11人のトッププロに学ぶ「気持ちの切り替え方」
明らかなミスジャッジがあったとき、自分のプレーに苛立ったとき、また試合に負けてしまったとき、気持ちをどのように切り替えるか。11人のトッププロ(菊池玄吾/松井俊英/鈴木貴男/内山靖崇/土居美咲/青山修子/尾﨑里紗/瀬間詠里花/森田あゆみ/岡村恭香/日比野菜緒)に、アドバイスを聞いた。(原文まま、以下同)。【2017年11月号掲載】
写真◎Getty Images、BBM
菊池玄吾
気持ちの切り替え3箇条
1|準備ができていれば、際どい判定も気にならない
試合内容や勝ち方、負け方によって異なりますが、いい試合内容の負けのあとは、次へとすぐに気持ちが向かいます。問題は、内容がよくないとき。例えば、勝てる試合を落としたときなどは、すぐに気持ちが切り替えられません(笑)。
きちんと準備ができた状態で、試合自体もしっかり戦えているときは際どい判定も気になりませんし、次のポイントに切り替えられます。判定がきになるときは、主に自分の調子がよくないときや不安要素がある中での試合です。この場合は、どうしても判定が気になってしまい、試合内容もよくない方向に向かいがちです。
2|異なる状況で不服な判定には「慣れ」も必要
テニスは一年間を通して見ると、よくない状況のほうが多いと思うので、僕はその中でどう戦うかが大事だと思っています。リードした場面、リードを許した場面で不服な判定があるわけで、それはある程度の「慣れ」が必要かもしれません。一番は、どのような状況であっても気にしないよう心がけることです。自分の中で「うまく切り替えができた」と思っていても、それが以降のプレーにうまく出せないと意味がありませんし、時には思いきって何かを変えてみるのもいいかもしれません。
自分のミスが続いたときは、技術的なことなのか、それとも気持ちの面にフォーカスするのかをまず考えます。僕の場合、技術面より動きやタイミングの取り方のズレがミスにつながることが多く、まずは動きを練習で修正します。気持ちの面では大会数が多い競技なので、ネガティブにならないことだけを心がけます。
3|負けを引きずると、試合前から負けている
一番よくないのが、負けたときの気持ちを次に引きずることだと考えています。これだけは間違いなく言えます。引きずった状態は、次の試合が始まる前から負けを確定させるようなものです。前回負けた相手とすぐに当たることもあるので、「前に負けたことは関係なく、新しい試合がまた0-0からスタートする」という気持ちは大切です。どんな相手であろうと、それまでの戦績は意識せず、別の試合と考えてプレーしています。
このように考えるようになってからは、過去に何度も勝った相手に油断することなくプレーできるようになりました。考え方は人それぞれですが、テニスの場合、いかにいつも前向きでいられるかが大事なスポーツだと僕は思います。そのため、「常に前向きに」これだけはいつも意識しています。
松井俊英
判定に不服のときは「我慢」と「もっと我慢」が欠かせない
自分は、気持ちの切り替えは得意なほうだと思います。特に、年齢を重ね、自分の世界観というものを大事にするようになってから、よくなってきました。若い頃は経験も浅く、周りの意見や評判を気にしすぎて「負けたら世界の終わり」くらいひどく落ち込んでいました。でも、今はバランスよく対応できる回数も増えたと思います。
ただ、年に数回は無駄に引きずってしまうことはあります。試合中の明らかなミスジャッジ、相手のラッキーショットにイラつくなら仕方がありませんが、それを少しでも引きずってしまって負けたときは厳しいですね。
判定に不服の場合、試合の状況と関係なく、「我慢」が必要だと思っています。リードしていれば、なるべく流れを変えたくないので我慢できますが、リードされている場面なら「もっと我慢」が理想です。ただ、さきほども言ったように、この状況は本当に厳しく、今でも稀に引きずるケースがあります。あと、試合に入ったときのテンションが低いときも気持ちの切り替えが大切で、このときはあえてオーバーリアクションを取り、不服な判定を着火剤としてテンションを上げることもあります。
負けが込んだときは、やけ酒、やけ食いです(笑)。その後は冷静に自己分析し、目標、目的の再確認をして気持ちを引きずらないようにしています。
鈴木貴男
すべてが思い通りにいかないところもテニスの面白さ
