ペン・シューアイとIOCのビデオ電話がさらなる疑念を招く結果に

写真は2020年オーストラリアン・オープンでのペン・シューアイ(中国)(Getty Images)


 3週間近く公の場から姿を消して連絡がつかなくなっていたあと、女子テニス選手のペン・シューアイ(中国)が国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長らとのビデオ電話で姿を現した。

 このことでIOCと中国政府は、11月2日に元副首相のジャン・ガオリー(張高麗)氏を性的暴行で告発したあと行方不明になっていたペンに関わる一連の騒ぎを終わらせるよう願っているだろう。しかしそれは、彼らの希望的観測かもしれない。

 そのやり取りは詳細や彼女の告発の続報をほとんど提供しておらず、IOC、ペン、中国に関する疑念をいっそう高めることになった。

 今回のビデオ電話は、WTA(女子テニス協会)の会長兼CEO(最高責任者)であるスティーブ・サイモン氏を満足させることはありそうもない。彼は率直に中国を批判し、WTAの大会を中国から撤退させると圧力をかけている。

 日曜日にIOCのビデオが公開されたあともWTAはこれまで一貫してサイモン氏が言い続けていたことを繰り返し、(性的暴行の告発に対して)国が検閲をかけることなく完全な透明性を持って調査を行うべきだと訴えている。

 IOCによればペンはバッハ会長と30分に渡ってビデオ電話で会話を行い、彼はペンが「北京の自宅にいて無事で元気にしているが、現時点では自分のプライバシーを尊重して欲しいと考えている」と詳細を説明した。バッハ会長はペンに対して1月に彼が冬季五輪の視察で北京に行くときに夕食をともにしようと誘い、彼女はその招待を喜んで受けたとIOCは明かした。

 世界中で話題となっているこのスキャンダルに巻き込まれているだけでなく、IOCは中国で人道に反する犯罪がいくつも起きているにもかかわらず冬季オリンピックの準備を進めていることを広く批判されている。

 アメリカ・ニューヨークに本部を置く人権保護団体『ヒューマン・ライツ・ウォッチ』のスポークスマンである中国生まれのヤキウ・ワン氏は、IOCは現在「中国政府が強制する失踪、弾圧、プロパガンダ(宣伝)機構において積極的に役割を演じている」とツイートした。

 中国国内でペンの告発のニュースはすべてもみ消されているとはいえ、WTAや他の多くの新旧のテニスのトップ選手――大坂なおみ(日清食品)、セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)、マルチナ・ナブラチロワ(アメリカ)など――からのペンについての懸念やソーシャルメディア上の活動『#WhereIsPengShuai』への全世界的注目は中国にプレッシャーをかけている。

 アメリカのニュース専門チャンネル『CNN』の報道によれば、中国国内ではペンに関する報道に関わる通信はすべて遮断されている。中国の主要ソーシャルメディアであるウェイボー(中国版ツイッター)で彼女の名前を検索すると、彼女に関する投稿はごくわずかで性的暴行の告発や彼女の所在に関することには一切触れていない。

 チャイナ・オープンは彼女が映った日曜日のユース大会の写真を投稿したが、キャプションでは彼女について触れていなかった。

 変わらず行方不明なのはジャン氏だ。中国の政治権力の頂点である政治局常任委員会の7人のメンバーのひとりだった彼は2018年に政界を引退し、通常は中国の元高官がそうであるように公衆の視界から姿を消していた。

 ペンを黙らせようとする努力は、党の指導者たちへの批判を鎮圧しようとする与党共産党の決意を反映している。アスリートは有名で自分たちの業績を党の成功を宣伝するために利用されるため、彼らは特にデリケートな立場に置かれている。

 オリンピックに3度出場した経歴を持つペンはウェイボーでジャン氏に性的関係を強いられたと告発し、その投稿は国家に厳重な検閲を受けているインターネット上からすぐに削除された。彼女はその投稿の中で、過去にその元政府高官と合意の上で関係を持ったこともあったと打ち明けていた。

 長い文章の中で、彼女は部分的に次のように書いていた。

「副首相のジャン・ガオリー、高い地位につき権力を持つ貴方は恐れていないと言いました。貴方の知性を持って、貴方は間違いなくそのことを否定するでしょう。或いはそれを私に不利なように使うこともできるし、鼻にもかけず却下することもできます。例え私が自分を破滅させるとしても、これが岩の壁に卵を投げるような虚しい行為や火の中に飛び込んでいくようなことだったとしても、私は変わらず私たちについての真実を話すでしょう」

 静かな外交が機能し、中国に面目を保つ方法を与えたとIOCは主張するかもしれない。その一方でこの行為はペンの告発についての公開インタビューを本人に行わせることなく、北京のメッセージを伝えるという形でIOCが中国側に加担したと捉えることもできる。

 非政府組織としての地位を確立しているとはいえ、IOCはスポンサーや放映権の販売から収入の91%を生み出しているWTAやNBA(男子プロバスケットボールリーグ)と同じようなスポーツビジネスだ。WTAは中国の財政的影響力に挑戦的に立ち向かった最初のスポーツ団体であり、中国の内部政策に介入することは無力であると述べているIOCとは対照的だった。

 アスリートの権利保護のためにアスリート自身が主導する国際組織である『グローバルアスリート』は声明文の中で、「(IOCの)声明はIOCを中国当局の悪意のあるプロパガンダに加担させ、基本的人権と正義への配慮を欠いている」と批判した。

「IOCはアスリートに対する性的暴行と虐待の申し立てを完全に無視しているところを示して見せた。ペン・シューアイの失踪に無頓着なアプローチを見せ、彼女の深刻な性的暴行の告発に言及することを拒否することにより、IOCのトーマス・バッハ会長とIOCアスリート委員会は性的暴力と女性アスリートのウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念)に対して忌まわしいまでの無関心を示している」(APライター◎ステファン・ウェイド/構成◎テニスマガジン)

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写真◎Getty Images

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