ジョン・マッケンロー「天才という名の悪童」
誰にも真似できない独特のサーブ&ボレー、そして柔らかいタッチでネットを支配した。ボルグ、レンドルらと名勝負を繰り広げる一方、主審に詰め寄って暴言を吐く姿もお馴染みだった。天才的なテクニックで世界中のテニスファンを魅了。こんな選手はこれから先、もう二度と現れないだろう。【2015年10月号掲載】
PROFILE
ジョン・マッケンロー◎1959年2月16日生まれ。ドイツ・ヴィースバーデン出身。自己最高ランキング1位(1980年3月3日)、ツアー通算単77勝、準優勝31回。1992年引退
伝説のタイブレーク18‐16
1970~80年代初頭に全世界で巻き起こったテニスブーム。その中心であり、原動力のひとりだったのは紛れもなくジョン・マッケンローだった。そのハイライトは何と言ってもビヨン・ボルグとの死闘。中でも80年と81年のウインブルドンは、大会史上だけでなく、テニス史上に残る名勝負だ。
80年の決勝は、ボルグが1-6 7-5 6-3 6-7(16) 8-6で勝利して5連覇を達成。だが、翌81年はマッケンローが4-6 7-6(1) 7-6(4) 6-4で勝ってボルグの6連覇を阻止し、ウインブルドンでの初優勝を果たした。中でも80年決勝の第4セットは、テニス界の「伝説」と言われるセットで、マッケンローが2本のマッチポイントを凌いでタイブレークに持ち込み、タイブレークでもさらに5本のマッチポイントを凌ぎ、お互いに一歩も譲らぬ激闘の末、マッケンローが取り返すというスリリングな展開だった。日本では途中まで録画で中継されていたが、途中で急遽生中継に切り替えられるという異例の措置が取られている。
記憶にもまだ新しい08年のラファエル・ナダル対ロジャー・フェデラーの4時間48分の決勝が戦われるまでは、「ウインブルドンの伝説の決勝」と言えば、この試合のことだけを指したと言っても言い過ぎではない。マッケンローが、その人気と名声を不動のものにしたのも、言わばウインブルドンの象徴とも言えるボルグとの2年連続での名勝負があったからこそだろう。
極端なクローズドスタンスからのスライスサービスや、ラケットと顔が大きく離れ、ボールからまるでわざと目を離して打つようなボレーなど、テニスの基本と呼ばれるものからは逸脱した、独特のフォームから繰り出されるサーブ&ボレーばかりが強調して語られがちなマッケンローだが、実はライジングによるストロークの先駆者のひとりであることも忘れられるべきではない。
ボルグやイワン・レンドルと言った強力なストローカーたちが打つ、トップスピンで跳ね上がるボールに対し、デビュー当初は不利を強いられたマッケンローが編み出したのが、当時は「ハーフボレーで打つような」と言われたライジングによるフラットのフォアハンドだった。
「ボールに触りさえすれば、コートのどこにでもコントロールできる」と言われた独特の天才的なタッチの感覚を生かして、ベースライン付近に高くポジショニングしたマッケンローはボールがバウンドしている途中で叩いて、相手が構える前に展開するテニスに磨きをかけた。ボールスピードが速く、タイミングが早い分だけそのままウィナーになることもあったし、また、相手に十分な時間と体勢を与えない分だけ返球が甘くなるところを狙いすまして、ネットでトドメを刺していく場面も多かった。
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