世界が認めるベストサーバー ロジャー・フェデラー

もっともいいサーバーは? と聞かれたら、迷わず「フェデラー」と答えます。その理由はじっくり写真とともに述べることにして……今は昔と違い、世界最高峰のプレーを日々動画を通じてライブで、リピートで見られる時代。フェデラーが現役を続ける今のうちに彼のサービスを盗めるだけ盗みましょう。男女、年齢、レベルを問わず、積極的にお手本にすべきプレーヤーです。ここでは注目してほしい大事なポイントを紹介します。解説◎堀内昌一【2019年5月号掲載記事】

解説◎堀内昌一(亜細亜大学教授/テニス部監督) 写真◎小山真司、毛受亮介 構成◎編集部

3つのサービス打法がひとつの打法に ──

フェデラーがサービス指導の根本を変えてくれた

悩み多きサービスの原因は指導の誤りにあった

 テニスのインパクトは1000分の数秒と言われ、そのときプレーヤーができることはほとんどありません。ところが、ボールを入れたい、変化させたい、あそこに打ちたいと、あれこれインパクトに手を加えようとし、打法をいじってしまうプレーヤーがいます。その多くは手首調子のサービス(手先をあれこれ動かすサービス)となって、行く末は、悩み多きサービス、で間違いありません。動作の再現性が低くなり、インパクトが安定せず、目標を狙うことができない、大きなエネルギーを出すこともできないサービスになってしまいます。

 こういうサービスで悩むプレーヤーを多く見てきて、私はサービス指導法を深く考えるようになりました。何か間違って教えているのではないかーー今から15年ほど前のことです。

 もっと日本のサービスをよくしたい、そうしたら日本のテニスはもっと強くなると信じて、どこを見渡してもみんながいいサービスを打っている日本にしたいと思いました。

 そして、指導方法を変えて、新しいアプローチを始めました。年齢、性別、レベルを問わず、「もっといいサービスは必ず打てる!」と声掛けし、「今のサービスを根本から変えよう!」と、今あるサービスを少し良くするくらいでなく、最初から始める(正しいサービス動作の習得から始める)サービス指導を始めました。そのときから、お手本にしてほしいプレーヤーとして紹介しているのがロジャー・フェデラーです。今も変わらずフェデラーは教科書です。

“フェデラー・サーブ”を真似れば進化し続けられる

 世界中のテニスプレーヤーの憧れの存在、フェデラーは今、37歳です。ウインブルドンでグランドスラム初優勝を飾ったのが2003年、21歳のときで、あれから16年が経ちました。その間、今に至るまであらゆる面で進化を続けており、いまなおグランドスラムで優勝争いをしています。

 今回、フェデラーのサービスを昔に遡って見ましたが、今と比べて動作に変わりはありませんでした。最初から正しい動作を身につけており、あとはフィジカルを強くしていくだけ、経験を積んでいくだけ、の状態なのです。最初から正しい動作を身につけることがいかに大切かがわかります。

 “フェデラー・サーブ”は、打法はひとつです。打法はひとつですが、身体の傾きをごくわずかに変えることで、ボールに対するラケット面の当て方を変えて、(回転、回転量、速度、高さ、角度を変えて、様々に組み合わせて)種類を作ります。そしてその確率を高めることに力を注ぎます。打法を変えることはしません。

 このサービスは、年齢を重ねて、経験を積めば積むほど、どこでどんなチョイスをすればいいかが的確となり、精度が上がってバージョンアップし続けることができるサービスです。また、年齢を重ねて、どこかが衰えていったとしても、ほかに補うものを見つけられるサービスでもあります。こうして考えると、いかに最初から正しいサービス動作を身につけることが大切かがわかります。

この年「12」のタイトルを獲得した(年間獲得数ではキャリア最多)