そのときにもよると思いますが、気持ちの切り替えは苦手ではないですね。あまりにも判定ミスが多ければ別ですが、審判も人間なのでミスはします。そのつもりで試合前から準備しておきます。場面によっては、審判と少しやり取りをすることはありますが、そういうこともあるのが試合だと思っています。それが気持ちを切り替えることにもなるし、すべて自分の思い通りにはいかないのが面白いところでもあります。
予想できる範囲内のミスは苛立つことはないです。苛立つというよりも事前の準備で、やれることをやらなかったことは悔やみます。もしミスが連発したら「テクニック的なミスなのか? 判断ミスなのか?」を瞬時に判断することを心がけて、改善できるようにします。
早く切り替えたい場合は、負けた直後に練習するのがベストだと思います。もちろん簡単ではありませんが、次へのステップとしてトレーニングに向かうのもいいし、試合のことは練習やトレーニングをしながらでも反省できるし、変に引きずって何もしないことが一番よくないと思います。
内山靖崇
自分のやりたいことをして、敗戦を忘れる
自分は気持ちの切り替えがあまりうまくないと思います。振り返りすぎて、考えすぎてしまうところがあるんです。審判の判定に関しては、絶対に覆ることはないので、「次、次」と自分に言い聞かせるようにして、とにかく「次」のポイントに対して気持ちを持っていくようにしています。ミスが続くときは「間」が少し早くなっていることが多いので、ラリーを長くしたり、その場で足踏みしたり、タオルを手にする時間を長くとったり、自分なりのリズムをつくろうと思っています。ミスは誰にでもあるので気にしない!
昔は負けたあとに部屋に引きこもったりして、いろいろと考え込んでいましたが、あまり意味がないですね。負けたからといって何かをするのでもなく、いつもと同じ、普通のことをしています。ユーチューブを見たり、自分のやりたいことをして忘れるようにしています。
土居美咲
いいイメージを頭の中で再生する
気持ちの切り替えはあまり得意なほうではないので、意識的に「次、次」と切り替えるように心掛けています。審判の判定については、相手にもあり得ることなので、そこまで気にすることはないです。自分の調子を上げていくには、「次はこうしていこう」という風になるべくいいイメージを頭の中で再生できるようにしています。シングルスで負けたあとにダブルスの試合がある場合は、ダブルスで新たなチャンスがあると捉えます。そして、なるべくダブルスでは楽しくプレーができるように努めます。
青山修子
自分の何が悪いかを分析して、ひとつずつ改善していく
状況によってうまく気持ちを切り替えられるときと、できないときがあります。審判の判定は基本的に覆らないので引きずってもしょうがないので割り切ります。どうしても、不満が残る場合はきちんとそれを伝えた上で、切り替えます。
自分の調子が悪いときは、何が悪いかを分析して、一気にすべて改善しようとするのではなく、ひとつずつ改善していこうとします。違う日の試合であれば、時間があってご飯を食べたり、寝たりして自然と切り替えられます。ただ、同じ日にシングルスで負けたあとにダブルスがあるときは、パートナーと話していっしょにダブルスをプレーする気持ちをつくったり、コーチと悔しいところをもう一回見て、一回後ろ向きな気持ちをストップさせるようにします。
尾﨑里紗
深呼吸や声出しで発散する
試合中に気持ちを切り替えるのは苦手なほうです。ポイント中に切り替えるときは、まず一度後ろを向いて深呼吸してからプレーに入ります。たまに声を出して気持ちを発散することもありますよ。試合に負けるとよくなかったところばかりに頭がいきがちですが、よかった点もちゃんと振り返って切り替えます! シングルスのあとにダブルスも出ることはあまりないですが、「シングルスでよくなかったショットなどをダブルスで練習しよう!」と思ってイメージトレーニングをして臨みます。
瀬間詠里花
切り替えるよりは、1ポイントずつ頑張る
気持ちの切り替えは得意です。終わってしまったことは変えられないので、目の前の一球に集中していこうという感じです。切り替えるというよりは、1ポイントずつ頑張ろうと思っています。もちろん、いいときばかりではないけど、悪いときばかりでもないものです。よくないときは我慢してチャンスが来るまで我慢強くプレーします。
