何がジョコビッチを偉大にしているのか?「彼はまず脚を取り、それから魂を取る」
今年最後のグランドスラム大会「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月30日~9月13日/ハードコート)の大会12日目は、男子シングルス準決勝などが行われる予定になっている。
他のテニスプレーヤーにノバク・ジョコビッチ(セルビア)を偉大にしているのは一体何か、彼を半世紀ぶりの『年間グランドスラム(同じ年に四大大会全制覇)』達成まであと一歩というところまで押し進めたのは何なのかについて尋ねてみるといい。その答えには彼のサービスリターンのうまさ、コートカバーリング能力、効果的な両手打ちバックハンドなどが含まれているかもしれない。
彼らが一貫して称賛していることは、特にグランドスラム大会で使われているベスト・オブ5セットにおける彼の精神力とフィジカル面でのスタミナ、そして集中力とフィットネスだ。東京オリンピック金メダリスで第4シードのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)に対するUSオープン準決勝を前に、ジョコビッチが2021年のグランドスラム大会で残した戦績は26戦全勝だ。ここで、男子選手と女子選手のジョコビッチ評の例をお見せしよう。
――サム・クエリー(アメリカ)「彼の最高の特徴はマインド、その精神力だ」
――マリア・サカーリ(ギリシャ)「ノバクは別の惑星から来ている。彼のプレーの仕方、彼の考え方は比類ないわ」
――スティーブ・ジョンソン(アメリカ)「彼の信じる力は本当に高い」
――ドゥサン・ラヨビッチ(セルビア)「彼が備えている粘り強さ、一貫性と安定性のレベルは疑いなく彼の最大の武器だ」
――ジェシカ・ペグラ(アメリカ)「彼には弱点が見えない。私たちは彼が大会を通して楽々と進んでくるのを目にしてきた。また彼が巻き返し、厳しい状況から抜け出るのを目にしてきた。彼は自分のエネルギーを節約して保存し、いつ出力をアップすべきかを知っているのよ」
ネットの反対側に立ってジョコビッチに相対した最新の男は、USオープン準々決勝で彼と対戦した第6シードのマッテオ・ベレッティーニ(イタリア)だ。フラッシングメドウでのジョコビッチのそれに先立つふたりの対戦相手と同じく、ベレッティーニは第1セットを取った。そしてジョコビッチは彼のそれに先立つ2試合――今季のグランドスラム大会で彼が最初の1セットまたは2セットを落とした他の6試合も同様――と同じように、最終的に5-7 6-2 6-2 6-3で勝者となった。
2003年USオープン優勝者で2007年から12年にかけてジョコビッチに対して5勝4敗だったアンディ・ロディック(アメリカ)が数日前にツイッターで流した言葉を思い出す。
「彼はまず脚を取り、それから魂を取る」
ではジョコビッチに対するとき、フィジカルとメンタルのどちらを克服するのがより難しいのだろうか?
「少しずつ、その双方だよ。彼がフラストレーションを感じているのを目にしたとしても、彼は彼の“ゾーン”に入ることができる。それは彼が時間をかけて生み出していったものなんだ。それがネットの反対側から感じられるんだよ。フィジカル的には高いレベルでプレーできると感じているけど、彼はまるで疲れを知らないかのようなんだ。彼はまるで『よしかかってこい。疲れたかい? 僕はここに3、4日だって留まれるよ』と言っているかのようだ。そんな感覚を受けるよ」とウインブルドン決勝でも第1セットを取ったあとに敗れていたベレッティーニは説明した。
「第1セットでのフィジカル面およびメンタル面の強度を4~5セット維持しなければならないんだ。それがカギなんだ。それは絶対に不可能ではないかもしれないけど、世界中の誰もそんなことはやってのけられていない。人類は80億人がいるけど、誰もそんなことはやってのけていないのさ」
そして今度は、ズベレフがそれに挑戦する番がきた。ズベレフはこのところ16連勝して現在に至っており、その中には東京オリンピック金メダル獲得への過程の準決勝で激突したジョコビッチに対する1-6 6-3 6-1の勝利も含まれている。
「僕は自分が今年のビッグマッチで彼を倒した最初の選手だと感じている。その事実は誰にとっても大きなプラスになるよ」と2020年USオープン決勝でドミニク・ティーム(オーストリア)に敗れて準優勝だったズベレフはコメントした。
オリンピックと金曜日の準決勝の無視できない違いは、オリンピックでの試合はベスト・オブ3セットマッチだったということだ。これは皆が同意することだが、フォーマットが長ければ長いほどジョコビッチにとって有利に働くのである。
それは少なくとも34歳のジョコビッチがズベレフに勝ち、それから決勝でも勝ち得る理由の一部だろう。決勝で勝ち受ける相手は、第2シードのダニール・メドベージェフ(ロシア)と第12シードのフェリックス・オジェ アリアシム(カナダ)の勝者となる。そしてもしそれをやってのけたなら、ジョコビッチは1969年のロッド・レーバー(オーストラリア)以来となる年間グランドスラムを達成することになるのだ。
同じ年に4つのグランドスラム大会すべてで優勝するには、毎月毎月試合ごとにハードコートでもクレーコートでもグラスコートでも優れたプレーをすることが要求される。ではジョコビッチは自身は、彼がやってのけてきたことをどう説明するのだろうか?
「僕は何年にも渡って自分のテニスを完璧にするため、僕のテニスが文字通り非の打ちどころがなくなるようにするため努力してきた。すべての選手がどこかに弱点を持っている。常に向上させることのできる何かがある。僕は可能な限り完成したオールラウンドなプレースタイルを持ちたいと願っているんだ。そうすればどんなサーフェスにも適応できるし、違うスタイルのプレーでも対応できる。特殊な試合に勝つために必要なテニスを戦術的に実施することができるようになるからね」と彼は語った。
「もちろん僕は、自分の対戦相手が僕にはどんなボールも返す力があると感じて欲しいと思っている。コートの後ろからでもネットでもサービスでもリターンでも、心地よくプレーすることができると感じて欲しいんだ。僕が長い年月をかけて自分のテニスを万能なのものにしようと努力してきたことは、僕がどんな相手でもどんなサーフェスでも適応できるようになる助けになっているよ」(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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