ボブ・ブレットのコーチングブック(4)番外編_日本のコーチへメッセージ

指導◎ボブ・ ブレット
主催◎修造チャレンジ 共催◎日本テニス協会
取材・文◎テニスマガジン編集部 写真◎井出秀人、川口邦洋、菅原 淳、小山真司
ーー日本のコ—チにかなり時間をかけてお話しされた部分もありましたが、クリニック全体を終えて、もっとも伝えたかったことは何ですか。
ボブ コーチは選手を育てるとき、最初に責任を持たなければいけないということである。
これは日本のコーチに限らず、テニスコーチに望むこととして、教える相手が選手だろうとジュニアだろうと一般の方だろうと、テニスがうまくなるようにいっしょに仕事をするときは、相手が将来どのようなプレーヤーになるか、そこに到達するにはどのようにすればいいかピクチャー(青写真)を頭の中に持っていなければいけない。そして、その過程をひとつずつ相手に説明できる準備を、コーチは常にしていなくてはいけないと思う。
日本のコーチはたくさんの情報を持っているが、その情報をどのように使うか訓練していないために、正しいときに使う手段を知らないように感じられた。そして選手を指導するとき、その選手の限界をコーチが決めてしまっているのではないかと感じる場面もあった。
よりよいプレーヤーを育てるためにはその可能性をテイスティング(経験する)してみることが大切だ。それは選手のためであり、自分のためでもある。やってみなければ何も始まらないだろう。私はまずコーチがもっとチャレンジするべきだと思う。
ーーそれは「日本」のコーチを指導した結果の答えでしょうか。
ボブ ノー。これは今までの経験からの話でもあり、日本に来る前から「コーチ」に何が必要かを考えて、準備してきたことだ。
先ほどの話の続きになるが、コーチが選手に対してチャレンジしないで、リスクをおかさなかったらどうなるか。その選手がどんなに才能のある選手だとしても、コーチが「世界は無理だから、日本のトップを目指そう」と限界をつくり、それ以上の努力をしない。なぜチャレンジしないのかと言えば、おそらく、チャレンジして失敗した場合の責任を負いたくないからだ。
オンコートのクリニックで2つのグループに分かれてレッスンを行ったが、あるモデルが打つショットについて、どのようなことを教えていけばそのモデルがうまくなるかと討論したとき、最初のグループは少し年配の、経験の多いコーチが多かった。彼らはいろいろなことを知っていて、いろいろなアイディアを出してきた。だが出したはいいが、出しすぎてしまって、まとめようにもまとまらなくなってしまった。しかし、あとのほうのグループは若いコーチが多かった。彼らは、経験は少ないかもしれないが、その分『Keep it simple』、単純にコーチングの本質を押さえたのである。
どちらのアドバイスを聞いたほうが選手はうまくなるか。やはり『Keep it simple』、単純な考え方のほうが、頭が混乱しないから上達は早い。私はコーチが選手にたくさんのことを言えば言うほど、上達は遅くなると思っている。
コーチの役目は選手の夢が実現するようにモティベート=動機を与えるのが仕事なのに、コーチがその夢を壊しているのではないかと感じるときがある。選手の限界を決めてしまったり、選手がほかの人と違う何か特別なものを持っているのに、それに気づかなかったり、気づいても理解しなかったりしていないだろうか。
キャンプに参加した子供たちが私に「日本の選手と海外の選手の差は何か」「日本の選手と海外の選手は大人になる年齢が違うのではないか」といった質問をしてきたが、国(文化)による違いは多少あるにせよ、私は彼らがどこへ向かうかという意思を強く持っていれば、早く成熟すると思っている。
修造の場合も、彼が誰から影響を受けたかということを考えれば、それがとても重要なことであるのがわかるだろう。おそらく彼は私からも何らかの影響を受けたはずだ。私は世界の流れを知っていて、その情報を修造に与えた。だから修造は海外へ出て、日本においては少し例外的な役割になった。
そのことはつまり「日本人だから」という考え方ではなく、誰でもそういう世界の流れをつかんでいる者から早い時期に影響を受ければ、夢は実現するということを示していると思う。コーチの役割は本当に大きい。
ーーボブさんの指導はあらゆるコーチ、あらゆるプレーヤー、あらゆる人々に対するメッセージのように聞こえました。そうした考えが生まれた原点として、現在、一般の方を教えるような機会を持っているのですか。
ボブ 教える機会があればやるつもりでいる。私はこの5年くらいは10、11歳くらいの小さな子供を教えている。それは私の楽しみでもある。私はテニスを教えることが好きで、テニスをとても愛している。もちろんプロのプレーヤーを教えるのも私にとってすごくいい仕事だが、しかし子供たちにテニスを教えることは私の楽しみなのだ。
コーチングにはいろいろな方法があり、決してひとつの方法だけではない。だからいろいろな経験をすることは自分にとって必要なことであり、またすごく刺激的なことでもあり、チャレンジでもある。プロだけを教えていると自分の視野が狭くなってしまうので、私は自分の幅を広げる意味でいろいろなことにチャレンジしているつもりだ。これまでプロのプレーヤーを何人か育ててきて、世界の一番になる選手も育てた。だが、そこでは気をつけなければならない問題があることがわかった。一番になると、コーチも選手もそれに満足してしまい現状維持に努めてしまう。何人かのトッププロはお互いのレベルをだいたい知っているために、そこで戦うイメージを持ち、それ以上新しいことにチャレンジしようとしなくなる。
だが、誰でもそうだが、新しいことにチャレンジしなければ、それ以上の向上はない。だから私が選手の才能を最大限引き出したとしたら、ただその関係を維持していくだけのような、ベビーシッターのようなことはしたくないと思っている。
私はいつまでもチャレンジをし続け、よりよいものを目指して、テニスのコーチングをしていきたいと思う。
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