2017年、プロ転向から15年目のシーズンを迎えた。若い頃は自分のテニスのことだけを考え、世界ランクを上げることに躍起になっていたが、今は違う。年齢を重ね、経験を積み、家族を持ったことで、物事をいろいろな視点から見られるようになった。闘志も体力も衰えてはいない。向上心もある。自分らしくコツコツと――添田豪の逆襲が始まる。文◎牧野 正【2017年8月号掲載記事】

文◎牧野 正 写真◎小山真司、BBM

理想と現実と

 聞きたいことがあると添田豪の車の助手席に座ったのは、もう9年前のことになる。当時の添田は23歳。プロ6年目に入り、目標でもあるトップ100が目前に迫っていた。ちょうど、こんな5月の時期だった。フレンチ・オープンの予選に出場できる世界ランクを持ちながら、スキップして帰国。ナショナルトレーニングセンターで汗を流した帰り道。

 フレンチ・オープンに出なかった理由、意図を聞きたかった。「どうしてフレンチに出なかったの?」という言葉に多少の棘があったことは否めない。ハンドルを握りながら、添田が口を開いた。
「言いたいことは、わかります」

 予選とはいえ、世界最高峰のグランドスラム大会。そこに挑戦できる権利があるのに回避した。もったいない。挑戦してほしかった。得意ではないクレーで勝算は低かったかもしれない。だが、そこで活躍するために日々練習し、戦い続けているのではないのか。

「どうしてもトップ100に入りたいんです。今とてもいい感じで来ているので、このチャンスを逃したくないというか。そっちの気持ちのほうが強くて…出ませんでした」

 迷いのない答え。その口調からは自分の決断に対する責任とトップ100への想いがひしひしと伝わってきた。添田がトップ100を初めて切ることになるのは、それから3年後のことだった。

続きを読むには、部員登録が必要です。

部員登録(無料/メール登録)すると、部員限定記事が無制限でお読みいただけます。

いますぐ登録

Pick up

Ranking of articles