「スパゲッティのようだった」アルカラスとの初対面を振り返るコーチのフェレロ [USオープン]
今年最後のグランドスラム大会「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月29日~9月11日/ハードコート)の男子シングルス決勝で第3シードのカルロス・アルカラス(スペイン)が第5シードのキャスパー・ルード(ノルウェー)を6-4 2-6 7-6(1) 6-3で下してグランドスラム初優勝を果たし、試合後にアルカラスのコーチを務めるフアン カルロス・フェレロ(スペイン)が教え子について語った。
「困難だった。決勝は当然勝ちたいと思うから、複雑で難しい。グランドスラム大会の決勝なのだから、誰だって負けなくない。だからこそ重要だったのは、感情や緊張をコントロールすること。他の試合と同じような気持ちでコートに立つことが重要だった。しかし、間違いなく同じような気持ちにはなれなかった。でも、彼は気持ちをうまくコントロールできた。第2セットを落とし、第3セットはかなりタイトなものだった。第3セットを取れたことがこの試合の大きなポイントだった。カルロスは第4セットから疲れが見え始めたからね」
3試合もフルセットを戦ってきたことも考え、試合前にどんな言葉をかけたのか。
「他の試合は過去のこと。当然、ここまで勝ち上がる中で、コートでプレーした時間は決勝に大きな影響を及ぼす。彼が言ったように、決勝では疲れたなどと言っていられない。それについては試合前に少し話した。すべてのプレー、時間に全力を尽くせと言った。気を抜く暇などないんだ。彼は試合中ずっと相手を押し込み続けようとした」
カルロスは天性のアスリートで素晴らしい才能に恵まれているが、それを言葉にするのは難しいという。
「言葉で表すのは難しい。彼はこのような大会、試合を戦うために生まれてきた。彼のプレーを観るようになってから、他の同年代の選手とは違ったものがいくつか見えたんだ。今もそれは見えている。重要なポイントで彼は積極的に取りにいく。これはテニスにおいて非常に難しいことで、初めてのグランドスラム決勝となれば、尚更だ。彼は素晴らしい競技者で、その試合に集中していつもチャレンジしている。マリン・チリッチ(クロアチア)、ヤニク・シナー(イタリア)、フランシス・ティアフォー(アメリカ)との試合でも見られたように、彼は絶対に諦めない。彼はいつでも頑張って粘ることができる」
これほど若くグランドスラムを獲れたことに驚いてはいない。
「驚きではない。彼の実力をよくわかっているからね。一般的に見れば早かったかもしれない。毎日一緒にコートで練習し、彼の可能性をよくわかっている自分以外のすべての人にとっては驚きだったかもしれない。今年優勝できなくて、来年には勝てると思っていた。結局、今年獲れた。とてもうれしいよ。早かったが、これを続けていきたい」
これはアルカラスの時代の序章となるのか。
「わからない。そうなれば最高だ。繰り返すが、彼はこのような大会を戦うために生まれてきた。彼はこの大会でプレーしたいんだ。優勝したいんだ。先日、私はシナーとカルロスが今後10年のテニス界を支配するかもしれないと言った。当然、アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)、ドミニク・ティーム(オーストリア)、キャスパー・ルード(ノルウェー)、ステファノス・チチパス(ギリシャ)にも間違いなくグランドスラム大会で優勝するチャンスがある。彼らのこともリスペクトするが、私の考えは変わらない」
アルカラスが初のツアータイトルを獲ったあとにコロナの影響でツアーが数ヵ月ストップした。それがなければ、もっと早くグランドスラム大会で優勝できたのではないか。
「その可能性はある。あのとき、インディアンウェルズ、マイアミといった大きな大会が目の前にあったのだから。あそこから3ヵ月間中断してチャレンジャー大会から戦わなければならなかった」
アルカラスのスピードは天性のものなのか。
「爆発的だね。しかし、トレーニングは必要だった。彼が私のアカデミーへやってきたとき、スパゲッティのように細かった。トレーニングが必要だった。スイングは速く、足の速いのは一目見てわかったが、背中や脚にまったく筋肉がついてなかった。たくさんのトレーニングが必要だったよ。ただ、特別な才能があるのはあるのはわかった」
若くしてチャンピオンになったが、この成功を続けるために今後どんなことに取り組むのか。
「以前と変わらない。いつも言っているが、彼はまだ60%の力しか発揮していない。多くの面で改善できる。彼自身も理解しているし、今後もやるべきことはたくさんある。一度ナンバーワンになっても何も終わらないし、前に進んでいくしかない。大きな大会で素晴らしいレベルのプレーをして勝ち続けなければならない。彼も私もそれは理解している。彼が忘れないように今後も彼のそばにいるつもりだ」
決勝でアルカラスは積極的にネットに出た。相手のセットポイントではサーブ&ボレーも仕掛けた。ボレーにはどのくらい取り組んできたのか。
「シンシナティ準々決勝敗退のあと、この試合ではなく、数字や他の大会のことを気にして、コート上でプレーする喜びを少し失うかもしれないと彼に言ったんだ。大会前、相手のショットが少しでも浅くなったらネットにいけとアドバイスした。この1週間ずっとその練習をしてきた。浅いショットに対するプレーはかなり心地よくなったんじゃないかな。彼がふたたび楽しんでプレーするのに重要な要素だった」
トップ選手になって皆が対策を練ってくることで難しさを感じないか。
「当然、すべての選手が彼に全力で向かってくるはずだ。今はナンバーワンだ。以前は2位か3位だった。レアル・マドリッド対バルセロナのようなものだ。いいライバル関係がお互いを強くしてくれる。それが今後の彼の試合で起きるだろう。しっかり準備しなければならない」
ラファエル・ナダル(スペイン)、ロジャー・フェデラー(スイス)、ノバク・ジョコビッチがいなくなったあとのテニス界を危惧する声が大きかったが、あまり心配していないという。
「私には彼をトップレベルの選手に育てるという目標がある。この3人が達成したことを繰り返すのは想像を絶するほど大変だ。彼らはグランドスラム大会で22回も優勝している。カルロスはまだ一度だけだ。まだ長い、長い道のりになる。どうだろう? 彼にはベストうちの一人になるだけのテニスとポテンシャルがある。とにかくチャレンジするしかない」
カリスマ性には太鼓判を押した。
「さっきもコートで観たろ? 皆がコートで彼と一緒に楽しんでいた。間違いないよ!」
写真◎Getty Images
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