広瀬一郎_書籍『スポーツマンシップを考える』_連載第14回_第3章スポーツマンシップを語る(2) 川淵三郎「スポーツマンシップとGood Loser」

すぐに変えられることから変えていこう

川淵 しかし、今すぐに変えられることもあります。それは審判にしょっちゅう文句を言ったり、フリーキックのボールを正規のポジションじゃなくて勝手に変えたり、手を引っ張って止めたり、足を引っ掛けて止めたり、それらをやめること。日本の守備の技術が低いのは、数字でも証明された。決勝リーグに進んだ中で日本が一番ファウルの数が多かったんだから。それはちゃんとした技術で相手を止められなかった証明に他ならないんです。

 すぐにひっくり返って「痛い痛い」なんていうのをお客さんは見にきたんじゃない。選手は皆、自分の報酬をお客さんからもらっているという原点を思い出さなきゃいけない。お客さんがいっばい入るからスポンサーも広告を出すんだし、放映権料も上がり、グッズも売れる。だから、お客さんがスタジアムにまた来ようと思わないかぎり、選手の報酬なんか上がらないんです。

 それをもっと認識しなさいと言ったときに、「何言っているんだ川淵さん、それぐらいわかってる」って言ってくれれば僕も幸せなんだけどねえ(笑)。

 ワールドカップが終わって、今までのファンも刺激を受けて、どんなサッカーをしてくれるのかなって見に来てくれる。ましてや、初めて来たファンが「なんだこんな程度なのか。審判にばかり文句言って、おもしろくないな」って思われたら、機会損失です。選手が一番知っているべきことだと思うけど。

広瀬 アイルランドといういいお手本がありましたからね。あれは、理屈じゃないですものね。

川淵 ワールドカップの決勝で笛を吹いたイタリアのコリーナさんは、中田選手をほめていました。審判も皆が中田を尊敬しているんだってね。彼は審判に文句を言わない。

広瀬 痛がったりもしませんものね。

川淵 どうして中田を参考にしないんだって言いたいよね。アイルランドと中田というこんないいお手本がいて、真似できないわけがない。汚いプレーでなければ勝てないならやめたほうがいいという持論は決して変わりません。これが本当のスポーツマンシップですよ。

広瀬 そうですね。それがなかったら意味がないです。

川淵 意味ない。それは人生、生き方そのものでしょう。

広瀬 最後にしめていただき、ありがとうございました。(終わり)

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