蝶間林利男_「シニアプレーヤーのカラダとこころの強化を考える」
三、動体視力のトレーニング
テニスはゴルフと違って素早く動くボールに対応するスポーツですので、テニスに特徴的な体力とともに予測能力、さらに目の働きが重要です。相手のショットの素早い読みと、それを適切な打点で打つためにはダイナミックな視力「動体視力」の善し悪しがポイントになります。
動くバスや電車の中から外の看板や駅名を読むなどは、あの野球選手が行っていたトレーニングとして有名です。また、ボールが止まって見える!と言ったのは、プロ野球の川上哲治さんです。
スマートフォンやパソコン、テレビを長時間見ないようにすることも目の過重な負担を減らし、疲労を防ぐので、長時間画面を見るようなこれらには気をつけたいものです。どうしてもしなければならないときでも、30分に1回ぐらいは休憩をとり、目を休ませましょう。
四、こころのトレーニング
テニスは性格がよく出るスポーツと言われています。勝負事ですから当然ですね。本当に強くなるには〈負けず嫌い〉でなければならないと思います。伊達公子さんもそうでしたが、克己心の強さ、苦しいときにもあきらめないで勝利を目指すこころの強さが求められます。一流のスポーツマンは皆そうです。
このようなこころの強さをメンタルタフネス(精神的な強さ、ストレス耐性)といいますが、これは持って生まれたものではなく、後天的に作られるものと私は思っています。そういう環境と躾、指導の中で本人が感じ、自己改造していくことによって習得されていきます。幼少時期から「面倒なこと、つらいこと」をやり遂げながら身につけていくものだと思います。
脳科学者の茂木健一郎さんも、小さい頃に面倒なことを解決していく能力の開発が、その子の脳を大きく開花させる原動力になると言っています。
つまり、一朝一夕ではできない、我慢と集中、達成感と、自己肯定感を学びながら獲得していく資質であると思います。環境と指導者、本人の意思がそろって初めてできることです。
教育現場で「褒める」ことの重要性が言われますが、褒めることによってその子の内面に自己肯定感が生まれ、自信がつくようになります。自信過剰は困りますが、この自信が新たなチャレンジ精神と好奇心・行動力を生み、成功体験を生み出すことになるのでしょう。
シニアになると人が褒めてくれることは滅多にないので『自分で自分を褒めてあげる』『時々自分にご褒美を』などをして、自己肯定感とやる気を生み出し、さらなる強いメンタル・こころを形成していきましょう!
たゆまない努力とチャンスをものにする勇気と決断、こころのゆとりも必要です。他人は変えられませんが、自分は変えられるーーいつまでも自己変革、上書きを続けていきたいものです。これが若さなのかもしれませんね。
指導◎蝶間林利男
ちょうまばやし・としお◎1947年8月18日生まれ。横浜国立大学名誉教授。医学博士。全日本ローンコート選手権複準優勝、元デビスカップ日本代表チームトレーナー。現在もプレーを楽しみ、大会にも積極的に参戦する一方、小学校でのテニス普及や指導者養成にも力を注ぐ。主な著書は『テニスの科学』(光文社)、『発達心理学序説』(八千代出版)、『僕がテニスで学んだこと』(実務教育出版)、『科学の目で見たテニスレッスン』(ベースボール・マガジン社)などがある
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