イワン・レンドル「妥協なき王者」
レンドルには「メンタルが弱い」という評価もつきまとっている。それはグランドスラムの決勝で8勝11敗と負け越している戦績が理由としてよく挙げられるが、彼がグランドスラムで初優勝した1984年のフレンチ・オープンが、今も語りぐさになるほどの大逆転劇だったことは、強調するに足る出来事だろう。
決勝の相手はフレンチ・オープンの初優勝を目指して闘志満々だったマッケンロー。&年のマッケンローはまさに全盛期で、シーズン通算で13タイトル、試合成績は82勝3敗。勝率にして96.5%というフェデラーですら抜けなかったオープン化以降のシーズン最高勝率記録を樹立したシーズンだった。
しかし、レンドルは2セットダウンからの奇跡的な逆転劇でグランドスラムの初優勝を果たした。スコアは3-6、2-6、6-4、7-5、7-5。4時間8分の激闘は、彼を常に見下していたマッケンローから挙げた勝利だった。
結局、マッケンローの全盛期はこの年で終わり、フレンチ・オーブンでは優勝できないままで現役を終えることになるのだが、レンドルが報いた一矢は、マッケンローのキャリアにとっては非常に大きな瑕疵となり、同時にこの年以降のテニス界は「レンドルの時代」に変わっていった。
宿敵マッケンロー(右)との対戦は21勝15敗で勝ち越し
レンドルは92年にアメリカの市民権を獲得。腰の持病が悪化した94年のシーズンを最後に引退した。彼が全盛期だった80年代後半は、ロッカールームでも孤高の存在だったという証言が多いのだが、晩年にかけてはまったく違った逸話が残っている。
アンドレ・アガシはレンドルほどロッカールームで愉快だった人物はいなかったと言い、「靴下だけを身につけた格好で、ずっと冗談ばかり言っていた」と話し、また、ピート・サンプラスはキャリアの初期にレンドルにヒッティングパートナーとして自宅に招かれ、様々なアドバイスを受けたのが、その後の自分にとって大きな財産になったと語っている。
サンプラスが得意としたフォアハンドのランニングショットは、レンドルゆずりの必殺技だ。後にアンディ・マレーとのコンビで成功を収める伏線は、彼の現役時代の末期にはすでに芽吹いていたと言っていいだろう。
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