シモナ・ハレプ「自分のメンタリティを変えたこと」
昨年(2017年)初の年間1位を達成したハレプ。今季こそグランドスラムタイトル獲得を狙っている。以前に比べて安定感が増し、プレーにも磨きがかかった。ダレン・ケーヒルとの師弟関係が大きなプラスになっているようだ。現地記者が好調の要因をレポートする。(文◎ムグレル・ドゥミトゥル)(翻訳◎池田晋)【2018年7月号掲載記事】
著者プロフィール
Mugurel Dumitru◎ルーマニア・ブカレスト出身。Digi Sport編集記者。サッカー、格闘技の記者、メディア制作会社を経て、現在はルーマニアのテレビチャンネル「Digi Sport」であらゆるスポーツをカバーする。
Simona Halep
シモナ・ハレプ
Secret of becoming No.1
ハレプが年間女王に輝いた秘訣
「自分のメンタリティを変えたこと」
世界ナンバーワンとして2018年を迎えたシモナ・ハレプは、今季の目標を初のグランドスラム優勝に定めている。「高いレベルで練習をしたい」と、今年は黒海に面したコンスタンツァ市内のスポーツ施設から拠点を移す決意をした。
そして今年もオーストラリア人のコーチ、ダレン・ケーヒルとの師弟関係を続けることにした。彼と組んでから、世界ナンバーワンという大きな壁を打ち破り、万年2位の不名誉から脱却することに成功した。さらに、ルーマニアの偉大な元選手、アンドレイ・パベルも昨年8月からチームに加わり、ハレプに好影響を与えている。
ケーヒルはハレプの2017年年末ナンバーワン到達の手助けをしたが、ルーマニア国内で批判の的となっていることに大きな不満を抱いているようだ。ハレプがキャリア最高のシーズンを終えた昨年末、ケーヒルはルーマニアの人々にはっきりとメッセージを送った。
「我々は多くの否定的な意見が飛び交う国にいる。しかし、その批判に私は同意しない。シモナはただシンプルに、継続してレベルアップしたいと思っている。彼女に“もっと攻撃的に戦うように”と言うのはナンセンスだ。彼女のような体格の選手にとって、常に攻撃的に戦うことは完全に愚かなこと。重要なのは、どのようにオープンコートをつくり、どのようにポイントを組み立てていくかなんだ。批判はいつも耳に入るけど、私はそれに耳を傾けない。批判をする人の中には、テニスの勝ち方のヒントもわからない人もいる。ナンバーワンになったからと言って“これ以上、上達する術がない”となるわけがない。自分にとって重要なのはテニスを肌で感じ、批判を気にせず落ち着いていることだ」と過去のインタビューで私に語っている。
また、ケーヒルは必要なときは、ハレプにプレッシャーをかけることを厭わないという。「彼女にとって何がベストかを常に考えている。キャリアの中で自分がもてる力を存分に発揮してほしい。もし、自分よりもそれを上手にできる人物が登場して、彼女が目標を果たせるなら、それはそれでOKだ。自分が完璧ではないことはわかっている。彼女に必要以上の要求をしたこともあった。もしかしたら、それが自分の弱さなのかもしれない。、彼女があまりプレッシャーを感じ過ぎてないことを願っている。自分が一定期間をオーストラリアで過ごし、いっしょに行動しない時間があってもいいのかもしれない。それでプレッシャーを和らげられるだろうから。自分が厳しいコーチだということは認めるよ」と語った。
ケーヒルがチームに加わったことで、ハレプに急激な変化が生まれた。特筆すべきは、彼女のプレースタイルを変化させたことだ。もし、以前のように頻繁に“相手のミス待ち”をしていたとしたら、現在のレベルには達していなかっただろう。現在はよりリスクをおかし、アグレッシブなプレーで、決定的なショットを打つ意識が高まっている。
しかし、もっとも重要なことは、ハレプが精神的な落ち着きを手にしたことだろう。過去に一度、ハレプに自分のメンタルがプレーにどの程度影響するか、1から10で表してほしいとお願いしたことがある。彼女は息をつく間もなく、10(著しく影響する)と即答した。
「またチャンスはある」と思えるメンタリティ
2018年に入ると、彼女は完全にプレッシャーから解き放たれたようだ。彼女は今コートで自分が何をすべきかに集中しており、プレーの1分1秒を楽しみたいと思っている。
「今は1位であることをプレッシャーには感じていない。この位置はすでに昨年から経験しているから。リラックスしてプレーしたいと思うよりも、いい試合をしたいという気持ちのほうが強い。以前は結果を気にし過ぎていた。コートに立って、一つひとつのポイントに集中して戦えることは、すごくいい気分。ポイントを勝ち取り、そして試合にも勝ちたい。最後に結果がついてくればいい」とハレプは語った。
