「決勝やトロフィーのことより、毎日を充実させることを考えている」メンタルの変化を語るキリオス [ウインブルドン]
今年3つ目のグランドスラム大会「ウインブルドン」(イギリス・ロンドン/本戦6月27日~7月10日/グラスコート)の男子シングルス4回戦でニック・キリオス(オーストラリア)がブランドン・ナカシマ(アメリカ)を4-6 6-4 7-6(2) 3-6 6-2で破り、記者会見で落ち着いた様子で試合を振り返った。
「ブランドンのプレーに感銘を受けた。彼の試合はそれほど観てきた訳じゃない。ドローを確認して、彼が誰を倒したのかチェックしたら、かつてウインブルドン・ジュニアで優勝したデニス・シャポバロフ(カナダ)もいた。だからナカシマがいいプレーをするのはわかっていた。彼のプレーの多くが素晴らしいと思った。セカンドサーブは素晴らしく、こちらからアタックできなかった。バックハンドも脅威で、リターンでいつも押し返された。自分も理想通りのプレーができなかった。ステファノス・チチパス(ギリシャ)やフィリップ・クライノビッチ(セルビア)との試合同様に、ショットのフィーリングが悪く、我慢して戦うしかなかった。メンタルでよく持ち堪えたと思う。第4セットの終わりなどはイチかバチかの戦術で応戦するしかなかった。最後のサービスゲームは捨てたようなものだ。彼がリズムに乗っていたから、どうしようもなかったんだ。苦しめられたから、ちょっと動揺させようと思ったんだが、うまくいったよ」
――今日の試合で達成できたことは、今後の戦いにどう影響を及ぼす?
「同じメンタリティで1試合ずつ戦っていく。彼が何故4回戦まで勝ち残れたのか、よくわかった。調子もいいはずだ。ここまで勝ち上がった選手は誰もが大きな可能性を持つ。あと8人しか選手は残っていない。正しいことを続けて、フィジカル面でプロフェッショナルに徹して、チームも素晴らしい仕事をしてきた。体のケアには時間をかけている。チームとしてまとまり、いい方向を向いているので、このあとも勝ち続けたい」
――第1セットは苦しそうだったが、終盤はサービスもよく心地よさそうにプレーしていた。
「チチパス戦の翌朝、起きたら肩に痛みがあった。この1ヵ月半、本当にたくさんの試合をしてきたからだろう。そろそろ体のどこかに問題が起きるとは思っていた。準々決勝まできたら、どの選手も100%の状態でな訳がない。ラファエル・ナダル(スペイン)なんて、いつも故障を抱えているようだ。これはうまくコントロールするしかない。痛みとの付き合い方において、メンタル面のコントロールは以前よりうまくできている。100%の状態でなくても、落ち着いてプレーできた。5セットを通して全力でサービスを打ち続けることができず、痛み止めも飲んでいた。試合の後半にリターンがよくなり、第5セットは感触がよく、彼のレベルが落ちたところで自分のレベルを上げることができた」
――もし今大会初めて準決勝にいけたら、自分にとってどんな意味がある?
「それが俺の目標じゃない。今年はタイトルを狙いたいと、周囲の人たちには宣言していた。だが、トロフィーを掲げることや、決勝、準決勝進出を考えている訳じゃない。毎日を充実させることを考えている。コートでいいパフォーマンスを見せて、いい練習をして、ポジティブでいようとしている。オンとオフではしっかり切り替える。オフコートではチームの皆やガールフレンドと楽しく過ごそうとしている。それからまた試合モードに戻るんだ。先のことは考えず、今この瞬間に集中している」
――かつてはテニスが好きじゃない、モティベーションがないと発言していたが、今はどんな状況?
「以前より冷静でいられる。今日は物凄いバトルの中にいながら、その状況を楽しんで笑顔がこぼれそうだった。過去にはこの状況を楽しむことができなかった。セットカウント2-1から第4セットを落とす前、彼は素晴らしい状態で、逆に自分はかなり落ちていたが、それでもその戦いを楽しめた。キャリアの中で初めてかもしれない。満員のスタジアムでいいプレーができていなかったが、“ここまでこれたじゃないか!”と自分に言い聞かせた。ボールに集中できていた。ウインブルドンの舞台で、いいメンタル状態で戦えている。これは凄いことなんだ。いいプレーができない中でも、落ち着いていられた。以前よりこのバトルを楽しめている。今は誰もが自分との対戦で最高のプレーをしてくる。俺もかつてはアンダードッグとして挑戦する立場だった。でも、今日は誰もが、俺が勝つと予想している中でコートに立った。これまでと全然違う状況だが、うまく対応できた」
――これまでキャリアでいろんなことがあったが、振り返るとどう?
