追い求める「24」の行方、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)の大会3連覇への挑戦からソフィア・ケニン(アメリカ)のタイトル防衛まで――そして新型コロナウイルス(COVID-19)に関わる問題が、来たる2週間に降りかかってくる可能性を無視できないなろう。
結局のところ、パンデミックは変わらず続いているのだ。
「スペインで検疫があった厳しい時期の間、テニスのことを考えるにはあまりに多くの問題がありすぎた」とナダルは話した。彼は昨年のフレンチ・オープン優勝でグランドスラム獲得タイトル数「20」に到達し、ロジャー・フェデラー(スイス)と並んだ。
そしてオーストラリアがアメリカや他の国よりずっとうまくCOVID-19を封じ込めているのは事実だとしても、大規模な国際大会の不安定の性質を思い出させる出来事はオーストラリアン・オープン開幕のほんの数日前に起きた。
160人の選手たちが1月に宿泊していたホテルのスタッフ1人がウイルス検査で陽性と診断されたため、メルボルンでの前哨戦6大会が丸1日中断されたのだ。その影響でオーストラリアン・オープンのドロー抽選も、予定より1日遅れることになった。
24時間の休止が発表されたとき、ニック・キリオス(オーストラリア)は「僕は明日プレーしているだろうか?」とツイートして誰もが感じていることを表現した。
「ちょっぴり不確かな感覚があった。何が起きているのか分らなかった」と彼はのちに打ち明けた。
この手の疑念は、外国から入国する出場者や関係者たちが検疫期間を取れるようにするために本来の日程から3週間遅れとなったオーストラリアン・オープン中にも燻り続ける可能性がある。
「テニスという観点から見れば、100%の準備はできない。ただできる限りのことをしようと努力するだけだ」と2019年USオープン準優勝者のダニール・メドベージェフ(ロシア)はコメントした。
メルボルンで7度優勝した実績を持つセレナは、もしこの追加された数週間の休みがなかったらオーストラリアで戦うこと自体ができていなかったかもしれないと明かした。彼女は昨年のUSオープンで負けた試合でアキレス腱を痛め、続くフレンチ・オープンでは2回戦を前に棄権を余儀なくされていた。
ほとんどの出場者はオーストラリア入りしてから練習するために最大1日5時間の外出を許可されていたが、それ以外はホテルから離れることができなかった。また70人以上の選手は利用したチャーター便の同乗者の中から到着時の検査で陽性と診断された人物が出たため、検疫期間中に練習もできない「ハードロックダウン」を課された。
「皆がその時期にそれぞれ違った難しさを経験したけど、多くの人たちよりずっと困難な状況に遭遇した人もいるわ。それは間違いないことよ」とグランドスラム大会準決勝進出歴3回のジョハナ・コンタ(イギリス)は語った。
このようなロックダウンからくるメンタル的およびフィジカル的な影響は、アスリートであろうがなかろうが皆に影響を与えかねない。
「選手たちは不意を突かれている状況ではないでしょうか。多くの忍耐力、柔軟性が要求されるだろうと思います。誰がしっかり順応し、もっともうまく適合できるでしょうか」とクリス・エバート(アメリカ)は分析した。彼女は1982年と84年のオーストラリアン・オープンを含むグランドスラム大会で18勝を挙げているレジェンドで、現在はアメリカのスポーツ専門チャンネル「ESPN」で解説者を務めている。
「プレーヤーは本当にルーティーンに慣れています。選手たちはすべてをしっかりコントロールできる状態が好きなのです。でもこの状況ではコントロールはできません。コントロールフリークのジョコビッチさえそうなのです。誰もがすべてをかなぐり捨て、毎朝目を覚まし、とにかく何が起ころうと目の前の出来事に対処していく準備ができているようでなければならないのです。容易なことではありません」
検疫ホテルで働いていたたったひとりの人物が陽性だっただけで、オーストラリアン・オープンと前哨戦に関わる500人が検査を受けて陰性とわかるまで自己隔離を行うように指示された。幸いにもすべて陰性だったため、1日後にはプレーは再開された。
オーストラリアン・オープン大会ディレクターのクレイグ・タイリー氏は、「それは追加的な課題のひとつに過ぎません」と言ってのけ、「我々は月曜日に大会を始めます」と明言した。
「プレーヤーからのフィードバックによれば、彼らは世界中を旅して環境はその場所場所で違うのだという事実を受け入れるようになった。どのようなことも起こりえます。毎日朝目覚めたとき、状況が違っている可能性があります。彼らはそのような状態に慣れたのだと思います」
現在のプランでは大会期間中、メルボルン・パークは通常の許容量の50%に当たる毎日最大3万人の観客を受け入れることになっている。これは1日1000人だけだったフレンチ・オープン、無観客だったUSオープンからの大きな前進となる。
「“ノーリスク”などというものは存在しません。リスクは常にあるものです。目標はそれを可能な限り最小限に止めるということなのです」とタイリーは述べた。(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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