ハレプの成長の過程で、敗戦から学ぶ姿勢は素晴らしいポイントだ。ロラン・ギャロスの決勝での2度の失敗(14年対シャラポワ、17年対オスタペンコ)、さらにトップに立つチャンスを何度も逃した経験によって、彼女は強くなった。よりアグレッシブに戦うことを学び、重要なのは精神的にタフになったことだ。彼女の哲学は正しいように見える。彼女の最大の夢はグランドスラムを獲ることだと自身も認めるが、もし失敗したとしても、今なら優しくその失敗を包み込めるだろう。彼女は、今後また決勝で敗れることがあっても、チャンスは何度でもあることを理解している。以前よりも余計なプレッシャーは、ほとんど感じなくなっている。
過去に何度もケーヒルと衝突することもあったが、彼との共同作業で継続的にプレーの向上が見られていることを認めている。
「初めてダレンに会ったとき、彼はとてもリラックスした様子で、テニスは気持ちをむき出しにして戦うだけのスポーツじゃないことを教えてくれた。以前よりもコートで笑ったり、リラックスできるようになった。それは大きな助けになっている。彼との関係は素晴らしく、今後何年も続くことを願っている」
ケーヒルの助言によって、ハレプは自分の思考を変え、彼を含めたチームみんながポジティブになることを強くすすめてくれたという。
「自信があれば、いいプレーができるし、ミスをしても気にならない。ミスを受け入れられるようになることはとても難しかった。でもそれができてから、だいぶ気持ちが楽になった。気持ちがネガティブだと、すべての試合に負けてしまう。この数年間、コンスタントにトップ10に入っている中でも、大きなアップダウンがあった。自分の人生とテニスにおいて、自分を信じることがとても重要。今はテニスにメンタル面が影響するのは80%くらいかな」と笑顔を見せた。
自分を売り込む術を知らず、中国製ウェアで全豪決勝進出
話は変わり、今年初めはスポンサーとの契約問題に揺れた。アディダスとの契約が切れた後、自分のイメージをどのように売り込めばいいのかわからず、どのメーカーとも契約していなかったのだ。問題だったのは、オーストラリアン・オープンの期間中は、ソーシャルネットワークで彼女の姿を見られなかったことだ。それでも彼女のフェイスブックのフォロワーは130万人もいる。その損失は何千ユーロにも上ると言われた。
そこでハレプは中国のサイトで赤いウェアを注文してオーストラリアン・オープンに登場した。中国サイトの裁縫師に写真を送って注文すると、24時間以内にウェアが届き、大会に間に合ったという。
大会後、ハレプはアメリカの巨大スポーツメーカー、ナイキと契約を結んだ。ナイキが女子の世界ナンバーワンと契約を結ぶのは、セレナ・ウイリアムズ以来のことだった。この契約でハレプは80万ドルを受け取ったという。アディダス時代よりもかなり高額で、実際にはすべてを含めると、総額200万ドルにも届くと予想されている。
最良のコーチに出会い、スポンサー問題も解消され、いよいよグランドスラム獲得に動き出す。今年1月にオーストラリアン・オープンで3度目のグランドスラム決勝を戦ったが、カロライン・ウォズニアッキに敗れて準優勝。それでも前を向いて次のチャンスを虎視眈々と伺っている。5月27日に始まるフレンチ・オープンでは優勝候補のひとりに数えられる。だが、今のハレプなら余計なプレッシャーを感じることなく、伸び伸びと赤土で躍動するだろう。
PLAY BACK GRAND SLAM FINALS
グランドスラム決勝で3度涙をのむ
2014 FRENCH OPEN FINAL
○シャラポワ 6-4 6-7(5) 6-4 ハレプ●
22歳で初のグランドスラム決勝進出。シャラポワに強烈なショットを打たれても、相手を左右に振って対抗。第2セットのタイブレークを3-5から逆転したが、最終セットで振りきられた。3時間を超える激しいバトルを終えて「終わって泣いたけど、自分の力を精一杯出せたから、すぐ笑顔になれた」と語った。
2017 FRENCH OPEN FINAL
○オスタペンコ 4-6 6-4 6-3 ハレプ●
第1セットを先取、第2セットも先にブレークして3-1としたが、そこからまさかの5ゲーム連取を許す。失うものがない20歳が放つ強打の連続に振り回された。相手のウィナー54本、アンフォーストエラー54本に対し、ハレプは前者が8本、後者が10本。「私のプレーが悪かったと思わない。運がいつも彼女に味方した」と肩を落とした。
2018 AUSTRALIAN OPEN FINAL
○ウォズニアッキ 7-6(2) 3-6 6-4 ハレプ●
第1セットは緊張からミスが目立ち、何とかタイブレークに持ち込むが、落とす。第2セットは緩急をつけて相手を翻弄して6-3で取り返すが、最終セットはブレーク合戦となり、4-5から3度目のブレークを喫して力尽きた。「負けたことは悲しいけど、今日できることは100%トライした」と胸を張った。
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