最初が肝心なのだ! いいサービスを本気で考えよう

 かつて日本の(世界も)サービス指導は、こんなふうでした。

・ファーストサービスは速さで勝負、セカンドサービスは回転をかけて確実に入れる。

・球種はフラットが基本で、スライス、スピンと3つあり、3つの打法を覚える。

 私は、フェデラーの登場とほぼ時を同じくして、その指導法を変えました。サービスの目的は、レシーバーのレシーブ力を下げて、サービスキープすること。そのために必要なサービスは、再現性の高い身体動作=打法はひとつ(スピン系)で、これを徹底的に磨きます。その動作を応用して、身体の傾きをごくわずかに変えることで、レシーバーにわからないように、ボールに対するラケット面の当て方を変えて球種を作る、という指導です。

 最初が肝心なのだと思います。みんないいサーバーになりたいと思っています。そこで、いいサーバーとはどういうサーバーか考えてみましょう。ビッグサーバーを思い浮かべる人はどれくらいいるでしょうか。私はビッグサーバーより、すぐにフェデラーを思い浮かべました。速い、強いサービスを打つ人はたくさんいますが、サービスゲームで負けない人はフェデラーだと思うのです。

 いいサービスとはどういうサービスでしょうか。速いサービス、強いサービスですか? そのサービスをレシーバーがうまく返しても、いいサービスですか? 遅いサービスでも、よく弾み、レシーバーがフレームショットをしたら、どうですか? いいサービスではありませんか?
私は“フェデラー・サーブ”がサービスの基本だと思います。

この写真は、同ポイントのセカンドサービスの上にファーストサービスを重ねたもの。打法は変えず、身体の傾きをごくわずかに変えていることがわかる。この写真の元の連続写真の前後から球種を推測すると、右がファーストサービスで、速めのフラット系をセンターへ打ってフォールト、左がセカンドサービスで、ややスピン系をレシーバーのバック側ボディへ打っている

Federer’s SERVE|CHECK(1)動作の再現性が非常に高い

 フェデラーのサービスは、基本的にセカンドサービスだと私は考えていて、編集部にお願いして、セカンドサービスの写真の上に、ファーストサービスの写真を重ねてもらいました(右写真)。ぴったりと重なりました。ものすごい再現性です。それとともに、セカンドサービスをファーストサービスから使っているという言い方もできると思います。

Federer’s SERVE|CHECK(2)セカンドサービスのポイント獲得率は世界2位。1位はナダル

 ATPツアーが発表しているスタッツの中に、セカンドサービスのポイント獲得率があります。2018年度の1位はラファエル・ナダルで59・6%、2位がフェデラーで58・6%でした(ちなみにジョコビッチは5位で56・6%)。グランドスラムで優勝する選手たちが、セカンドサービスポイント獲得率ランキングのトップにいます。それはサービスが速い、強いからではなく、サービス総合力が高いからサービスキープ率が高い、つまり試合に勝てるということです。

Federer’s SERVE|CHECK(3)ひとつの打法で同じ場所に違うサービスが打てる

 フェデラーのセカンドサービスは、打法が変わらない(身体の傾きもほとんど変えない)ため、レシーバーはコースがわかりづらく、たとえ左右どちらかがわかったとしても、そこにさまざまな違うサービスを打ってくるので、本当に読めません。ファーストサービスを弱くしてセカンドサービスを打つ、などと根本的に考え方が違います。この“フェデラー・サーブ”を追い求めたのがジュスティーヌ・エナンであり、シモナ・ハレプで、女子の歴代1位選手たちです。男女に関係なく、“フェデラー・サーブ”を追求したら、間違いなくレベルアップすると思います。

同じ場所に同じサービスを打つのではなく、球種や速度、高さ、角度などの組み合わせを様々に変えたサービスを打っていくフェデラー

Federer’s SERVE|CHECK(4)基本的に深い

 フェデラーのサービスは基本的に非常に深いです。サービスは深さがとても重要で、なぜならサービスボックスはそもそもコートの浅い場所にあり、そこに浅く入れたら、レシーバーのチャンスボールとなってまうからです。深く打つことが前提で、それによってレシーバーをベースラインにとどめることができます。深さのコントロールは、ターゲットに対する再現性の高い動作がベースとなり、回転量やボール軌道(高さ)で調整します。動作をそのつど変えていたら、距離の調整は非常にむずかしいです。