自分のミスが多いときは、最悪負けるにしても、次につながるプレーをしようと心がけます。相手のプレーがいいなら、「自分は悪くないから続けていこう」という気持ちになります。もしそのまま相手がいいプレーを続けて負けたら、その課題は次の試合までにどのように改善できるか考えればいいです。
試合で負けた日は、自分の中で落ち込んでいいと思ってます。ネガティブになって「もうやりたくない!」と思うんですが、朝起きれば「また頑張るしかないか」と思えるタイプなんです。実際、そこまで試合も悪くなかったかなと思えます。1日経つと結構自分の考え方も変わるものです。
「試合は負けたけど今日は寝よう」となって、朝起きると結構ポジティブになって、よかったところもあったし、よくなかったところはノートに書いて再確認します。考えるだけだと、わからなかったり忘れてしまうこともありますよね。
タオルで拭いて切り替える選手もいますが、私はやりません。毎ポイント拭いていると流れが悪くなる気がして、あまり取りに行きたくないんですよ。以前は、自分がポイントを取ったときは同じボールを使い続けてました。でも、いい流れのときに同じボールを返してもらう間に少し時間があって、流れが悪くなってしまうのかなと思って、こだわるのをやめました。
森田あゆみ
毎ポイント冷静で前向きにプレーできるよう切り替える
気持ちの切り替えは、しっかりできるときとできないときがあります。いいときは切り替えられるけど、どこか体に不安があるとき、気になることがあるときは、なかなか常に前向きにいるのが難しいときもあります。
判定が自分に不利だったときは、無理矢理でも気持ちを切り替えて、忘れるようにして、自分のポイントに集中します。調子がいいときはそんなことは気にならないで、次のポイントにも自然に集中できるものです。でも、どうしても勝ちたい試合、負けたくない気持ちが強すぎると、そのポイントに執着してしまうこともあります。それはなるべく忘れて次に切り替えるように意識しています。
自分のミスに苛立つときは、まず冷静になるようにして、ミスの原因を考えて自分で見つけ、なるべく早く修正して、次のポイントのときはミスのことは忘れていいイメージだけを持つようにしています。毎ポイント、毎ポイント、冷静で前向きな気持ちでプレーできるように切り替えています。
試合に負けたあと、自分は割と切り替えは早いほうだと思います。負け方にもよりますが、ベストを尽くした結果なら、すぐに切り替えられます。自分が乱れて負けたり、相手にやられる前に自分で自滅したり、何かを変えなければいけないときは、すぐに切り替えるのではなく、まず考えて、次にどうしようか答えを出してから切り替えます。
岡村恭香
納得できるまで自問自答して負けた悔しさを持ち越さない
試合中の切り替えは割と得意なほうですが、稀に、どうにもこうにも切り替えが上手くいかないときがあります。審判の判定は覆るものではないので、確認はしますが、質問をし終えたらその結果で納得し、次のポイントの戦い方を考えるように思考を移します。
私はミスの原因を深く追求しすぎる傾向にあるので、それがよい方向に働くときと悪いときがあります。そのため、最近は積極的に以降のポイントで同じミスをしないこと、次のポイントでどのように挽回するかを考えるようにしています。敗戦後はまず自分で反省し、コーチと話し合い、それを忘れないためにノートに書き、必要に応じて練習をし、負けた悔しさを翌日に持ち越さないように納得できるまで自問自答を行い、気持ちを次に向けます。
日比野菜緒
怒りをボールにぶつけ考えるよりも足を動かす
試合中の気持ちの切り替えは得意じゃないです。ミスジャッジは、あまり大事なポイントでなければ、すぐに切り替えられますが、大事なポイントは結構引きずります。「あーーーーっ!」て怒りをボールにぶつけて力に変え「なにくそ!」と思ってポイントに入ることのほうが多いです。
自分の調子が悪いと思ったら、今までは「なんで、なんで?」と考え過ぎて足が動かなくなっていたので、足を動かすように意識すると徐々によくなってきます。メンタルはあまり意識せず、動きから自分のテンションを上げていきます。実は昨日試合に負けて、朝まで引きずって笑えないくらい落ち込んでいたんですけど、今朝練習したらスッキリしました! 負けたあとは体を動かして切り替えるのが一番です。
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