「今一番欲しいのは強力な兵器!この戦争に勝つには皆の助けが必要なの」2回戦突破のツレンコがウクライナについて語る [ウインブルドン]
今年3つ目のグランドスラム大会「ウインブルドン」(イギリス・ロンドン/本戦6月27日~7月10日/グラスコート)の女子シングルス2回戦でレシヤ・ツレンコ(ウクライナ)が第29シードのアンヘリーナ・カリニーナ(ウクライナ)との同胞対決を3-6 6-4 6-3で制し、母国について語った。
ウインブルドンがロシア人選手、ベラルーシ人選手を排除したこの大会でウクライナ人として勝ち進んでいることをどう感じている?
「そのことは考えていないけど、少し気持ちを落ち着かせられる。この2ヵ国の選手に出くわすことなく大会に出られるのは気分がいい。個人的な問題じゃない。でも、いま私の国では戦争が起きている。2ヵ国の選手がいないことで少しだけ気持ちが落ち着く」
WTA(女子テニス協会)とATP(男子プロテニス協会)が今大会でポイントを加算しないと決め、多くの反発があった。君の意見は?
「あの決定には不満。今日ランキングをチェックしたら、ポイントを失ってランキングが落ちている選手もいた。でも、これは全選手にとって同じこと。個人的には不満だけどね。ロシア人、ベラルーシ人のスポーツ選手が大会に出場できないのは、それだけ大きな理由があるから。私は正しい決定だと思う」
ロッカールームでロシア人、ベラルーシ人選手と会うと、どんな気分になる?
「個人的には、彼女たちに会うのは気分のいいものじゃない。他のウクライナ人選手はどうなのか知らない。でも一人だけ、“私とウクライナをサポートしているし、戦争に反対だ”と言ってくれたベラルーシの女子選手がいる。それ以外、戦争に反対するという言葉は誰にも聞かれなかった。他の選手の意見は知らない。私に何も言わないのは、気分が悪いし、私の気持ちが張り詰めてしまう」
スタジアムのファンの声援をどう感じている?
「戦争が始まってから、確かインディアンウェルズだったと思うけど、応援してくれる人が凄く増えている。多くの人はウクライナがどこにあるのかわかっており、そこで何が起きているのかも知っているようね。1年前は、ウクライナから来たと言ったら、ほとんどの人が、”どこにある国?” という反応だったけど、今はたくさんの人が応援してくれるようになった。残念ながら、戦争のせいでよく知られるようになった。もっとポジティブなことで知られたかった。でもそれが今の現状なの。世界中でたくさん応援してもらえている」
その応援のおかげで、普段よりもいいプレーができていると思う?
「自分の気持ちの持ち方でプレーがよくなっていると思う。今、私の気持ちでは勝利や敗北はもう存在しない。私の人生で一番大きなことは、戦争。これ以上のものはないの」
君の出身地のキーウが最近また攻撃されているけど、大会への準備に影響はあった?
「気分はよくないわ。本当に心配している。狙われている標的は、私の自宅から100mの場所にあるの。いつも爆撃を受けるのは私の住んでいる地域。だから、戦争が始まってから、自分の中で気持ちがずっと張りつめている。毎日カウンセラーに会って心を落ち着かせようとしているけど、不可能なの。この気持ちは戦争が終わらない限り収まらない。自分ではどうしようもない」
今もキーウの危険な地域に家族や友人がいる? 彼らと電話で連絡をとっている?
「ええ。母は今、ウクライナの南へ避難している。姉は私がいま拠点にしているイタリアの街に住んでいる。姉はウクライナで3ヵ月も戦争を経験したから、今は普通に近い生活を過ごせている。でも心が落ち着かないみたい。ウクライナを離れたことに罪悪感があるようね。私は安全な場所にいることを喜んでいるけど。母もイタリアに来ると言ってはいるけど、本当に来てくれるかわからない。それでも来てくれると信じて、彼女に会える日を楽しみにしている。今一番辛いのは、知っている人たちが最前線で戦っていること。一人はロシア軍に連行され、今どうなっているのかわからない。生存だけは確認できている。2人はまだ戦っていて、数人はもう亡くなった」
アンへリーナや他のウクライナ人選手ともいろいろ話した?
「もちろん。アンへリーナは昔からよく知っている。彼女の両親の家は破壊されたから、彼女もいい気分ではないはず。私たちが何とか気持ちをコントロールしてプレーを続けているのはうれしいこと。インディアンウェルズやマイアミの頃はプレーを続けられるのかわからなかったから。何とかやっている。でも、犠牲も大きい。私はカウンセラーを雇っている。自分の家で起きていることと、自分のテニス人生を別々のものとして考えるようにしている」
君が勝ち進んでいい意味で注目されるかもしれない。
「私たちはお互い助け合っている。それがウクライナ人が感じている気持ち。姉ともたくさん話したけど、彼女にこう言われた。通りに出て、助けが必要なんだと誰彼構わずに声を掛けたら、相手は必ず助けてくれる。それだけ今はすべてのウクライナ人が連帯感を感じている」
ウクライナの人たちのためにどんなことができたらいい?
「大会に参加できるすべての選手たち、ポーランドやドイツへ行ってチャリティーコンサートを行っている人たちは、ほんの一部のウクライナ人。ウクライナ人は世界に対して、まだ自国で戦争が行われており、皆の助けを必要としていることを忘れないように主張し続けたい。私が今一番望んでいるのは、多くの強力な兵器の供給。私たちはここにいて、ウクライナのために戦っている。ウクライナが今も大きな問題に晒され、助けが必要だと言うことを忘れて欲しくない。私のような選手がスポーツ界で活躍する姿を見せるのは、ウクライナが強い国であることを世界に知らせることにもなる。そしてまだ戦争の真っただ中にあり、助けを必要としているとね。この戦争に勝つためには、まだ助けが必要なの」
写真◎Getty Images
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