「ハートブレーキングだ」3回戦で負傷し途中棄権のキリオス [ウインブルドン]

ファンに手を振ってコートをあとにするニック・キリオス(オーストラリア)(Getty Images)


 2年ぶりの開催となる今年3つ目のグランドスラム大会「ウインブルドン」(イギリス・ロンドン/本戦6月28日~7月11日/グラスコート)の男子シングルス3回戦で、ニック・キリオス(オーストラリア)が第16シードのフェリックス・オジェ アリアシム(カナダ)との試合で6-2 1-6 0-0の時点で負傷のために棄権した。

 腹部に痛みが走った瞬間のことを説明した。

「4-1の15-15でファーストサービスを打ったときに左の腹部に痛みが走った。ジュニア時代に痛めたことがある箇所だった。負荷がかかり過ぎると痛みが出てくる。40-15でワイドへのサービスを打って、思い切りフォアハンドを打って、ドロップショットで仕留めようとしたときに、ケガが深刻だと分かったんだ」

 サービスが普通に打てなければ勝機はなかった。

「俺は世界でも最高のサービスが打てる。平均時速210kmくらいは出せる。それなのに終わりの頃は時速110kmくらいだった。フェリックスのような素晴らしい選手を相手に、それでは勝てない」

 体の調子自体はすこぶるよかった。

「今朝起きたときは物凄く体の調子がよかった。実際、試合でもグラスコートでこれほど調子がいいと感じたのは初めてだ。運が悪かったよ。第1セットで3回ブレークしたのに。でもケガも試合のうちだ。彼はプロだし、素晴らしい選手。これから大きな成果を挙げるだろう。俺はそこまで落ち込んでいない」

 バブル生活を周囲に強いることはできないため、開幕4日前に現れた。

「自分のやり方に対して、“彼はプロフェッショナルじゃない”、“もっとジムでトレーニングしたほうがいい”“もっとできるはずだ”などと言われる。でも、これが俺のやり方なんだ。ウインブルドンに向けて最善の準備をしてきた。オーストラリアでトレーニングをしてからロンドンに来た。もっと早く来ることもできたが、早くからバブル生活に入るのが嫌だった。ガールフレンド、親友、マネージャーにも早くからバブル生活を強いるのが嫌だった」

 自分のプレーに自信はあるが、体が十分ではなかったことを認めている。

「ここに来てできる限りのことはやった。懸命に戦った。でもこのレベルで、この質の高い選手たちを相手に勝ち続けるのに十分ではなかった。でも、自分のプレーレベルは悪くない。トップ15には入ると思う。今日の試合だって、第1セットで相手を圧倒しただろ? 6ヵ月間大会に出ていなかったんだぞ。自分のプレーはできているし、自信はある。ただ、体が十分ではなかったので、1週間、2週間が必要かもしれない」

 ファンに対して申し訳ない気持ちを持っている。

「さすがにちょっと荒れたよ。楽しんだし、俺のような“バッドボーイ”のテニスを喜んでくれるファンがいたし、彼らは俺がプレーを続けてほしいと思っているのが分かった。自分ができる限りのことをしたけど、サービスを打つたびに痛みが増すから、この冒険の終わりだと気付いた。残念だけど、彼らに終わりを告げなければならなかった。今週の調子なら、結構いいところまでいけそうだったから、応援してくれるファンをあとにしなければならないのが残念だった」

 ロンドンはオーストラリアよりも雰囲気がいいくらいだった。

「俺がコートに出ると喜んでくれるファンがいる。当然彼らの前でプレーしたいと思う。でも、自分がプレーする試合は今後もしっかり選んでいきたい。毎週テニスをすることはない。世界を飛び回ってテニスボールを追うのは自分じゃない。逆に、俺が頻繁にプレーしないことでプラスの面もあると思った。俺がコートに出ると本当に喜んでくれるファンがいて、どの試合も満員になった。今週、観客の前でプレーできて本当に楽しかった。オーストラリアでプレーしているような感覚、もしかしたらそれ以上の雰囲気だったのかもしれない」

