世代交代に立ちはだかったシャラポワの執念_2014年フレンチ・オープン女子シングルス決勝

2004年フレンチ・オープン……女子は上位シードが次々と敗れていく波乱の展開。第7シードのシャラポワもまた苦戦の連続だったが、誰よりも強く、激しく、勝利への執念を全身にみなぎらせ、ロラン・ギャロスでは2年ぶり2度目の優勝を成し遂げた。……2020年2月26日、マリア・シャラポワが引退を表明。彼女の最後のグランドスラム優勝レポート。【2014年8月号掲載】

2014年フレンチ・オープン|女子シングルス決勝

マリアシャラポワ(ロシア)[7] 6-4 6-7(5) 6-4 シモナ・ハレプ(ルーマニア)[4]

※[ ] 数字はシード順位

取材・文◎武田 薫 写真◎毛受亮介

優勝を決め、ハレプと握手を交わしたあと、喜びを爆発させるシャラポワ

度目であろうと優勝は新たな感動に包まれる。マリア・シャラポワが優勝を決めた瞬間――正確には、シモナ・ハレプの打球がライン外に着地する前に、肉体はあふれそうだった感情に耐えられずコートに崩れた。初体験のような振る舞いは、それが初体験だったことを物語り、そこに時間の重さが刻まれた。

「年齢を経るごとに、優勝の重みが深まっていくように感じる。よく乗り切ったと思う」

 サマンサ・ストーサーと戦った4回戦から3試合連続、第1セットを落としての逆転勝ち。計10時間を費やしてたどり着いた決勝も、第1セットを奪いながら第2セットをタイブレークで落としたフルセット、3時間を超える激しい戦いだった。

 家族席には3人のコーチとトレーナーしかいない。「ファミリー」の不在は、試合に集中するシャラポワの姿勢であり、このチームが一丸となって長く複雑なトンネルを潜り抜けたのだ。

「去年のオフ、私は肩を治すためにヨーロッパ中を回った。コーチもいなかった。それから、みんながパズルを組み合わせるように力を合わせてくれた」

 昨シーズン、全仏オープン後に腰を痛め、故障は鎖骨から肩へ回ってウインブルドン後は1大会しか出場していない。ジミー・コナーズとの短い関係の後に、スベン・グロエネフェルトとコーチ契約したのが11月末。ウインブルドン優勝から10年を経て、テニスへの変わらない強い気持ちがふたたび実を結んだ。

 シュツットガルト、マドリッドで連続優勝して臨んだ大会だった。決勝までクレーコートの通算成績は131勝24敗(勝率85%)、クレーの3セットマッチは27戦26勝、19連勝という記録をまたひとつ伸ばしたことになる。

「生まれながらのクレーコートプレーヤーはいない。少なくとも私はその環境で育ったわけではなく、自分に合ったサーフェスと感じたことは一度もない。練習して、考え方を変えて、ここまで来ることができた」

 ウインブルドンに優勝した翌05年に来日したスベトラーナ・クズネツォワが、「マリアのメンタリティーは他のロシア選手にはない」と話していたことを、今さらのように思い出す。

烈なファイナルだった。22歳の小柄なハレプが、シャラポワの強烈なショットを左右に振ってチャンスをつくる。シャラポワは計20本のブレークポイントを握ってブレークは9ゲーム。ハレプは13本で7ゲーム。激しい攻防が続いた第2セット、4-4で迎えた第9ゲームから4ゲーム連続のブレーク合戦で入ったタイブレークは、シャラポワが5-3からセットを落としている。攻防はファイナルセットも続き、第4ゲーム、4-2とリードしながら第8ゲームにスコアを戻され――。

 恐れを知らない挑戦者、ハレプはちょうど一年前に頭角を現し、半年でセレナ・ウイリアムズに次ぐ年間6勝をマークした。全豪オープンのベスト8に続く、全仏オープンでの活躍で評価は固まった。ハレプの躍進が、今大会の流れを変えた若手のけん引力になった。

ミスの少ない安定感あふれるプレーでグランドスラム初の決勝進出を果たしたハレプ。大会後の世界ランクで自己最高の3位に浮上

「終わってから少しは泣いたけれど、でも初めての舞台で自分の力を精一杯出せたと思う。だから、すぐに笑顔になれた」

 フレンチ・オープンのジュニアで優勝し翌年に、バストを小さくする手術を受けたことが話題になった。それほどまでテニスに賭けた情熱は、この日の最後の2ゲームをラブゲームで突き破ったシャラポワに通じる。

「このトロフィーが欲しかったから、ショッピングもしなかったし、好きなマカロンも控えたのよ」

 狙った獲物への執念。女子テニスの端境期を燃やす役者が揃ったと言えるようだ。

接戦での強さは折り紙つき。衝撃のウインブルドン初優勝から10年、シャラポワには経験があり、大舞台での強さがある

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