「チチパス戦のメンタル状態は素晴らしかった」準決勝進出のキリオス [ウインブルドン]

ウインブルドン準々決勝でクリスチャン・ガリン(チリ)を倒し、しばらくベンチに座り込んでいたニック・キリオス(オーストラリア)(Getty Images)


 今年3つ目のグランドスラム大会「ウインブルドン」(イギリス・ロンドン/本戦6月27日~7月10日/グラスコート)の男子シングルス準々決勝でニック・キリオス(オーストラリア)がクリスチャン・ガリン(チリ)を6-4 6-3 7-6(5)で倒し、試合を振り返った。

「オンコートでも言ったように、ここまでくるとは予想していなかった。数年前、俺はもう終わったと思っていた。その状況を乗り越えられ、本当に自分自身、チーム、自分のテニスのレベルを誇りに思う。今日の試合はまったく簡単なものではなかった。彼は凄まじくいいプレーをしていた」

試合に勝ったあと、数分間ベンチに座ったまま、いろんなことが頭を過ぎっていた。

「物事がこんなにも変化するんだなと思った。もうテニスを止めようと思ったときがあった。今年SNSで公表したが、2019年のオーストラリアン・オープンのとき、メンタルに大きな問題を抱え、自傷行為、自殺願望があった。ウインブルドンの準決勝は誰にとっても特別なことだが、自分にとってはさらに重要なことだ。この数年間、俺がこんなことを成し遂げられるかと聞かれたら、皆ノーと答えたはずだ。メンタル、フィジカルに十分なキャパシティがなく、規律も足りなかった。いろんなことが頭の中で複雑に絡み合い、自分自身を疑い始めていた。だから、座ってあの瞬間を噛み締めていた。感謝したい人間が本当にたくさんいる。それと同時に、ここで立ち止まりたくない」

自身の経験からメンタルヘルスで苦しんでいる人へアドバイスを送った。

「今日、どんなことに対しても人々は自分の気持ちをオープンにすることを恐れているように思う。俺の場合、それがメンタルヘルスだった。何年も前は、今のような気持ちになれるとは思えなかった。考え方が暗く、自傷もあった。もし自分がニック・キリオスでなければ、もっと早く周囲に公表していたと思う。自分がどう思っているのかを伝えれば、その相手はもっと心を開くと思う。自分が誰であろうと、自分自身でいることの重要性を広めるアンバサダーになりたいと思っている。肌の色に関係なく、自分を信じて、もう隠れる必要はないんだ。どんな肌の色だろうが関係ない、自分自身でいればいいんだ」

初めてのグランドスラム準決勝までの道のりを“困難”と表現した。

「今年の初め、ツアーに参戦するかどうかも決めていなかった。何もスケジュールを決めていなかった。まあ、スケジュールは今もしっかり決めていないが。昨年、もうプレーしたいという気持ちが消えかけていた。モティベーションが上がらず、心の中の炎も消えていた。でも、突然何かが人生の中で変わった。何故かわからない。ただ、俺にプレーして欲しいと思う人がたくさんいて、俺も“この人のためにプレーしたい”と思えるような相手がたくさんいる。エネルギーもたくさん残っている。自分の最高のテニスが見せられると思う。メンタルも充実している。本当に長い道のりだった。ここで初めて準々決勝に進出してから、7~8年も間が空いてしまった。凄くエキサイティングな道のりだった」

準決勝ではラファエル・ナダル(スペイン)と対戦する。

「ラファとは凄い戦いを何度もしているから、特別な試合になるだろう。準決勝での対戦成績は1勝1敗だと思う。皆も知っての通り、性格が真逆な2人の人間がぶつかり合う。お互いに、物凄くリスペクトしている。見応えがあり、世界中の人々が待ち焦がれる試合になるだろう。ただ、相手がどうこうより、自分のことに集中したい。今日これから、そして明日もやるべきことがたくさんあるんだ。またセンターコートに立つとき、自分の体に問題がないという確信を持てなきゃいけないんだ」

ステファノス・チチパス(ギリシャ)との試合でメンタルが大いに乱れていたが、ブランドン・ナカシマ(アメリカ)戦とこの日の試合で安定しているように見えた。

「チチパス戦の自分のメンタル状態は素晴らしかったと思う。あの試合で起きていたことすべてを考慮すると、いい状態を維持してよく耐えた。いろんなことで集中を乱される可能性があったから、かなりメンタル面で難しい試合だった。今日、グラスコートでガリンを相手にあそこまで高いレベルの試合は予想していなかった。他のサーフェスでは強いが、まさかグラスコートでここまでやるとはね。彼のフォアハンドのリターンはまるで悪夢だった。立ち上がりに3本のサービスでポイントを取り、自分のサービスが世界最高だと感じていた。でも、直ぐにこの男は強いんだと思い知らされた。彼は本当に素晴らしい選手なので、今日の自分のリターン、自分の戦いぶりをとても誇りに思っている」

試合以外の時間の過ごし方とチームで目標を共有していることが、今大会の成功のカギになっている。

「今は以前より成長したと感じられる。若い頃に3回戦、4回戦や準々決勝までいくと、オンラインで過ごす時間が長かった。夕飯を食べるために出掛けて、ブラブラしたりした。大会に完全には集中できていなかった。今はチームと一緒に家に戻り、リラックスして体のケアをして食事をして、いい休養を取っている。チーム全体で同じ目標を共有できているから、うまくいっているんだ。何のためにここにいるのか、理解できている。俺はこの大会でかなり上までいきたいと思っている。できればトロフィーを掲げたい。その思いを皆に明かしている。家に居て休むことが、キャリアを通しては簡単にできなかったんだ」

ストレート勝ちだったが、気持ちに余裕がなかったという。

「今日、間違いなくプレッシャーを感じた。初めてグランドスラム大会の準決勝に進むという、未知の領域に踏み入れたのだからね。でも、何度グランドスラム大会でこの段階にきても、自分が戦前の予想で優位とは思ったことがない。絶頂期のアンディ・マレー(イギリス)、ミロシュ・ラオニッチ(カナダ)などと対戦したとき、自分が勝者としてコートを去るとは思っていなかった。4回戦のナカシマ戦を観ていた人は、3セットか4セットでそれほど苦労もせずに勝つ姿を期待したかもしれない。でも、実際は5セットのバトルを強いられた。今日の試合もこのところのグラスコートでの成績を見たら、“キリオスが勝つだろう”と多くの人が思ったはず。でも、スコア以上にかなりタフな試合だった。いつでも楽しませるようなショットを打ちたいが、今日はあまりに守勢に立たされ、トリックショットを使う余裕がなかった」

勝利を素直に喜んでいるが、テニスがすべてじゃないと言いきった。

「いい気分だ。でも、俺はこの部屋を出て皆に自分の結果を言いふらすような人間じゃないんだ。プレーして、終わったら家に戻ってリラックスしてゲームをして遊んで楽しみたい。結局はただのテニスの試合で、俺にとってのすべてじゃない。ほかにもやりたいことがたくさんある。友人とバスケットボールをしたいし、皆と出掛けたり夕飯を食べに行ったりしたい。素晴らしいことを達成したとは思う。でも、それが自分にとってはすべてじゃない。ここに座って“この勝利のために人生を懸けてきた”という選手もいるだろう。人それぞれ考え方が違うのだから、それでもいいと思う。自分も当然うれしい。かなりハードワークをしてきたし、ここまで辿り着くのに乗り越えないといけないこともたくさんあった。でも、今日ベッドに入って眠るとき、ただのキリオスでいたい。ただ普通にしていたい」

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写真◎Getty Images

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