広瀬一郎_書籍『スポーツマンシップを考える』_連載第14回_第3章スポーツマンシップを語る(2) 川淵三郎「スポーツマンシップとGood Loser」

Good Loserこそが素晴らしい勝者になれる

川淵 だから、そのときに自然に教わった人生の哲学として理解したんでしょうね。Good Loserという言葉をクラマーが使ったかどうか明確には覚えてないけれど、勝ったときに相手の立場を思えて初めてGood Loserになる。「本当によくがんばったね、いい試合だったね」と言ってもらえるようなことをきちんとできた選手のところにしか、そういう人は来ないわけでしょう。Good Loserであるからこそいい友達が、本当の友達ができるわけです。

 そういう意味で、負けても勝っても相手を尊敬し、よく戦ったと胸を張れる人、勝ったときにGood Loserに対する思いやりを持てる人が、真のGood Losderになれると思う。だから、Good Loserになれる人は、本当に素晴らしい勝者にもなれるんだ。驕りがなく、いつも相手の立場を思いやれる。

フェアプレーを教えないとGood Loserも生まれない

川淵 フェアプレーの話がそれと並行してある。昔あるテレビ番組で、イングランドのサッカー少年に「フェアプレーって何ですか」って聞いていた。その子が「ルールを守ること。相手を尊敬すること。絶対に仕返しをしないこと」と答えたから、びっくりしましたよ。日本では子供はおろか、大人だってこんなに立派なこと言えないでしょう。

広瀬 議論にすらなってないですものね。

川淵 (イングランドでは)それをちゃんと子供たちに教えているんだよ。スポーツというものに対する姿勢から人生哲学まで、そういったものを小さいときから体に染みつくまで教えている指導者がいることが素晴らしい。もっとも自らを振り返ってみれば、僕らが指導者のときにはそんなことは言えなかったなぁ。現在の日本の指導者でも、フェアプレーについてきちんと教えられない人が多い。だからGood Loserが生まれにくいんです。

 Good Loserということに関して、日頃から一番苦々しく思っていることがある。たとえば天皇杯やカップ戦の決勝のあとの表彰式で、負けたチームの選手にもメダルをかけたり、準優勝の賞状を渡すのだけど、そのときの選手の態度が本当に嫌なんだよ。何でこんな態度をとるんだろうって思う。目をそむけて握手をしたり、来たくもないのに来てるんだという態度を見せる選手がいまだに多い。
逆に「いい敗者」だなという人も中にはいる。ヴェルデイの全盛期、カズや柱谷選手、北沢選手なんかは、負けても堂々としていてGood Loserだった。

 仮に小さいときから、相手に敬意を払い、仕返しをしない、ルールもきちっと守るという精神を理解していたら、気持ちよく誇らしげにGood Loserの姿勢でもって表彰を受けられるわけです。負けたときに出る態度は、そのときだけのものじゃない。やはり、日頃スポーツで得てきたものがそこに反映される。負けたけれど、本当にこのチームはGood Loserだな、というときは表彰式にいてもすごくうれしい。そんなことは、5回に1回あればいいほうだけどね。それが日本の現状なんだね。

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