“圧”をかける①「ジョコビッチ対チチパス」戦の勝負際、大逆転の始まり【堀内昌一のテニスの戦略と戦術がよくわかるレッスン|第139回】



勝負際では判断ミスが起こり得る

 チチパスはブレークされた第3セット第4ゲームで、バックハンドのダウン・ザ・ラインを2回、わずかにサイドアウトしています。いずれもジョコビッチのフォア側にできたオープンスペースに対しておかした、似たようなミスでした。


チチパスはジョコビッチ側のオープンスペースに対して放ったバックハンドのダウン・ザ・ラインをミス

 ジョコビッチはこの第4ゲームにとにかく集中していて、ほとんど余計なミスはせず、チチパスに簡単にポイントを取らせないようにしていました。それがチチパスを苦しめることになります。それまでのチチパスは、もっと確実な場所にボールを打ってポイントを取っていたのですが、あまりにもジョコビッチが取らせてくれないため、だんだんとラインぎりぎりに打ち始め、リスクを負ってプレーするようになります。ポイントを取りたい……ジョコビッチに取らせたくない……そんな状況の中、チチパスは、確実な場所ではなく、難しい場所をねらってボールを打ってしまいました。

 6度もデュースを繰り返したあと、ジョコビッチは5度目のブレークポイントで仕掛けました。アドサイドでのリターンをフォアに回り込んで返球。チチパスのサービスはボディに食い込んできたためやや体勢を崩し、サイドラインの外へジョコビッチの身体は流れるのですが、ショットはクロスへ深く返して、チチパスにバックを打たせました。このときジョコビッチのフォア側にはオープンスペースができています。違う言い方をすると、ジョコビッチはコートの外にいるためコート内はガラ空きです。そこに対してチチパスはバックのダウン・ザ・ラインへ打つのですが、結局、わずかにサイドアウトしてしまいました。もっと内側へ打ってもいいショットだったのに……。


ジョコビッチはフォアで回り込んでリターン、身体はサイド方向にやや流れ、フォア側にオープンスペースができた

 何としても自分はフォアでクロスに深く打ち、チチパスにバックを打たせること(おそらくバックのダウン・ザ・ラインを打たせること)……が、ジョコビッチのねらいで、執念のリターンと言えるのではないでしょうか。この戦術的プレーを、(“プレッシャー”とは言わず)“圧”をかけたプレーと言いたいのです。

 チチパスはコートがほぼ全面空いているのに、バックハンドのダウン・ザ・ラインをサイドアウトしました。それは決定的な判断ミスで、ゲームを落とすことになる致命的なミスでもありました。勝負際、ビッグポイントでこうしたことは起こり得えるのです。


オープンスペースがあるにもかかわらず、チチパスはバックハンドのダウン・ザ・ラインをサイドアウトした

 あくまでも想像ですが、ジョコビッチはこのチチパスのミスに対し、「ラッキー」と思ったりはしないはずです。なぜなら、自分がそう仕向けたからです。前述したように、チチパスはこのポイントの以前、2度目のデュースのときにも、クロスラリーの中でジョコビッチのフォア側にできたオープンスペースにバックハンドのダウン・ザ・ラインを打ってサイドアウト(ジャストアウト)をしています。確実にコートに入れるよりも、ライン際を狙ってのミス。それを打ちたくなるようなシチュエーションをジョコビッチにつくられて、おかした凡ミス、判断ミスでした。

正しいときに正しい勝負を仕掛ける!

 拮抗状態の試合では、お互いが安全・確実なプレーをしながら、相手の様子を伺い、そこから勝つためにいつ勝負に出るか、仕掛けるかを探ります。非常に緊張が高まる場面でも、そこで何ができるか、何をするかです。ポイントを失うかもしれないという危険を覚悟で“すべきことをやる!”ことが、大きな試合で勝つための条件にもなります。(次回“圧”をかける②に続く)

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