Federer’s SERVE|CHECK(5)構えに力みがまったくない自然体

 サービスを打ち始める前、多くの選手は力まないようにと、足を動かしたり、深呼吸したり、地面にボールをつくなどします。そしてラケットとボールを合わせて一瞬静止して構え、サービス動作を始めます。フェデラーも何回か地面にボールをついたあとに構えてサービス動作を始めますが、そこに力みがまったく見られません。おそらく誰よりも構えが自然体です。これが再現性の高い、一連の動作を始める重要なきっかけになっています。

多くのプレーヤーは手首の使いすぎに気づいていない。だからあえて「使うな」と言う

 サービスの動作中は手首を使いません。なぜここまで強く言うかというと、使いすぎているプレーヤーが多いからです。手首は誰もが器用に使えるだけに厄介です。使うと速度が出ますし、厚いグリップにして手首を調整すれば、方向性も定まります。うまく打てている気がするのですが、それは一時的であり、再現性が低く、方向付けもむずかしく、回転も最良のものとなりません。

手首は運動連鎖の最後に、一番いいエネルギーをボールに伝えるという仕事があります。しかし、運動の早い段階でほかに仕事をしてしまうと、エネルギーが伝わる順番が崩れて、一番いいエネルギーを作ってボールに伝えるということができなくなるのです。最後の最後に一番いいエネルギーをボールに伝えるためには、先端部分は最初に使ってはいけないのです。

Federer’s SERVE|CHECK(6)手首は使わない初めから終わりまで「くの字」

“フェデラー・サーブ”は特にこのチェックポイントが重要です。コンチネンタルグリップで握ってできる手首の「くの字」に注目しましょう。この形は動作の初めから終わりまでほとんど変わることはありません。ところが、サービスを苦手としているプレーヤーやグリップの厚いプレーヤーは、動作の早い段階から手首を曲げたり、不必要に使う傾向があり、それが続く一連の動作の邪魔をすることになります。

Federer’s SERVE|CHECK(7)インパクトもフォロースルーも「くの字」

 手首の「くの字」を目で追いかけてみましょう。体幹の回転運動は続いて、腰、肩、肘、腕、手首と回転が続いて、身体の先端部分に向かってエネルギーを大きくしていきます。運動連鎖の最終局面で、腕が回る途中でインパクト(「くの字」)を迎え、その後も腕は回り続けて、手首も回っていきます。それでも最後まで「くの字」は変わりません。これは自然な動作の結果です。

運動連鎖の最終局面で、腕が回って、手首も回る(返る)。一連の動作を通して見ての通り、手首は勝手に動くものであり、そのことをフェデラーのサービスは証明してくれている

Federer’s SERVE|CHECK(8)インパクトを一番大事にしている

 フェデラーのサービスの成功のカギを握っているのが、インパクトという気がします。フェデラーのインパクトに対する集中力は非常に高く、顔がまったく動きません。斜め上を向いてインパクトを見続け、打球後もしばらくはそのままで、あとで前(正面)を向きます。
 この連続写真は、動作を右斜め上方向に行い、一方でボールは左方向(正面)に飛んでいることにお気づきですか? 

 サービスがよくないプレーヤーは、インパクトから顔をそらしたり、早く前(打球方向/正面)を向きます。そうすると再現性が低く、方向付けもむずかしく、回転も最良となりません。

 サービスは動作方向と打球方向(ネット方向)が違い、斜め上方向(テニスコートにある照明方向)に動作する途中でラケット面がボールに対して斜めに当たって、ボールに斜め回転がかかり、放物線を描いて飛んでいくのです。そのとき空中で動くボールを正確にとらえるためには、顔は動かさず、動作の再現性を高めます。フェデラーは、ものすごく精密な動作を追求した結果、そうなったのだと思います。

テークバックでラケットは背中に担がない。顔の前
テークバックのあとフォワードスイングへ切り返しで、手首の位置は変えずに、左手を引いて右手を引き上げる

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