広瀬一郎_書籍『スポーツマンシップを考える』_連載第14回_第3章スポーツマンシップを語る(2) 川淵三郎「スポーツマンシップとGood Loser」

“マリーシア”は必要か?

広瀬 Jリーグアカデミーの若年層ではなくて、現役の選手に望むことがありましたら。

川淵 ワールドカップ後、Jリーグが再開する前に多くのファンに賛同を得られるような、ルールを守り、フェアでひたむきなプレーを見せてほしいと選手にメッセージを送ったんだ。これらは日本のサッカーにまだまだ足りない部分だよね。“マリーシア”(俗にずるがしこさの意のポルトガル語)なんていう言葉を持ち出して、「多少汚いこともやらないと勝てない」、「それがやれない日本はダメ」と言わんばかりの風潮に対して僕は我慢ならないんだ。

 2002年ワールドカップでのアイルランド代表チームを見ましたか? あのアイルランドチームがJリーグの目指すところです。フェアで基本プレーがしっかりしていて、最後まで勝負をあきらめない。ひたむきなサッカー。彼らは汚いことをやっているのか? また、中田選手(イタリア、パルマ)は汚いことをやったり、審判に文句を言ったりしているか? そうじゃあないでしょう。でも彼は一流のプレーヤーとして誰もが認めている。だから、先ほども触れた一部マスコミの風潮に対しては、すごく腹が立つんです。

 フェアプレーができないなら、サッカーなんてやめなさい。ちょっと蹴られたら痛い痛いってひっくり返る選手が多い。アイルランドの選手なんかは、大ケガしている場合は別として、少々のことでひっくり返っていたらファンが許さないんだよ。そういう意味で、ファンがアイルランドの選手を育てたとも言える。すぐひっくり返っているような選手は、アイルランドチームにはいらないんですよ。

広瀬 確かに。

アイルランドチームの素晴らしさ

川淵 ああいうアイルランドのチームをつくった、アイルランドファンも素晴らしいよね。日本でも、アイルランドファンがものすごく増えているらしい。僕も、文句なしにアイルランドファン。

広瀬 サポーターが本当にサッカーを知っていますよね。

川淵 本当に素晴らしい。汚いことをやらなくても実際にアイルランドは勝てているじゃないか。日本人は本来性格的に、汚いことをやったり、審判に文句を言ったり、オフサイドラインでケチをつけたりするのは、皆嫌いなはず。

広瀬 謹厳実直な日本人には、あんまり似合わないですよね。

川淵 まったく似合わない(笑)。それをやること自体が許せないんです。ワールドカップを見て、皆いろいろ感じただろうけど、すぐにできることとできないことがある。今すぐできないことは、技術的なレベルの高さ。また、体力、精神力を見てもまだまだ韓国にも及ばないんじゃないか。技術的なものについては、自分の高いイメージをもって、毎日の練習の中でレベルアップして試合の中で表現していかないと、4年後には間に合わない。

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