 少しリフレッシュしてから次にUSシリーズに向けての準備に入る。

「今後のプランはケガをしっかり治してリハビリをして、USシリーズに向けての準備に入る。でも、まずはプレーできる体の状態になっているかどうかをチェックする。準備ができていなければプレーはしない。ケガについては、この数日様子を見ないと分からない。このようなケガは2、3日経ってからさらに内出血することもあるとフィジオやドクターが教えてくれた。少しロンドンに残ってバブル生活から抜け出してガールフレンドと見て回るつもりだ。それからリハビリ、トレーニングに入る」

 東京オリンピックは自分が望む条件が整わない限り、出場しないという。

「オリンピックに関しては、条件が整えばプレーするということだ。満員の観客が入った中で、自分が招いた人たちが問題なく観戦できることが必要だ。自分自身も他の競技を見たいと思う。自分にとってのオリンピックはそういうものだ。それができないなら出場しない。今回もし一度だけ出場するとしたら、いい思い出として残したいんだ。厳しい規制の中では、それは叶わないだろう」

 ビーナスとのミックスダブルスについても心を痛めている。

「ハートブレーキングだ。あんなに楽しくダブルスをプレーできたのは久し振りだ。ビーナスにミックスダブルスをケガで続けられないと伝えるのは残酷なことだ。彼女は今大会が終わればほかの予定があったのかもしれないのに、時間を奪ってしまった。シングルスでもまともにサービスを打てないのに、これからどのくらい回復できるのか。もちろんダブルスをプレーできるようになるため、最大限の努力はするつもりだ。でも厳しい。今日の試合でケガなく敗退しただけなら、何の問題もない。本当にハートブレーキングだ」
 
 USオープンでふたたびビーナスとペアを組むアイディアには好意的だ。

「インスタグラムのメッセージでビーナスと連絡を取り合っているから、もし続けられないならそこで伝えるよ。ハートブレーキングだ。彼女も残念だと思う。これからあと何大会出られるか分からないだろうし。ここでプレーするためにいろんなものを犠牲にしてきたから自分自身も残念だ。もしいいプレーをする自信がなければ出場しなかっただろう。今日も第1セットはよかったし、とにかく残念だ。いまはビーナスに棄権を伝えることは考えたくない。USオープンでまた彼女と組む? それはいいアイディアだ。彼女が望めば組みたいね」

 テニスシューズを忘れた以外は完璧だった。

 「今日の試合、腹部を痛めるまでは完全に支配していた試合から、自ら退いたんだ。世界最高の医療チームが今ここにいても、数日は回復に時間がかかる。ちょっと難しいと思う。今日は試合に立つ前は完璧だった。すごく調子がよかったんだ。唯一最悪だったのは、テニスシューズを持ってくるのを忘れたことだ。あれはまずかった」

 プレー以外でケガはどの程度影響があるのか。

「呼吸をするときも腹部のことは気になるし、体を一定の方向に伸ばすと違和感がある。今の時点で状態はよくない。でも、もしプレーを続けていたらさらに悪化しただろう。その影響でUSシリーズに出られなかったら、それこそ本当に最悪だ」

 来年からミドルサンデーがなくなることに驚いている。

「ウインブルドンは歴史と伝統の大会。だから特別なんだ。ミドルサンデーに(フェリシアーノ・)ロペス(スペイン)と持ち越しになった試合の残りを戦った思い出がある(2016年大会3回戦)。ここでプレーした最高の試合のひとつだ。凄くよかった。ミドルサンデーがなくなるのには驚いた。あの休みで皆が一息つけるし、よかったと思う。でも、ここは天気が予想できないから、仕方ないかもしれない」(テニスマガジン)

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写真◎Getty Images

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