ステファン・エドバーグ「北欧の貴公子」
その流れるようなサーブ&ボレーは芸術だった。片手打ちのバックハンドもしなやかで美しく、その甘いルックスもあって日本で抜群の人気を誇った。フレンチ・オープンを除くグランドスラム3大会にV。ダブルスも上手く、単複で世界ランク1位に輝いた。現在はロジャー・フェデラーの専属コーチを務めている(※当時)。【2015年9月号掲載】
レジェンドストーリー〜伝説の瞬間〜
Stefan Edberg|PROFILE
ステファン・エドバーグ◎1966年1月19日生まれ。スウェーデン・ベステルビーク出身。自己最高ランキング1位(1990年8月13日)、ツアー優勝単41勝、準優勝36回。1996年引退
写真◎Getty Images
弓なりにしならせた身体から放たれるキックサービスが相手のバックハンドを襲う。高めの軌道を描きながら鋭く変化し、バウンド後は強烈に跳ね上がるサービスを抑え切れずに相手のリターンが乱れると、彼はすでにネットで待ち構えていて、華麗なボレーでポイントの流れを掌握した。
1980年代中盤から90年代初頭にかけて繰り広げられた「最後のサーブ&ボレーヤー」の時代の中心にいたのがステファン・エドバーグだった。細身だがバネの塊のようなフィジカルはコート上を滑るように動き、金髪をなびかせてネットで勝負を仕掛けていくその姿は「貴公子」と呼ばれた。
1980年代初頭の世界的なテニスブームの余熱がまだ続いていた時代に、タフなストローカーの故郷だと思われていたスウェーデンが生んだのが、稀代のサーブ&ボレーヤーの彼だった。その活躍はジュニア時代から話題となっていて、83年にはジュニアの年間グランドスラムを達成。翌84年のロサンゼルス五輪では公開競技としてオリンピックに復帰したテニス競技(21歳以下で戦われた)で金メダルを獲得するデビューだった。
彼が活躍を始めた当時はオーストラリアン・オープンもまだ芝の時代だった(87年まで)。炭素繊維のスポーツ用品への普及が進んだのもこの時期だったこともあり、ラケットの進化は急劇で、今日に続くフィジカルのパワーを生かしたイワン・レンドルのようなストローカーたちにも台頭の兆しがあったが、彼らが用具の進化に合った技術や戦術を生み出すには、まだもう少し時間を必要とした。
クレーコート以外のサーフェスは今よりずっと速かったこともあり、進化したラケットの恩恵を最初に自分たちのものにしたのは、それまでのテニスの伝統的なスタイルだったサーブ&ボレーヤーのほうが先だったという見方があってもいいのかもしれない。このエドバーグと、彼のライバルだったボリス・ベッカーは、まさにその最後を彩った「レジェンド」だ。
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