「かつては、ウインブルドンでのセンターコートでナダルとの試合の直前に、代理人が朝4時にパブにいる俺を連れ出さなければならないことがあった。そこからだいぶ遠くまできた気がする。俺の周囲には素晴らしいメンバーがいて、支えてくれている。フィジオ、代理人は親友だ。世界一のガールフレンドがいる。素晴らしい人たちに支えられている。昔は周囲から人々を遠ざけていた暗黒の時代があった。ウインブルドンの準々決勝にいて、成長を感じられ、落ち着いていられる。この状況に感謝しかない。凄く心地いいよ」
センターコートで20歳のブランドンと戦って、自分の若い頃を思い出したのでは?
「俺がもうツアーで10年目を迎えていることを人々は忘れてしまっている。自分が若くしてブレークした最初の選手だと思っていない。19歳のときにセンターコートでラファを破り、アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)やドミニク・ティーム(オーストリア)にもやれるんだぞという刺激を与えられたと思う。当時の若手の中でトップ選手を倒したのは、俺が最初だったはず。今、カルロス・アルカラス(スペイン)が何も恐れていないのと同じようにね。当時、ロジャー・フェデラー(スイス)、ナダル、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)は神のような存在で、触れちゃいけないと思われていたが、俺が3人のうち1人はただの人間であることを証明した。本当に長い間戦ってきた。俺ももう27歳だ。16歳でウインブルドン・ジュニアにも出場した。何度も、何度もここでプレーしてきたんだ。今では、ここで心地よく、自然体でいられる」
君がポイントを取るたびにチーム全員が立ち上がって拍手を送っていた。彼らのサポートをどう感じている?
「大きなコートなのに、最初の1時間半くらいは、物凄く小さく感じられたんだ。これまでのように思いきったプレーができず、チームもそれを感じていたと思う。今日は勝って当たり前と思われる中、いつもと違う状況だった。第5セット終盤になって彼らを見上げると、いろんなことが頭を駆け巡った。ああいうとき、どれだけ多くのことを考えているのか、皆にはわからないだろう。ここまできたすべてのプロセスを思い出していたんだ。何年間もの出来事が頭の中に浮かんでくる。彼らはスタジアム全体のわずか1%、2%程度だが、大きな助けになる。煩わしいこともたくさんしてくれている。いつも応援してくれている。本当に長い道のりを一緒に歩んできた」
ニック・キリオスは他の選手とどんな関係なんだ?
「基本的に、君らは誰も俺のことを知らない。一緒につるんだことがない。君らはコートでの姿しか知らない。いつもジェットコースターのようなアップダウンがある。だから、評価が分かれるのは理解できる。人々は自分の意見を持つことが好きだ。俺は人と違うことをしたい。選手の中で仲のいいジャック・ソック(アメリカ)、ジョーダン・トンプソン(オーストラリア)、タナシ・コキナキス(オーストラリア)は、俺がどんな奴なのかをよく知っている。あまりすべてを真面目に捉えたりしない。ロッカールームに入ったら、冗談を言い合う。彼らをいつもサポートしている。何が起きてもいい友人としてそこにいるんだ。アンディ・マレー(イギリス)ともよく話す。俺と一緒にいたことがないから、そんなこと知らないだろ? 俺と一緒にいるのは楽しいぞ」
今日はワインを飲むと言ったが、今後の予定は?
「多分、チームと一緒に夕食に出掛けてリラックスするよ。この時間がいいんだ。テニスから切り離されて過ごすことができる。これが重要なんだ。過去にグランドスラム大会で勝ち進んだときは、このようにうまく切り替えることができなかった。試合が終わったあとに、ずっと電話してたりした。簡単にインターネットに繋がることができ、試合についての皆の意見を読んだり、ハイライトも観られる。でも、今はそこから切り替えてリラックスして過ごすことができる。それは自分の中で大きな成長だ。ガールフレンドと過ごすのも大いに助けになる。テニスのことは一端忘れて、食事を楽しんでから翌日また目覚める。テニスと普段の生活を切り離すことが、物凄く重要なんだ」
――7年半ぶりのグランドスラム準々決勝。今大会は大きなチャンスがあるように見える
「ああ、もちろんだ。マッテオ・ベレッティーニ(イタリア)が出られないのは、出場している選手の誰もが安堵するものだ。彼はウインブルドンのファイナリストだから、当然だ。グラスコートでは世界のトップ3に入る。だからこそ、大きなチャンスと見ている。相手となるクリスチャン・ガリン(チリ)はいつもいいプレーをしている。俺が今日コートに立ったとき、アレックス・デミノー(オーストラリア)が2セット先取していたから、アレックスと対戦することになると思っていた。でも、試合を終えてコートを去るときに、相手がガリンになったと伝えられた。驚いたよ。チャンスだと見ているけど、その試合に向けての準備で、やらなければいけないことがたくさんある。休憩、リカバー、いい食事、いい睡眠。またコートに立って戦うまでに、たくさん踏むべきステップがあるよ」
写真◎Getty Images
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